104 / 214
高等部とイケメンハーレム
104:急激に進む結婚話
しおりを挟むレオナルドの存在はとても目立っていた。
何故って公爵家子息である俺に懐く駄犬だからだ。
ましてや、そのレオナルドの妹は
公爵家に嫁いで来ることがすでに決まっている。
なんというか、義兄弟で仲良しだね、
というほのぼのになれば良かったのだが、
やたらと俺はレオナルドを
説教して歩いているので、
周囲の認識は、他国の王族と
自国の公爵令息ではなく、
「駄犬とその主」という目に
なってしまっている。
だって。
とにかくレオナルドは
考えもせず行動してしまうのだ。
勉強ができないとか、
頭の回転が悪いとかではない。
ただ、発想力と行動力がずば抜けているのだ。
もしもレオナルドが平民だったら。
もし俺の前世の世界で生きていたら
何の問題もなかった。
だが王族として、
その発想や考え方、
行動はいかがなものか。
と思わせるようなことばかりするのだ。
しかも子供のように
やりたいと思ったら、
考えることなくすぐに行動しようとする。
バカじゃないから
何故ダメなのかを説明すると
きちんと理解するのだが、
次の瞬間、それを忘れて
興味がある方向に意識を向け、
なおかつ暴走してしまう。
普通ならそれでも行動できずに
がっかりして終わってしまうのだが
なまじ王族なものだから
実際にそれが可能なのだ。
だからこそ、たちが悪い。
たとえば先日、昼休みに
ミゲルとヴァルターも含めて
4人でのんびりしていた時だ。
レオナルドは勉強よりも
身体を動かすのが好きらしく、
剣を使うのも上手いらしい。
授業も剣術や馬術の授業など
騎士になるための授業を
メインに受けているので、
ヴァルターとも仲良くやっている。
その二人がなにやら
剣のことで盛り上がっていた。
俺とミゲルは意味不明だったが
どうやら隣国には
めちゃくちゃ固い金属があって
それを剣に使用しているらしい。
この国ではまだその技術はないので
ヴァルターが、いいなー、と
羨ましそうに言ったのだ。
俺もその剣を使ってみたい、と。
するとレオナルドは「使えばいい」
と言ったかと思うと、
この国の騎士たちとこの学校の
騎士科の生徒たち全員分の剣を
プレゼントすると言い出した。
ヴァルターが慌てて止めたら、
プレゼントがだめなら
安い価格で販売すると言う。
そしてそばに控えていた侍従に
販売ルートの確保を指示しようとしたのだ。
この時の俺は、おそらくだが
仁王像のようになっていたと思う。
生まれて初めて、
自分でもびっくりするぐらい
大きな声が出た。
それぐらい焦ったのだ。
そりゃまあ、王子殿下が言うのだから
プレゼントも安い価格での販売も
できるかもしれない。
だが、こんな学生が学校で話して
実現できる話ではないのだ。
両国の関係もあるし、
関税をどうするのか。
流通の確保と言っても
そう簡単なものではない。
剣の1本や2本ならともかく
そんな大量な剣を、
どこでどうやって作って、
どのように運ぶのか。
その金や労働力はどこから発生するのか。
国同士の輸出入とは
そんな簡単にできるものではないはずだ。
俺はレオナルドを椅子の上に正座させ、
キリキリと胃を痛めながら
そう言ったことを説明した。
が。
レオナルドは、「なるほど」と
呟いて、「じゃぁ、俺が指示を出すのではなく
父に頼めばいいんだな?」などと言うから
俺は脳の血管が切れそうになった。
ミゲルとヴァルターが心配して
俺を必死で宥めたが、
呼吸困難で息切れするぐらい
俺はレオナルドを叱りつけた。
おかげで午後の授業は休んで
保健室に直行になってしまい、
連絡が行ったのだろう。
仕事中であるはずの
ヴィンセントが迎えに来た。
父に言われたのだろうが、
仕事は大丈夫だったのか
心配になる。
だがそのまま授業を
受けることもできそうになく
俺はヴィンセントと一緒に
その日は帰宅してしまった。
ほんと、ヴィンセントには
申しわけないし、
レオナルドは頭が痛い。
その日以降、
俺がレオナルドを叱っていると
周囲からやたらと心配そうな
視線を向けられるようになった。
だがレオナルドの行動は
なかなか収まらない。
自分の行動した先のことを
予測できずに動いてしまうのだ。
俺はそんなレオナルドを
ひたすら矯正すべく、
声を掛け、未来予測をして
レオナルドを反省させる。
それを繰り返していると、
とうとう、第二王子のクルトにまで
「レオナルド殿下が最近、
犬に見えてきたのだが
大丈夫だろうか」と
声を掛けられる始末だ。
俺にとっては駄犬でしかないが、
さすがに他国の王子殿下に
それはダメだろう。
と思うのだが。
やっぱりレオナルドは駄犬だ。
何度言っても同じことをする。
今日も今日とて、
学校の食堂で俺は
レオナルドに説教していた。
俺の隣にはミゲルとヴァルター。
前には、しゅん、とうなだれる
レオナルドが座っている。
「だからね、レオ。
何度も言うけれども、
王族だからと言って、
何でもできるわけじゃないの。
それに、本当にできたとしても、
強引にそれをするべきではないんだ」
俺が言うとレオナルドは
だって、という。
「だいたい、ここの食堂を
使っているのは
学生だけでなく、教師や
学校関係者だっている。
年配の人もいる。
なのに、自分の都合だけを
押し付けて、それで良いと
本当に思っているのであれば
王族の資格なしです」
きっぱりと言ってやると
レオナルドの瞳に涙が浮かぶ。
「イクス。
その辺でいいんじゃない?」
可愛そうになったのか
ミゲルが助け舟を出した。
それを受けてヴァルターも言う。
「そうそう、あまり他国の王族を
泣かすのも外聞が悪いだろう。
それに忠犬のごとく
イクスが甘い物を好きだから
この食堂のメニューを
すべてお菓子にしようとしただけだし」
しただけ、ってめちゃくちゃ
大迷惑な話ですが?
