【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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高等部とイケメンハーレム

92:愛してるの意味【ヴィンセントSIDE】

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 重なった小さな唇に、
その柔らかさに、俺は呼吸を止めた。

目の前で起こっていることが
信じられなくて。

俺の腹の上に乗る
イクスに手を伸ばしたが、
夢では無いかと思い直し、
触れることができなかった。

もし触れることができずに
夢から覚めるのが怖かったのだ。

ゆっくりとイクスの顔が
俺から離れた。

頬を赤く染めたイクスは
僕の言葉、聞こえた?と聞く。

言葉?
あの空耳のことか?

イクスが俺を愛してるなんて
言うはずがない。

言うはずがない……のに。

「聞こえた」

イクスの声が。
可愛らしい、声が。

「良かった」

イクスはそう言って、
俺の胸に顔を押し付けてくる。

「僕はヴィー兄様にとって
弟でしかないって思ってたから」

それは俺のセリフだと言いたくなる。
だが、我慢だ。

俺はイクスの言葉を待つ。

「だからね。
ヴィー兄様に、好き、って言ってたの。

僕の気持ちが、恋心だってバレないように。
ヴィー兄様の弟で満足しようって
そう決めてたんだ」

夢、じゃないよな?

手を伸ばしてイクスの背に
腕を回してみた。

……ちゃんと、触れることができる。

「なら……俺と」

声が震えた。

これが夢でないのなら、
イクスはもう、俺のものだよな?

「結婚してくれるか?」

さっきまで、婚約だけとか
結婚は考えなくてもいいとか、
そんなことを言っていたのに。

自分でも調子が良いとは思う。
だが。

「うん」

とイクスが笑う。

「僕ね、ヴィー兄様と
ずっと一緒に居たい。
ずっと、ずっと」

嬉しさのあまり
俺は腹の上のイクスを抱きしめた。

そのままくるり、と
体勢を変えて、俺はイクスを
ベットに押し付ける。

イクスに負担を掛けないように
覆いかぶさるようにして
イクスの綺麗な目を見つめる。

「愛してる」

初めての俺の愛の言葉に
イクスは嬉しそうに
顔をほころばせた。

白い頬を手のひらで包み込み
先ほど触れた桃色の唇を
指先でなぞる。

イクスは何も言わなかった。

今度は俺から。
そっと唇を重ねる。

本当は深く口付けて。
もっとイクスに触れたいと思う。

ようやく想いが重なったのだ。
触れあいたいと思ってもおかしくはない。

だが。
イクスはまだ子どもだし、
ここは公爵邸だ。

これ以上、不埒な真似はできない。

イクスがどうあれ、
公爵殿の逆鱗に触れてしまったら
ハーディマン侯爵家ごと
どうなるかわからない。

俺はイクスを抱き込んで、
シーツを肩までかけてやる。

【兄】の顔をするのは
慣れもあり、いつでもできる。

下半身の淫らな欲を
押さえ込むのもいつものことだし、
イクスを寝かしつけることだって
いつものことだ。

まだ何も変わらなくていい。

ただイクスと気持ちが
通じ合った喜びだけがあれば
対外的には何もかわらなくてもいいんだ。

イクスは素直に俺の胸の中で
甘えたように髪を撫でられている。

愛の言葉を交わした直後とは
思えない程に無防備だ。

「ヴィー兄様」

「なんだ?」

「もうヴィー兄様って呼んだらダメ?」

「好きに呼べばいい。
呼び方なんて関係ないからな」

イクスの気持ちが、俺を【兄】と
思っていないのであれば、
呼び方など関係ない。

むしろ、俺を【兄】と呼ぶから
素直に甘えることができると言うのなら
俺はいつまでも【兄】と呼んでもらって
構わないと思う。

俺はイクスに甘えられるのが
好きだったし、他の誰かに。

それがイクスの兄である
レックスや公爵殿であったとしても
俺以外の者にイクスが甘えに行くのは
正直、嫌だと思っている。

兄だろうとなんだろうと、
イクスの一番そばで、
イクスの愛情を注がれるのが
自分であるというのなら、
俺はそれで満足だ。

「じゃぁね。
もう少し、ヴィー兄様は
ヴィー兄様でいて?」

イクスの言葉に俺は頷く。

「もうちょっとだけ。
僕が甘えなくても大丈夫になったら。

もっと強くなって、
ヴィー兄様を守れるようになったら
ちゃんと、兄様からは卒業するから」

イクスが俺を守る?
嬉しい言葉だが、
そんな日が来るとは思えない。

だが、そう言ってくれるのは
嬉しいと思う。

守るのは俺の方だし、
そう言う意味では
一生、俺から卒業など
しなくても構わない。

もちろん、やる気を出している
イクスにそんなことは言わないが。

「急がなくてもいい。
俺はずっとイクスのそばにいる」

「うん。ヴィー兄様、好き」

いつもの声で、イクスが笑う。

俺は心地よい声を聞きながら
髪をゆっくりと撫でる。

どうせ、イクスが成人を迎えるまでは
これ以上のことをイクスに
できるはずもない。

イクスが成人の儀を迎えるまでは
俺はこのまま【兄】でいよう。

今までと同じだ。

だが、同じではないこともある。

それはいつか俺がイクスの
【兄】ではなく、【伴侶】になると
決まったことだ。

イクス自身が、俺を求めてくれたのだ。

それがどれほど嬉しいか、
イクスにはわかるまい。

何度も髪を撫でていると
イクスの口から寝息がもれはじめた。

ぎゅう、とイクスが俺にしがみつき、
小さな口が、すき、とまた動く。

以前であれば、嬉しさと、
息苦しい感情に襲われたが、
もう、その息苦しさはない。

イクスは、もう俺のものだ。

可愛い唇に触れることもできた。

アイシテルと、イクスに言われたのだ。

と、感動と余韻に浸っていたが、
可愛いイクスが、愛している、なんて言葉
どこで覚えたのかと、不安になる。

幼いイクスが、すき、ではなく
愛してるなんて言葉を使うなど
考えられないことだ。

誰が教えたのだ?

まさか、殿下たちが?

そういえば告白されたとか言っていたな。

だがそのおかげでイクスは
俺に愛の告白をしてくれたのだから
怒ることではないのか。

いや、だがしかし。

俺はもやもやして、
イクスの頬に触れた。

もう一度、口づけても構わないだろうか。

もう、2度も唇を重ねたのだ。

2度も3度も同じ……と思ったが、
俺は、ぐっと我慢した。

意識が無いイクスに口づけるなど
すべきことではない。

「想いが重なっても、
俺は我慢ばかりだな」

思わず苦笑が漏れた。

それでも。
それは決して嫌なものではない。

幼いイクスが成長していく姿を
まじかで見ることができ、
そして成長した先には俺がいる。

その権利を、もう俺は手に入れたのだから。

俺はイクスを抱きなおした。

子どもの体温は温かく、
俺も眠くなってくる。

今日でイクスと寝るのは最後だ。
そう約束した。

ならば、この体温を堪能して
眠るとしよう。

俺はイクスの髪に触れ、
ゆっくりと目を閉じた。










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