【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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溺愛と結婚と

127:閑話 兄が大好きなある妹の話

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 私はリビングの片隅にある
兄の仏壇にスポーツドリンクを
お供えして「スポドリだよー」と手を合わせた。

今日は久しぶりに仕事を休んだ。

最近、ちゃんと寝てなかったせいで
体調が悪くなってしまい、
休暇を取ったのだ。

リビングの壁に掛けてある時計を見ると
まだ昼すぎだ。

もっと眠っていたと思うのに
仕事が無い時に限って
時間は過ぎるのが遅い。

私はいつもは省略している
ロウソクと線香に火をつけた。

もともと仏壇は兄の部屋に
置いてあったのだが、
仏壇は小さなものだったし、
リビングにあった方が
勝手がいいから
テレビ横にある棚に移動した。

もともと、イクス様の設定集を
飾っていた私設祭壇のような
場所だったから、仏壇を
置いても違和感はない。

「今日はね、休みだから
遅刻じゃないよ。
心配しなくていいからね。

イクス様、おはようございます。
相変わらず尊いお顔で素晴らしいです」

仏壇を置いている棚の横には
兄の遺影を置いていたけど、
その隣には尊いイクス様の
イラストを並べて飾っている。

私はいつも兄の遺影と
このイクス様に話しかけるのが
日課になっていた。

何故ならば、兄はイクス様なのだ。

こんな話、誰も信じないと思うが
本当のことだ。

両親が亡くなった後、
私を育ててくれた兄は
亡くなった後、私の最推しの
イクス様に転生したのだ。

最初は私だって信じられなかった。
でも、確かに兄はイクス様の姿で
私に会いに来てくれた。

そして話してくれたのだ。

私のイクス様を想う気持が
力となり、兄をイクス様に
転生させたことを。

しかも、私がイクス様を
推せば推すほど、その想いが
力となり、兄の世界の魔力となり
兄兼イクス様は強力な力を
得ることができるらしい。

……たぶん。
そんなことを言っていたと思う。

私も驚いていたし、
あの時の兄は焦っていたようだし
そばには何の事情も知らないであろう
ヴィンセント様もいたので
ちゃんとした説明はなかった。

でも、大方間違ってないと思う。

だから私はそれから
精力的にイクス様を
推す活動を始めた。

元々、絵を描くのが好きで
イクス様の同人誌を作って
オンラインで公開していたし、
同志を集めるなんて簡単だった。

私がイクス様を推せば推すほど
私を可愛がって育ててくれた
兄が幸せになる!