それに、ここはレオナルドの
国じゃないんだよ?
他国で何をしようとしてるわけ?
しかも学校のメニューをお菓子にするって、
どう考えてもオカシイだろう。
「忠犬の証ってやつだから、な。
許してやれよ」
ヴァルターが
俺の肩を叩いて言うが、
おまえ、
隣国の王子殿下を
犬扱いしてるの、バラしてるぞ。
「まぁ、とにかく僕のことを
喜ばそうとしてくれたんですよね?
ありがとうございます」
というと、レオナルドは
物凄く嬉しそうな顔をした。
はぁ、この駄犬、メンドクサイ。
なまじ権力を持ってるだけあって
やっかいだ。
「イクス、イクス」
「なんです?」
「俺、気が付いたんだが」
レオナルドはさきほどまで
俺に叱られていたと言うのに、
物凄い笑顔を俺に向けて来た。
「俺をこうやって
叱ってくれるのも、
俺のために時間を使って
何がダメなのか教えてくれるのも
イクスだけだ」
まぁ、そうかもしれない。
なんたって王子様だからな。
「だからな。
結婚してくれ!
俺と一生一緒に居て、
一生俺を叱ってくれ!」
「え? 嫌。
……めちゃくちゃ、
全力で、嫌です」
俺が思わず素で言うと
レオナルドの瞳がうるっとなる。
「うわーん!」
と大きく泣きマネをするが
何故俺が了承すると思った?
「一生、レオを叱り続けるって
僕には生涯をかけた
罰ゲームにしか思えないけど?」
「そんな!」
いや、何故傷付く?
「それに僕はヴィー兄様がいるし」
「兄だろ?」
「婚約者だよ」
俺の言葉に、レオナルドは
がたん、とイスを倒して
立ち上がった。
どうした?
大丈夫か?
「イクスの馬鹿やろー!」
そして何故か急に走り出し、
どこかに行ってしまった。
あわてて、少し距離を置いて
レオナルドを護衛していた
騎士と侍従がその後を追いかけて
走っていく。
「なんだったんろう?」
俺が呆然と見送ると
ミゲルとヴァルターは顔を見合わせた。
「こりゃ、失恋だな」
「そうだね、イクスに物凄く
派手に失恋したみたいだね」
失恋?
何を言っている?
俺が二人を見ると
二人は揃って肩をすくめた。
「いいんじゃないか?
イクスはそのままで」
ヴァルターが言うと、
ミゲルも頷く。
「でも、公爵様やヴィンセント様には
このこと、伝えておいた方が
良いと思うよ」
「え?
僕の罰ゲームを?」
俺の言葉に二人は苦笑したが、
大きく頷いた。
その日、学校が終わってから
俺は二人が言うのであれば、と
夕食後、父に時間を取ってもらい、
レオナルドの話をした。
兄は仕事でまだ帰ってきてなかったので
チャンスだと思ったのだ。
恋愛バカになった兄だが、
一応まだ弟大好きな兄バカなので、
兄がいたらまた、
ややこしいことになるかもしれない。
俺が父に罰ゲームの話をすると
父は何故か硬直したように動かなくなる。
え?
大丈夫?
「イクス」
「はい、父様」
「イクスはヴィンセント君と
結婚したいのだろう?」
「はい、もちろんです」
今更何を言っている?
それは決定事項だろう。
「そうか。
そうだな、わかった」
父はふーっと息を吐く。
「なら話を進めよう」
ん?
なんの?
「結婚しても
学校に通いたいのであれば
通えばいい」
「え? は?」
「他国の王族にプロポーズされたなど
公になっては面倒だ」
いや、めちゃくちゃ
公になりましたが?
なんたって学校の食堂だったし。
だがプロポーズって、
駄犬が主人に、一生叱ってね、なんて
わけのわからんプレイを
要求してきただけだぞ?
「大丈夫だ。
父に任せておきなさい」
と、父は頼もしい感じで言うが。
全然任せられない気がするのは
俺だけだろうか。
320
お気に入りに追加
1,144
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる