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溺愛と結婚と
124:悩み相談
しおりを挟む俺は焦りつつも
「母様が……」と誤魔化すように
声を出した。
「母様がね、
ヴィー兄様と結婚したから
新婚期間の許可を出す?
みたいなことを言てって。
それってどういう意味かなって思って」
俺の言葉に二人が
ぎこちなく頷いた。
「あぁ、そういうこと」
「そうか、びっくりした
イクスがやることとか言うから」
なんで俺がやることを聞いたら
驚くんだよ。
って思ったが話が進まないので
聞かなかったことにしておく。
「新婚期間っていうのは
結婚した二人が
ずっと一緒に居ることですよ」
とミゲルが言うが、
それなら俺の知ってる
新婚と同じ意味じゃないか。
「騎士だと、
結婚したばっかりの時に
新婚期間にすることが多いけど
文官とかは違うよな?」
ヴァルターが言いながら
ミゲルを見る。
「そうですね。
時期によるとは思うけれど」
どう言う意味だ?
「新婚は結婚したばかりだから
新婚じゃないの?」
俺が言うとミゲルはそうだけど
と、言いながらも首を振る。
何でも新婚期間というのは
騎士も魔法師ももちろん文官も。
どんな職業であっても
期間の長さに違いがあれど
必ず休みが貰える期間らしい。
騎士は結婚したばかりの時が
一番休みやすいし、
休んでいる理由も
理解してもらいやすいから
たいていは結婚してすぐに
新婚期間にする。
だが逆に
文官や王宮に勤める者は
仕事によって休みやすい
時期もあるし、
新任の時や人が少ない部署などは
どうしても引継ぎなどもあって
休み辛い。
そう言った場合、
無理に結婚してすぐに
新婚期間の休暇を取らずに、
他の部署から助っ人を呼んだり、
他の人たちのスケジュールと
調整してから休暇を取るので
人によっては
結婚してから何年も経ってから
新婚期間として休暇を
取る人もいるようだ。
ということは、
別に今すぐ俺とヴィンセントが
新婚になる必要はないってことだな。
なんだ。
母が許可を出すとか
たいそうなことを言うので、
何事かと思った。
俺がハーディマン侯爵家に
泊まりに行っても構わない、って
意味できっと言ったんだな。
「じゃあ、僕はまだまだ
新婚にならなくても
大丈夫ってことだよね」
俺がうんうんと頷くと
二人は微妙な顔をする。
「それを決めるのは
僕たちじゃないから」
とミゲルが控えめに言うが
俺はもう大丈夫だ。
新婚の意味合いがわかったら
今度はもっと大事な相談だ。
俺の意識はすでに
次の議題に移っている。
「あのね、新婚の話はおいといて」
「もういいのか?!」
ってヴァルターが言うが、
もういいのだ。
理解した。
「それよりも
もっと大事な相談があって」
「もっと大事な!?」
ヴァルター、うるさいぞ。
「結婚より、新婚期間よりも
大事な相談って、
なんだか聞くのが怖いけど」
ミゲルまでビビってるが
俺だってびびってんだ。
なんたって……
「僕ね」
「うん」
「おう」
「ヴィー兄様のことが
ものすごく、好き……みたい」
めちゃくちゃ頑張って
俺が顔を熱くしながら言ったのに。
二人は無反応だった。
むしろ、表情が抜け落ちた顔で
黙って俺を見ている。
「な、なんで驚かないの?
僕が、ヴィー兄様を
物凄く、好きって言ってるのに」
何故だ!
「いや、なんで今更……?
そんなの、俺と出会った時から
それから初等部の頃から
知ってたけど?」
戸惑うようにヴァルターが言う。
が。
「知ってた!?
なんで!?」
俺の恋心がバレてた?
「……毎回、
ヴィー兄様好き、って
言ってたから、
逆に、好きじゃないって
言われたら驚くと思うけれど」
ミゲルの言葉に、
そうか、と思うけれど、
違うんだ。
「そうじゃなくて、
僕ね、ヴィー兄様が
ずっと好きだったけど、
その好きじゃないんだ」
どう言えばいいのか。
これは、あれだな。
あの言葉しかないな。
「そのね。
今回の結婚のことで
僕、ハーディマン侯爵家に
嫁ぐんだって理解したというか。
その、ヴィー兄様のこと
好きなんだけど、
そうじゃなくて……
あ、あ、愛してるんだって
思ったんだ」
うぁー!
