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溺愛と結婚と
123:アダルト案件?
しおりを挟む俺が教室の扉を開けると
やはりミゲルがいた。
ただし、本を読むでもなく
ヴァルターと一緒に
教室の入り口をじっと見ている。
教室に入るなり俺は
二人に鋭い視線を向けられ
一瞬、足を止めた。
もしかして俺を待っていたのか?
若干びびりながら二人に
朝の挨拶をすると
二人はやはり俺を待っていたのだろう。
挨拶もそこそこに
二人は俺を教室の隅の席に座らせた。
「えっと、ヴァル、朝練は?」
ヴァルターもいつも朝は早いが、
騎士科の朝練があるからだ。
「今日はいい、休む」
とヴァルターは真剣な顔で言う。
俺のこと、心配してくれてるんだよな。
俺は二人に急に早退して
休んだことを謝罪して、
心配してくれた礼を言う。
だが二人は頷くものの
そんなことを聞きたいわけではない、
という顔をした。
しかもヴァルターは物凄く
あからさまに首まで振る。
俺の話を聞きたらしい。
俺は新婚に関しての
相談がしたかったのだが
まずは何があったのか説明しないと
話は進まないみたいだ。
「えっと、二人はどこまで
僕のことを知ってるの?」
心配してくれているようだし、
きっと何らかの情報を
二人は持っているのだと俺は思った。
高位貴族は王宮内に
自分の家の者を潜ませていると
聞いたことがある。
それは侍女や侍従といった
使用人としてだったり、
自分の家の分家の者を
文官や騎士として
送り込んだりしているらしい。
たぶん、俺の父や
ハーディマン侯爵家も
やってると思う。
そう言う意味もあり、
俺は二人がなんらかの
事情を知っていると思ったのだが
二人は顔を見合わせて
困った顔をした。
「正直、なにも。
ただ、レオ殿下の求婚のことで
王宮が騒がしかったことは
聞き及んでいます」
ミゲルが慎重に言う。
「まさかレオ殿下と
結婚するとか言わないよな?」
ヴァルターが、我慢できないと
言うように俺に早口で言った。
ミゲルが、ヴァル、と
咎めるような声を出した。
「そんなわけはないですよね?
パットレイ公爵家も、
もちろん、ハーディマン侯爵家も
そんなこと許すはずがないですし」
ミゲルも俺を伺うように言う。
その二人の様子に
やはり罰ゲームだろうが
なんだろうが、隣国の王子に
プロポーズされるってのは
大変なことなんだと改めて思う。
「大丈夫。レオと結婚なんてしないよ」
俺がそう言うと
二人はほっとしたような顔をする。
「そういえば、レオは?」
昨日は学校に来た?と聞くと
レオナルドは昨日は休んだと言う。
それどころか、しばらくは
隣国の王子としての公務があり
学校に来れないそうだ。
……こりゃ、陛下か父あたりが
何か画策したな。
俺とレオナルドを会わせないように
しているのかもしれない。
だが、まぁいい。
今はレオナルドに構ってる場合ではない。
「そんなことより、
僕ね、二人に相談したいことがあるんだ」
「そんなこと?
隣国の王子からの求婚が
そんなことでいいのか?」
と、ヴァルが言うが、
俺にとっては、そんなことだ。
だってレオナルドは隣国の
王子様かもしれないが
俺にとっては友人で
未来の義兄で……駄犬なのだ。
レオナルドよりも
ヴィンセントのことが大事に決まっている。
「レオよりも大事なことなの。
じつはね、僕……」
結婚したんだ。
と他の誰にも聞こえないように
小さく俺は言った。
だが声が小さすぎたのだろう。
二人は動きを止めて
じっと俺を見る。
「えっと、聞こえなかった?
あんまり大きな声では
言えないと思って。
あのね、僕ね」
と俺が言った途端、
「わーっ!」とヴァルが
大きな声を出して俺の言葉を遮った。
なおかつ、慌てた様子で
俺の口を手で塞いだ。
「ここで言うな。
なんか、ダメな気配がする」
何だよ、気配って。
「わかりました」
何がわかったのか、
ミゲルがそう言い、立ち上がる。
「今日の授業はサボりです」
は?
