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溺愛と結婚と
171:新しい学び舎
しおりを挟むオーリーの話は俺にとっては衝撃だった。
王家主導で新しく古書や古語を研究する機関を
これから作ることになったらしい。
オーリーは魔法師団長だか
その研究所の所長も兼ねると言う。
そして俺にその研究員第一号として
推薦したいというのだ。
というか。
これ、俺のための研究所だよな?
だってこの世界で今、
古語や古書を読めるのは俺だけだし。
だが今後、この研究所で
俺が古書を読み解いたり、
翻訳したものを使って、
幅広く過去の歴史を学べる場を
作っていきたいとオーリーは言う。
それこそ俺が前世でいう
あいうえお順の表や
英単語帳のようなものを作ったら
誰もが古書を読めるように
なるかもしれないし。
何年先になるかはわからないが、
学校の授業でも古語を
取り入れれることが
現在の目標なんだとか。
それを踏まえて
今後は魔法学の学部を増やすか
高専で魔術学科を増やすか。
もし増やすとしたら
担当できる教師はいるのかとか
そういった話になる。
しかももし俺が
飛び級をするのであれば
高専で魔術学学科を作り
生徒は俺一人しかいないし、
教師もいないけれど、
研究所も兼ねて実績作りを
するような案まででてきた。
いやではない。
いやじゃないけど。
でも一人ぼっちの学部で
勉強しても楽しくない。
そんなんだったら
学校に通わずに研究所とかで
ひとり自由に研究させてくれた方が
よっぽど嬉しい。
それに俺は飛び級なんて
したくないし、ミゲルや
ヴァルターたちとのんびり
楽しく学生生活を過ごしたいんだ。
と。
俺も言えたらいいのだが。
どうにも俺が声を挟める雰囲気ではない。
このまま俺抜きで勝手に
話が進んだら嫌だな。
でも、オーリーがこの話を
わざわざ校長先生に言いに来たのだ。
きっと陛下たち国の
中枢の人たちの間では
決定事項なんだろう。
なんか嫌だ。
俺の人生なのに。
勝手に決められてない?
俺、どんどん唇が尖っていくぞ。
そう思ってたら、
ヴィンセントがオーリーの話を
途中で止めてくれた。
「師団長、イクスが嫌がってる」
「ん?」
オーリーが俺を見た。
「なんだ?
可愛く口をとがらせて。
不満か?」
うん、って頷いてもいいのかな。
俺が曖昧な顔をすると
オーリーは、なるほど、と言う。
そして校長先生に向き直った。
「この提案はすでに陛下から
許可が下りて王宮でも
文官たちが動いている案件だ」
校長先生は、わかりました、と
頷いた。
「イクスがどうするかは
本人の意思に任せると
陛下は言ってはいるが。
恐らくイクスは古語を読み解いた
第一人者になるだろう」
新たな学部が成立するタイミングで
陛下から褒賞が貰える手はずになっている、
なんてオーリーは言う。
本気か。
でも俺の意志に任せるんだから
新しい学部が何年後になるかは
まだ決まってないんだよな。
俺がヴィンセントの服を手放すと
今度はヴィンセントに
そっと手を握られた。
うん、安心する。
オーリーはそんな俺たちを
横目で見て話しをまとめた。
つまり「すべて未定だが
決定事項だ」と。
そして立ち上がったオーリーに
つられて俺たち全員が
ソファーから立ち上がり
校長先生に見送られて
部屋を出た。
だが、俺はこれで
解放されるわけではなかった。
この話をするために
一緒に王宮に行かねば
ならないらしい。
なんでだよ。
俺は、のんびり楽しい
学生生活をおくりたいんだ。
と、ヴィンセントだけなら
言ってたのだが、
オーリーが一緒だから
自己主張もできない。
俺は内弁慶タイプなんだ。
オーリーが馬車を学校の
正面に回すと言うので
俺はヴィンセントと一緒に
教室に鞄を取りに行く。
教室に戻るとすでに
ミゲルもヴァルターも
戻ってきていたが、
俺が王宮に呼ばれて
早退すると告げると
心配そうな顔をした。
「大丈夫、心配するような
ことじゃないから」
俺は二人に大きな
手ぶりをして伝える。
「事件が起こったとかでもないし、
ほら、トラブルメーカーの
レオも帰国したでしょ?
だから大丈夫、大丈夫」
そう。
俺は後から知ったのだが、
王都がどうなるのか
わからなかったため
陛下はレオナルドを
無理矢理帰国させたらしい。
驚いたけれど、
必要なことだったと思う。
だって何かあったら
国際問題になったかもしれないし。
それに言ったら申し訳ないけど
レオナルドがいないだけで
かなり平和な学生生活を
おくれると思う。
いいやつだったけど、
あの猪突猛進で人の話を
きかないところは
かなり困ったちゃんだったからな。
俺がそう言うと二人は
「もしかしてまたレオ殿下が
留学してくるとか
言われるんじゃないか」と
怖い話をしはじめた。
それも可能性が無いわけではないし
俺は曖昧に返事をして
ヴィンセントが待つ教室の
外へと出る。
ヴィンセントは校舎の中では
俺のすぐ後ろを歩いていたが
校舎を出た途端、隣に来て
俺の手を握った。
「突然の話で驚いただろう」
「うん。でも、話の流れとしては
あり得ることだと思った」
「そうか」
とヴィンセントは頷く。
陛下も俺の『力』を野放しには
できないだろうし、
かといって、俺を蔑ろにして
国にしばりつけることもできない。
それなら、ヴィンセントと
結婚させて、俺がやりたいと
言っていた古書の研究ができる
場所を創り、俺に提供することで
俺をこの国に留めておこうと
思ったのだろう。
俺が陛下でも似たような対策をすると思う。
だからその計画に異を唱えることはない。
ただ俺がその計画に
乗るかどうかは別問題なのだ。
「イクスは嫌なのか?」
「嫌……じゃない、けど」
「けど?」
「今は僕、ミゲルやヴァルター、
クラスメイトの皆と一緒に
学校生活を楽しみたいんだ」
俺がどうするのかを決めるのは
卒業してからにしたい。
俺はまだ子どもなんだ。
16才だぞ。
前世で言えば高校生だ。
人生を決めるのはまだ早い。
と、言えないのが辛いところだ。
前世と違ってこの世界は
貴族がいる封建社会で、
子どもと言えども、
家柄や家系といったしがらみも
かなり強く着いて回る。
俺がそれを意識せずに
行動できているのは
俺が公爵家の次男であり、
父やハーディマン侯爵家に
守られているからだ
それでも陛下の決定を
覆すことができるとは思えない。
どうしたものか。
俺はやや憂鬱になりながら
ヴィンセントと一緒に
オーリーが待つ馬車へと向かった。
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