言ってしまった。
ヤバイ。
顔が熱いし、
恥ずかしくて仕方が無い。
早く何とか言えよ、二人とも、
思わず俯いて早口で
言ってしまったが、
俺は思い切って顔を上げる。
と。
俺の言葉に、
口を開けて無言で
俺を見つめるヴァルターと、
これまた俺の言葉に
顔を真っ赤にしたミゲルがいた。
うわ。
やっぱり人選を間違ったかも。
だって二人はまだ
16歳なんだぞ。
イクスが子供なら
同級生の二人だってまだ子どもだ。
中身前世の俺が
一番年長者なんだ。
「ご、ごめんね。
今の、やっぱり忘れて」
俺は慌てて手を振ると、
その手をミゲルががしっと掴んだ。
「大丈夫、それより
何を悩んでるの?」
今度は何故かミゲルが
顔を真っ赤にしながら
前のめりになって俺に聞いて来る。
「え、うん、あの。
ヴィー兄様のこと、
あ、愛してるって思ったら、
急に恥ずかしくなって。
今までヴィー兄様と
どうやって接してたか
分からなくなったと言うか
今迄みたいにできなくなったというか」
しどろもどろに言うと、
ミゲルは、わかる、と俺の手を
ぎゅっと握る。
「相手は年上だし、
なんか余裕っぽいし。
急に手を繋がれたりしたら
恥ずかしくて、
逃げたくなったりするよね」
ミゲルもそうなんだ。
というか、ミゲルもエリオットと
手を繋いだりとかするんだな。
いや、注目すべきはそこではない。
「逃げたくなったら、
ミゲルはどうするの?」
「うーん、逃げれないけど、
逃げちゃうかも」
どう言う意味だ?
「目を合わせるのができなくて
俯いちゃったりとか。
でも、僕のペースで大丈夫だよって
言ってくれるから、
徐々にだけれど
僕も頑張って慣れていこうって
思ってるんだ」
そうなんだ。
ミゲルも俺と同じなんだ。
「いいよなー。
婚約者がいる二人はさ」
ヴァルターが拗ねたように言う。
「俺んとこは
やっぱり辺境だからな。
王都から遠いし、
嫁の来手はないよな」
ヴァルターが肩をすくめる。
ヴァルターはいいやつだし、
めちゃくちゃ強いらしいし。
女子にも人気があると思うんだけどな。
でも学校は男女別になってるし、
ヴァルターも俺と同じで
社交場にはあまりでないようだから
女子と出会う場がないんだろうな。
「まぁ、俺はきっと
政略結婚ってことになると思う」
「そうなの?」
俺が聞くと、
ヴァルターは頷く。
貴族では政略結婚が主流だ。
俺やミゲルのケースは
珍しいらしい。
「ヴィー兄様がいなかったら
僕がヴァルのところに
嫁いでもよかったけど」
ヴァルターとは気が合うし
友人だし、どんな相手かも
わからないのに
結婚する政略結婚より
俺と結婚した方が良いかもと
俺がそう言うと
ヴァルターは、ぶるる、と
身体を震わせた。
「そういう冗談は
ここ以外では絶対に
言ったらダメだぞ」
「うん?
なんで?」
「俺の命が危ないからだ」
ヴァルターはすぐに
『命が危ない』ばかり言うが、
命を懸けすぎなんじゃないのか?
冗談を言うだけで
命の危険があるなんて
どんな生き方してるんだよ、って
ツッコミたくなる。
まぁ、騎士科にいると
そういう風になってしまうのかもしれないが。
とにかく二人に話を聞いてもらって良かった。
ヴィンセントにどう接していいか
よくわからなくなっていたが、
ミゲルだって同じような
状態になってるみたいだし。
ようは慣れていくしかないってことだな。
よし。
俺はひそかに拳を握る。
次にヴィンセントに会ったら
いきなり抱きついたりはしない。
ついでに、好き、とも言わない。
それから恥ずかしくなったら、
逃げないけど、逃げる。
これでいこう!
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