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高等部に進級しました

190:まず1歩

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 タウンハウスに戻った翌朝、
久しぶりに俺はルイと登校した。

昨夜は俺がタウンハウスに
戻ったことをルイは
学園から帰宅して知ったらしく、
すぐに俺に会いに来た。

義兄はまた王宮に戻ってしまったので
俺はついルイに「兄様と喧嘩した?」
と聞いてしまう。

その言葉にルイは「まさか」と
笑ったが、何もしていないとは
言わなかった。

何か義兄を怒らせるような真似を
したのだろうか。

問い詰めたがルイは何も言ないし
俺は仕方なく聞き出すのを諦めた。

「兄様をあまりいじめんなよ」
とだけ言って会話を終えたが、
ルイはニヤニヤ笑うだけだった。

ルイがああいう笑みを浮かべるときは
禄でもないことを俺は知っている。

ルイは人を揶揄うことと
事態をややこしくすることを
楽しむようなところがあるからな。

義兄にはそれを教えておこう。
真面目に付き合うと、
義兄が参ってしまうかもしれない。

いや、待てよ?
ルイは義兄のことが
好きなんだったっけ。

もしかしたらルイは
好きな相手ほど
イジメたいタイプだとか?

やっぱり俺はルイの恋を
応援なんてできないぞ!

そんなことを考えながら
俺はその日の夜を終えて、
翌朝は元気よくルイと一緒に
馬車に乗った。

ルイは眠そうにしていて
学園が終わったら
すぐに試したいことがあると
研究の話をする。

俺はその話を聞きながら
学園に着き、馬車から下りると
クリムとルシリアンが
待っていてくれた。

久しぶりの登校に
二人は喜んでくれたし、
物凄く心配してくれていたようで
俺は恐縮しつつ、
ルイも一緒に教室に向かった。

またいつもの日常が始まり、
俺はティスとのことを
考えなければと思いつつ、
今は友達との時間を楽しもうと
自分勝手なことを考えていた。

そんな時だ。
昼休みになり、
食堂に向かった時、
ティスの姿を見つけてしまった。

ティスも俺に気が付いたようで
立ち止まり俺を見ている。

俺の心臓がドクドク鳴った。

「「アキ様?」」

俺が急に立ち止まったので、
前後で俺を挟むように
歩いていたクリムも
ルシリアンも立ち止まって俺を見る。

二人に声を掛けられたが
俺は動けなかった。

二人は俺の視線の先に
ティスがいることに
気が付いたようで
すぐに頭を下げる。

ティスはそばに居た護衛に
何やら耳打ちをした。

すると護衛は頭を下げて
まっすぐに俺のところに
向かって歩いて来る。

俺たちと接触する前に
後ろで待機していた
キールが俺たちの前に出た。

護衛とキールが何やら話し、
護衛は話し終えるとまた
ティスのそばに戻る。

「アキルティア様」

キールが身をかがめて
俺の耳元で小さく言う。

「殿下が昼食をご一緒したいそうです。
その……できれば、二人きりで」

え、無理。

って思わず言いそうになって、
俺は両手で口を塞いだ。

キールもクリムも
ルシリアンも、何してんだ?
って顔になったけれど、
俺は言い訳もできない。

というか、
挙動不審になってるのは
理解しているのだが、
心臓がドクドクしてるし、
手足が震えてきてるし、
ついでに顔も熱い。

「アキルティア様?
体調が悪いのでしたら…」

キールが俺の様子に気が付き
そう声を掛けてくれたが、
俺は首を振った。

いつまでもティスを
避けているわけにもいかないし、
今の気持ちだけでも、
ティスに正直に話そう。

俺は首を振り、
クリムとルシリアンに視線を向けた。

「あのね、ティスが
僕と二人で昼食を食べたいって。
いいかな?」

もちろです、と二人は
快く頷いてくれたので
俺は二人に、ごめんね、と
ありがとうを伝えて
キールと一緒に
王族だけが使用できる
特別室に向かった。

何度かこの部屋でティスと
ランチを一緒に食べたことがある。

その時はクリムも
ルシリアンも一緒だったから
二人っきりになることは
なかったけれど。

人をダメにする
ふかふかのソファーがある
特別室だ。

特別室に着いたら
ティスの護衛がドアを開けてくれて、
キールはドアの外で待機になった。

部屋に入ると、
ティスはいつも通りに
笑って俺を迎えてくれた。

ランチはすでに
用意されていて、
ティスに促されて座ると
目の前には湯気がでている
ミルクティーが置いてあった。

準備の良さに俺は驚く。

いや、もしかしたら
俺が学園に来たら
すぐに誘えるように
ずっと準備をしていたのかもしれない。

「アキ、良かった。
ずっと休んでいたから
心配してたんだ」

ティスはそう言いながら
向かいの席に座り、
俺にランチを食べるように言う。

「うん、ごめんね。
熱がでちゃって……

いつもならタウンハウスで
療養するだけなのに、
領地に戻ってしまったから。

母様に会ったら、
タウンハウスに戻れなくなっちゃって」

こう言う言い方をしたら
俺が母に甘えて
離れられなかったのではなく
母が俺を離したくなかったと
受け取ることもできるだろう。

そう思ったのに。

「ジェルロイドから聞いてる。
母君に会いたいと
泣いてしまったとか」

義兄!
義兄よ!
何故そんな話をわざわざする!?

「もう、大丈夫か?」

優しく言われ、
俺は頷くしかできない。

ティスに促され
俺はスープを飲んだが
ティスに恥ずかしい過去を
知られたショックで
胸も腹もいっぱいだ。

「食欲ない?」

だがティスにそう聞かれ
俺は首を振り
必死で食べる。

心配を掛けたいわけではない。

だが、目の前のティスの
甘い視線に、
どうしていいかもわからない。

ティスはずっとこんな目で
俺を見ていたのか?

優しい表情で。
時折心配そうに
俺を気遣って。

俺は無性に恥ずかしくなって
なんとかランチを食べたけど
何も言えそうにない。

ティスはそんな俺を見て
困ったような顔をした。

「ごめんね。
アキを困らせたかった
わけじゃないのに」

そう言ってティスは
立ち上がると
俺の隣に座った。

そしてそっと俺の手を握る。

「今までと同じだよ。
何も変わらない。ね?」

違う。

何も変わらないなんて、ない。

だって。
俺の気持ちは、
こんなにも乱れているのに。

同じなわけ、ない。

「ティス、話、聞いて?」

俺がやっとのことで
声を絞り出すと、
ティスは優しく頷いた。






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