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高等部とイケメンハーレム
91:好きって気持ち
しおりを挟むヴィンセントは俺を立たせてくれて
ベットまで連れて行ってくれた。
いつも一緒に寝る時は
俺がベットから落ちないように
奥に入るようにしている。
公爵家のベットは広いが、
それでも俺は寝相が悪いらしく、
端っこに寝ていても何故か必ず
ヴィンセントにしがみついて寝ていた。
自分の寝相が怖くなる。
俺はいつものように
先にベットに入って、
ヴィンセントに、早く、と言うと
諦めたような、悲し気な目とぶつかった。
途端、俺は自分がしていることの
残酷さに気が付いた。
ずっと俺はこうやって
ヴィンセントに甘えて来た。
でもそれは、兄に甘える弟だから
これぐらい許されるだろうと
そんな甘えた意識があったからだ。
だが、先ほど俺はヴィンセントから
告白された。
しかもどうやら俺たちはすでに
婚約しているらしい。
そんな相手にベットに誘われたら
きっと、そういう誘いだと思うよな?
普通は。
というか俺は子どもで、
イクスは普通じゃないから
そういう流れにならなかっただけで。
家令がデビュタントを迎えた俺と
ヴィンセントを一緒の部屋で
寝るべきではないと言っていた理由が
ようやくわかった。
これでは、クルトに対して
していたことと、全く同じでは無いか。
いや、ヴィンセントの方が
ずっと一緒に居た分だけ
クルトにしていたことよりも罪が重い。
「えっと、ヴィー兄様」
いや、兄と呼んではダメなんだったか?
「ほら、そっちをもう少し詰めろ」
ヴィンセントは何もなかったかのように
俺の隣に入ってくる。
そうだよな。
そうやってヴィンセントはずっと
俺に合わせてくれてたんだ。
「ヴィー兄様、好き」
ほんとは俺だって、
兄としてではなく、
ヴィンセントのことが好きだった。
最初はイクスの初恋の
気持ちからだった。
俺が前世の記憶を思い出してからは
それが憧れになって、
また好きって気持ちになって。
その想いが恋愛感情に
育っていったのだ。
だから。
「好き」って俺は言う。
本当にそう思ってたから。
ヴィンセントのことが
恋愛感情として大好きだって
思ってたから。
でも俺がそう言ったら
ヴィンセントは俺の髪を撫でて
「俺も」って言う。
いつもの俺とヴィンセントの
やりとりだ。
いつもの日常に戻ってしまった。
ここで言うヴィンセントと
俺の『好き』は
種類が違うんだって
そう思える「俺も」だ。
あぁ、そうか。
ヴィンセントは俺の「好き」が
兄弟の好きでしかないって
思ってるんだ。
そして俺も。
ヴィンセントには俺の恋愛感情は
伝わらないし、伝えるべきじゃないって
ずっと思っていた。
お互い同じ「好き」なのに、
心のどこかで、この好きの気持ちは
重ならないって思ってたんだ。
だから伝わらないし
理解しあえない。
俺はシーツを跳ね上げ、
寝転がったヴィンセントの
腹の上の乗っかった。
「イクス?」
馬乗りになり、
そのままヴィンセントを見下ろす。
ヴィンセントは俺の態度に
驚いて動けないようだ。
そうだろうな。
俺もこんな真似など今まで
したことがなかったし。
でも、今まで通りじゃダメだって思ったんだ。
クルトのことも、そしてヴィンセントのことも。
俺がきちんと自分と向き合ってなかったから
こんなことになってるんだと思う。
俺とイクスは同一人物だし、
もう一つになったと思っている。
でも俺は前世の記憶があって、
いまだに前世妹の腐った妄想力が
俺の魔力を強化していて。
『この世界で生きるイクス』に
なりきれていないのも確かだ。
そんな半端な状態だから、
俺は自分に向けられた好意も、
どこか、前世で見たゲーム内の
イクスに向けられた好意だと
心のどこかで感じていた。
それどころか、数年前に
クルトが俺にプロポーズしたのは
冗談か、もしかしてシナリオの
強制力とか、そういうのだったのかも?
なんて軽く考えていた。
……クルトは本気だったのに。
しっかりクルトと向き合えば
そんな勘違いはしなかったはずだ。
そして、ヴィンセントの気持ちも。
俺はどこかで、ヴィンセントも
俺と同じ気持ちじゃないかって思ってた。
そうでなければ、
これほどまでにヴィンセントが
俺のそばにいてくれるわけがない。
たとえ爵位が高い俺の父に言われたからと言って、
幼馴染で弟みたいだと思っていたとしても。
古語を読み漁ったり、
魔術の研究をしたいと言ってみたり、
荒唐無稽な話をして、
精霊の樹を蘇らせるような俺の存在は
やっかいで、お荷物でしかない。
なにせ下手をすれば
国家間レベルで俺を巡って
戦争が起こってもおかしくはない。
俺はこの世界の要である
精霊の樹の精霊と仲良しだし、
この世界の封じられた記憶も、
魔術も、紐解くことができる存在だ。
そんな俺を守るなど、
ただの幼馴染という関係で
出来る筈はない。
そう思いつつ、でも俺は
その気持ちを確かめる勇気が出なかった。
ヴィンセントに、弟として
可愛いと思っていると言われたら
悲しすぎて立ち直れないと思ったからだ。
でも、今は違う。
ヴィンセントの想いも知ることができた。
次は俺の番だ。
俺が勇気を出す時だと思う。
俺は手を伸ばしてヴィンセントの
髪に触れた。
いつも髪を撫でられるけれど
俺がヴィンセントの髪に
触れることはあまりない。
身長差もかなりあったし、
背伸びをしてもこの赤い髪に
触れるのは容易ではないのだ。
「僕ね、こうやって
ヴィー兄様に髪を撫でられるの、好き」
「あぁ、そうだな」
俺に髪を撫でられると
すぐに眠そうになるもんな、と言われ
俺は苦笑してしまう。
だって気持ちがいいのだ。
「あとね。
ヴィー兄様に手を繋いでもらうのも、
背中に手を当ててもらうのも好き。
ものすごく……安心する」
「うん、そうか」
ヴィンセントは頷くが、
きっと俺の「好き」は伝わっていない。
俺がどう言えば、
ヴィンセントに俺の「好き」は
伝わるのだろう。
「子どもみたいだからって
嫌がるそぶりをするけど、
膝に座らされるのも、好き」
「あぁ」
「お菓子を食べさせてくれるのも、
お菓子を摘まんだヴィー兄様の
指が大きくて、
一緒にヴィー兄様の指を
口に入れてしまうのも、好き」
俺がそう告白すると、
ヴィンセントは少し頬を赤くして、
そうか、と言う。
でも、まだダメだと思う。
今まで日常的に「好き」「好き」と
言い過ぎたせいだ。
ありがたみもなければ
信憑性もない。
なら。
好き、でなければいいのでは?
俺はひらめいた。
ヴィンセントの髪から
手を離して俺はヴィンセントの
頬に手を添える。
「イクス?」
「ヴィー兄様、僕もね……」
……愛してる、って言葉。
ヴィンセントにちゃんと聞こえただろうか。
それとも俺が強引に重ねた唇に、
言葉は消えてしまっただろうか。
どっちでもいい。
どちらでも、きっと。
俺の思いはヴィンセントに伝わっただろう。
……きっと。
そう、思いたい。
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