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魔法と魔術と婚約者
65:ジュの秘密
しおりを挟むジュがあまりにも催促するように
にゃぁ、と何度も鳴くので、
俺は仕方なく、何度も
魔法の水を出してやった。
どれぐらい水を出し続けたか
俺自身、わからなくなっていたが、
「イクス」とヴィンセントに
声を掛けられ、俺は水を出すのをやめた。
「一度、休憩した方がいい。
連続して魔法を使い過ぎだ」
そう言われて、
確かに、と俺は自分の身体の
疲れを感じて頷いた。
ジュは俺の手のひらを
ぺろぺろと舐めていたが、
俺が水を出さなくなっても
今度は不満そうな声は出さなかった。
俺が疲れていることを
理解しているようだ。
「あれ? ジュ。
なんか、大きくなってない?」
水を出すのに必死で
気が付かなかったが、
リスぐらいの大きさしかなかったジュが
今は子犬ぐらいの大きさになっている。
「水、飲み過ぎたんじゃないのか?」
ヴィンセントが呆れたような
バカにしたような声で言う。
いや、いくら水を飲んで膨れたと言っても
これは異常だろう。
と思うのだが、
ジュはヴィンセントの言葉に
シャーっと再び威嚇をして、
すぐに俺にはたいしたことではないと
言わんばかりに、俺の手のひらに
顔をうずめて甘える素振りをする。
俺はどうしたら……。
いや、きっとジュは精霊だろうから
俺の常識は通用しないんだ。
うん。そう思うことにしよう。
ジュに水を与えたら
ジュはしずくになって
消えてしまうのではないかと思ったが
杞憂のようだった。
良かった。
でも、さすがに疲れた。
ヴィンセントは俺が水魔法を
ずっと使ってただけだと
思っているかもしれないが
同時に3つの異なる属性の魔法を
ずっと放出しつづけていたのだ。
こんなことは俺も初めてだったし
体力的にも限界が近い。
「ごめん、ジュ。
また明日くるから
今日は帰ってもいい?」
なんか、ベットで丸まって寝たくなってきた。
ジュは俺の言葉に、
にゃ、と短く返事をした。
きっと今は満足したのだろう。
俺の手のひらから顔を上げて
それから尻尾で俺の手を撫でる。
それからもう一度、
ヴィンセントを見て
シャーっと威嚇をすると
そのまま何もなかったかのように
精霊の樹の中に姿を消した。
「イクス、大丈夫か?」
ヴィンセントに顔を覗き込まれ、
俺は曖昧に笑う。
「うん、まだ大丈夫。
でもちょっと疲れた。
ヴィー兄様に声を掛けて貰って
良かったよ。
水を出すのに夢中で
周りが見えてなかったもん」
そう。
朝からこの場所に来ていたのに
いつのまにか日が高く昇っている。
俺は何時間、あの水を
出し続けていたのだろうか。
「とにかく一度戻るか。
ヘルマン叔父上にも報告を
した方が良いだろうしな」
その言葉に俺は頷く。
だが、正直、
あの体感30分のハイキングを
今はする気になれなかった。
ベットですぐに眠りたい。
だができそうにない。
となると、どうするか。
俺は素直にヴィンセントに
歩けそうにない、と白状する。
ただ少し休めば大丈夫だと思うので
俺は木陰で昼寝しようと
ヴィンセントを誘った。
だが俺が「一緒に寝よう」と言うと
何故かヴィンセントは顔をゆがめた。
そして俺に鞄を押し付け
しゃがんだかと思うと
俺に背中に乗るように言う。
え?
おんぶ?
「いいよ、僕も随分と
重たくなったし」
いつまでも子どもではないのだ。
そういったのだが
ヴィンセントは譲らない。
俺は仕方なく
ヴィンセントに背負われて
馬を置いてきた場所まで戻ると
馬に乗せてもらうなり、
ヴィンセントにもたれて
ぐっすりと眠ってしまった。
よほど疲れていたのだと思う。
この日から俺は毎日、
精霊の樹に通うことにした。
ヴィンセントはいつもついて来てくれたが
精霊の樹に中に入ることができるのは
俺だけだ。
俺は精霊の樹の中で
『種』に水をやり、
観察し、ノートに書き留める。
そして精霊の樹の外に出て
一休みしていると
ジュが姿を現すので
俺はジュにも水をやる。
最初、魔法を使い過ぎたので
今は少しずつ、量を調整しつつ
出している。
ついでに光魔法と樹魔法の
割合を少し変えたりして
ジュの反応を探ったりもした。
ベストな配分を覚えるために
これもノートに書き留める。
こういうことをやり出すと
俺は自分では止まれないから
俺の様子をみてストップの声を
掛けるのはヴィンセントの役目だ。
一週間もすれば
『種』はかなり大きくなったし、
ジュもまた、太った。
いや、成長した?
リスの大きさだった子猫は、
いつのまにか、前世の柴犬ぐらいの
大きさになっている。
そして水を飲む量も増えた。
……大丈夫だろうか。
色んな意味で。
その日は朝から
ヘルマン辺境伯も一緒に
精霊の樹の前まで来ていた。
俺たちの報告を聞き、
実際に自分の目でジュを
見たくなったのだという。
俺が辺境に来てもう1週間だ。
食糧事情は俺の父と
ヴィンセントのところからも
支援物資が届いたので
しばらくは大丈夫だろうが
いつまでもつかはわからない。
というか、
支援物資といっても前世とは違い
冷蔵トラックもなければ
冷蔵庫もない。
つまり届いた物資は
穀物と干した肉など
日持ちがするものばかりだ。
正直俺は野菜や果物が食べたい。
もちろん、文句は言えないし
言うつもりもないが、
食卓の上にパンと干し肉の料理が
毎日並び続けると、もともと少ない
食欲がもっと少なくなってくる。
ヴィンセントが毎日、
もっと食べろと言うのだが
俺は首を横に振るしかできない。
あんな固くてしょっぱい肉を食べるなら
俺は固くて噛めないあのクッキーが良い。
と思っていることが
辺境伯家の料理人にも
バレているようで、いつのまにか
食事の時の俺の皿には
パンよりも例のクッキーが
並べられるようになった。
もう、感謝しかない。
そんなわけで、
できるだけ早く
精霊の樹の問題を解決したいのだが
ジュがどうなるのか
まったくわからないだけに
俺の不安は残ったままだ。
それでもジュに水をやるのを
やめるわけにはいかない。
ジュは水を欲しがって
俺を見ながら何度も
『ジュ・ミズ』とひたすら鳴くし、
俺の目の前で精霊の樹は
どんどん枯れていく。
俺はジュのことが
かわいくてどんどん好きに
なっていったが、
このままジュに水を飲ませ続けたら
いったいどうなるのだろうか。
本当にジュが精霊の樹の
栄養分だったら?
そう思うと怖くなるが、
俺がここで行動することを
やめてしまったら
この辺境の地の人々が
飢えて死ぬかもしれない。
そう思うと俺は
精霊の樹に通うことも
ジュに水を飲ませることも
やめることはできなかった。
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