私はそう思って頑張った。

イクス様を愛でる会を作って
お茶会を開いたりもした。

イクス様は元々、
パズルゲームの主人公だ。

パズルを解けば
BLシナリオを読むことが出来て、
イクス様の相手は自分で
選ぶことができる。

というか、
自分が読みたい相手のシナリオを
パズルを解くことで得たポイントで
読み進めて行けばいいのだ。

私はパズルが苦手だったので
シナリオを読むために
兄にパズルを解いてもらっていた。

私の最推しはもちろん
イクス様だが、
イクス様のお相手は
最初はあまり気にしてなかった。

イクス様が愛されている
ストーリーを読むのが楽しくて、
イクス様の恋の相手は誰でも良かったのだ。

でも、イクス様が尊過ぎて
……と私は思うけれど、
とにかくゲームの人気が急にでてきて
イクス様はアニメになった。

アニメのシナリオでは
イクス様の恋の相手は
第一王子のカミルだった。

別にいいけど。
私はヴィン様がよかったな。
声優さんの声もカッコいいし。

でも、公式は一番身分の高い
王子様がいいと思ったんだろうな。

理解はするけれど、
イクス様は多くの人に愛されるのが
推しポイントだから
公式でカップリングを決めるのは
止めて欲しかったな。

私はアニメを見てそんなことを思った。

ただアニメではカミルが
イクス様の恋の相手だったけれど
ゲームではイクス様を愛する
恋愛対象は5人いる。

第一王子のカミル、
その弟のクルト

騎士であるヴィン様と
あとから追加された
隣国の王子、レオナルド。
それから、護衛のアキレス。

どのストーリーも素敵だが
やはり私はヴィン様こと
ヴィンセント様が一番だと思う。

年の離れたヴィン様と
幼いイクス様のエピソードは
腐女子を萌え死にさせる
胸きゅんものばかりだった。

それに現在、兄兼イクス様の
婚約者もヴィン様らしい。

これは実際に兄兼イクス様から
聞いたから間違いがない。

そこで私はヴィン様とイクス様の
尊い愛を綴る物語を
暇を見つけてはひたすら
描いて公開した。

そうやって活動しているうちに
ある出版社から声を掛けられた。

私の公開している
イクス様の漫画を見てくれたらしい。

そしてコミカライズを
出版してみないかと
打診されたのだ。

驚きしかなかった。

けれど、これにはちゃんと
からくりがあって、
私の恋人……もうすぐ
結婚する彼が、仕事で出版社の
人と出会い、私の話をしてくれたらしい。

彼の仕事は広告代理店なので
出版社の人と仕事をすることは
珍しくない。

今回紹介された出版社は
ゲームシナリオや小説を
コミカライズにして出版することを
メインにしている会社らしくて、
歴史は物凄く浅い。

ただ勢いがある会社らしく、
今、新人を育てることに
力を注いでいる会社だという。

彼に背中を押されて
出版社の人の話を聞いてみると、
今回の私へのオファーは
ストーリーは公式シナリオとは
関係なく、私のオリジナルで
進めても構わないという話だった。

なんでも、公式のシナリオ作家さんが
私のヴィン様×イクス様の作品を
読んでくれているらしく、
ぜひ私の世界のヴィン様とイクス様を
描いて欲しいと言ってくれたのだ。

こんなに嬉しいことはない!
私は出版までの締切りに
かなりのゆとりがあることを
確認して、仕事を受けることにした。

私はずっと兄に感謝していたし
いつか兄に恩返しをしたいと
思っていた。

私は大学を卒業してすぐ
小さな設計事務所で働いた。

仕事は大変だけど
やりがいがあるし、
私が頑張っていると兄は
嬉しそうな顔をしていた。、

疲れたり、仕事でミスして
落ち込んだりして
ソファーに座っていると
さりげなく頭を撫でてくれたりした。

私にとっての兄は、
兄であり父であり、友人であり。
私の人生の土台だったと言っても
過言ではないぐらいの存在だった。

兄に頭を撫でられるだけで
頑張れると何故か思うことができた。

職場は忙しい時と
暇な時の落差が激しい職場だった。

そのことで兄には
心配をかけていたと思う。

けれども、その職場で
広告の営業に来ていた
彼と出会ったのだ。

そこから彼との交際が始まり
結婚の話が出た時は
兄は物凄く喜んでくれた。

だから誰よりも兄に
私のウエディングドレス姿を
見せたかったのに、
兄は私が結婚の話をした後、
すぐに事故で亡くなってしまった。

悲しくて、苦しくて。

彼がずっと私のそばにいてくれたけど
私はもう兄に恩返しができないのだと
そう思うだけで胸が痛み、
涙がこぼれた。

でも。
でも、今は違う。

もう兄には会えないかもしれなにけれど
私がイクス様を推すだけで
イクス様を幸せにするだけで
兄も幸せになるのだ。

……そう思う。
いえ、そう思うようにしていた。

私は夢中でイクス様の漫画を描いた。

仕事が終わった日の夜も、
休みの日も夢中で描いた。

もちろん、出版社から受けた
仕事の漫画だって
平行して作業をしていた。

イクス様が愛されて
幸せになる姿を生み出すことが
私が兄に対する感謝と、
何も返すことができなかった罪を
贖うことができる
唯一の手段だと思ったからだ。

そうやって仕事して
漫画を描いて、仕事をして……

と、連日頑張っていると、
さすがに疲労がたたって
体調が最悪になってしまった。

今日は職場の上司がそんな私を
心配して、平日だと言うのに
休暇を取るように指示してくれたのだ。

だからこそ久しぶりに
ゆっくり寝ることができた。

久しぶりに眠ったら
思考もクリアになってきて
またバカなことしちゃったかな、って思った。

こんな時、お兄ちゃんだったら
「バカ妹! なにやってる。このバカ!」
って私を心配してくれて
私は「バカって2回も言った!」
って拗ねて怒ったと思う。

そんなやり取りが懐かしい。

「また会いたいよ、お兄ちゃん」

イクス様が愛される作品を
どんなに作っても、
本当に兄がそれで幸せに
なっているのかわからない。

けれど、私が描かなくなったら
イクス様になった兄が
不幸になるのでは?と思うと
作品を描くこともやめられない。

好きでやってたことなのに。
イクス様が大好きで、
お兄ちゃんが大好きだったのに。

「なんか、しんどくなってきちゃった」

私がぽつんと吐き出した言葉は
誰もいない部屋にやけに響いて消えた。


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