真面目なミゲルが何を言う?
驚く俺をしり目に、
ミゲルは歩き出した。
つられてヴァルターと
ヴァルターに掴まれている俺も
一緒に歩き出す。
まだ授業まで時間があるし
大丈夫かと思って
ミゲルについて行くと、
ミゲルは屋上へと俺たちを促した。
屋上は立ち入り禁止区域では無いが
わざわざ階段を上って
屋上に出るような生徒は
基本的にいない。
貴族ってのはすぐに
馬車に乗ったり、
自分で動くのではなく
侍従に言いつけたり、
とにかく、無駄に運動するのを
避ける傾向があるのだ。
しかも今は始業前の朝の時間。
誰もが忙しくしている時だろうから
屋上の扉を開けても
もちろん、誰一人いなかった。
ついでに中庭では
ベンチなどがある分、
植木もあって誰かが
近くにいてもわからない場合もあるが、
屋上は遮るものが無いので
誰かが聞き耳を立てる心配もない。
だだっぴろい屋上で
俺は思わず寝ころびたくなる。
でも無理だろうな。
俺はこれでも公爵家の子息だし。
というか、俺たち全員、
一応は高位貴族なのだから
屋上の地面に座るのは無理だよな。
俺は構わないけど、
制服を汚したら
洗濯する侍女が大変だし。
と思ってたら、
ヴァルターが屋上の出入り口付近の
日陰の場所に、どかっと座った。
なんと、潔い。
ヴァルターは騎士科だから
そういうのは気にしないのかもな。
日々、砂埃にまみれてそうだし。
「イクス、こっち来いよ」
ヴァルターに呼ばれて、
仕方が無い、俺も床に座るかと
思っていたら、ヴァルターが
上着を脱いで床に置いた。
「ここに座れよ」
「え、いいよ。
制服汚れちゃうし」
「大丈夫だ。
もともと、汚れてる」
それはそれでどうかと思うが。
ヴァルターは上着の
外側の面を床に敷いてるので
制服の汚れは見えないが、
逆に、上着の内側に腰を落とすのも
気が引ける。
「ヴァルのがダメなら
僕のに座る?」
俺が迷ってたら
今度がミゲルが上着を脱ごうとする。
いやいや、とんでもない。
それなら自分の上着を脱ぐし。
と思ったが、
俺が上着を脱ごうとしたら
二人が大慌てで止めて来た。
「そんなことされたら
俺が殺される!」とまで
ヴァルターに言われ、
俺は誰に?と思ったが
それでも、そこまで言うのならと
お言葉に甘えさせてもらうことにした。
俺たちは小さい日陰スペースに
身を寄せ合うように座る。
「それで?
結婚、ってどういう意味なの?」
ミゲルが待ちきれないと
言うように一番最初に口を開いた。
「うん、あのね……」
俺は例の罰ゲーム事件を
発端として、あっという間に
ヴィンセントと結婚した経緯を
説明した。
「陛下が僕を隣国に
行かせないように
特例で結婚の許可を出してくれたんだ」
俺の言葉に、うんうん、と
二人とも頷く。
「でも、僕はまだ学生だし、
卒業するまでは
今のまま、何も変わらなくて
いいって言われてるんだ」
「そうだったんですね」
「すごい急展開だな」
二人は頷きつつも
顔は驚いたままだ。
「それでね、えっと
二人に相談があるのだけど」
やっと本題に入れる。
「新婚って、どういう意味?
僕は何をしたらいいのかな」
俺は真面目に聞いたのに、
何故か二人は驚いた顔のまま
まるで固まったかのように動かない。
聞き方が悪かったのかな。
それとも二人とも
新婚の意味を知らないとか?
もしかして新婚って、
子どもは知らなくてもいいとか、
そういう系じゃないよな。
あー、俺。
聞く人選、間違ったかも。
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