64 / 214
魔法と魔術と婚約者
64:魔法の水
しおりを挟む俺はジュにノートに書いた
古書から描き写した内容を説明した。
ジュの反応を見て、
今後の対策を探ろうと思ったが、
ジュは俺に懐くような仕草をするが
ノートの内容には全く
興味が無いように思える。
ただ、時折俺に
『ジュ・ミズ』と訴えてくる。
そこで俺は水筒の水を
飲ませてあげようと思ったが
ジュは水筒を見せても
拒絶するように、
しっぽで水筒をパン、と叩いた。
「ジュ。ミズだよ?」
俺がそう言っても
ジュは首を振るばかりだ。
「そいつ、イクスの水が
欲しいんじゃないのか?」
俺たちの様子を見ていた
ヴィンセントが離れた場所から
そんなことを言う。
「僕の水?」
「イクスは水魔法が使えるんだろう?」
なるほど。
そう言うことか。
でも、俺の魔法で作った水なんて
飲み水として分け与えても良いのだろうか。
いや、良いのかもしれないが、
俺は、なんとなく魔法で作った水は
衛生的に大丈夫なのかと
常々不安に思っていたのだ。
だってさ。
この世界では誰も
水質検査なんてしない。
それでも自然に湧き出た水は
大丈夫だって思うけれど、
魔法は別だ。
前世の記憶があるから
そう思うのかもしれないが
魔法で作った水なんて
何が入ってるかわからないじゃないか。
空気中の水分を凝縮してるとしても
空気中に雑菌がいないとは限らないし
魔法というものを
体内に取り込んでも健康的に
大丈夫なのか、なんてことも
考えてしまう。
前世ではそんなに潔癖症では
無かったはずなのだが、
一度気になってしまうと
どんどん気になってくる。
だって、何もない場所から
水を生みだすんだぞ?
原料はなんだ?って思うだろう?。
この世界の人たちは
魔法があるのが当たり前で
そんなことなど考えないかもしれないが。
しかも俺が生み出すんだ。
俺の体液……みたいなものが
原材料だったら、物凄く嫌じゃないか?
……考えすぎだろうか。
何にせよ、
そう言った理由から俺は
ジュに水を与えることに
躊躇したのだが。
ジュは威嚇していたはずの
ヴィンセントの言葉に反応したかのように
じっとヴィンセントをみつめ、
それから俺を見上げて、にゃ、と鳴いた。
その通りだ、と言わんばかりに
俺の手のひらに前足を乗せる。
「俺の魔法で作った水が欲しいのか?」
俺が聞くと、また、にゃ、と声がする。
俺は両手を器のようにして
ジュの前に差し出した。
それから魔法を手のひらに集中させて
水魔法を発動させる。
先ほどとは違い、
今度は手のひらをコップのようにして
水を溜めるイメージだ。
すると手のひらから水が
じわじわと湧いて来る。
だが、その水をジュは
ぺろり、と舐めて、
その水を吐き出すような仕草をする。
物凄く失礼な仕草だ。
しかもまるで残念な子を
見るような目で俺を見上げる。
「そんなに美味しくない?」
やはり魔法の水はダメなんじゃないか?
と思ったが、ジュは俺のひらを
前足でパシャ、と叩く。
そしてまた俺の顔をみて
にゃ、と鳴いた。
「この水は嫌なのか?」
じゃあ、なんだ?と思ったが、
もしかしたらあの種と同じで
光魔法と混ぜた水でないと
ダメだったのかもしれない。
俺は光魔法と水魔法を
同時に両手に発動させて
水を出した。
手のひらに水をためて
ジュに差し出すと、
ジュはまたぺろっと舐める。
今度は嫌な顔はしなかったが
ぺろぺろと舐めて
弱弱しく、にゃぁ、と鳴いた。
どういうことだ?
これでもダメなのか?
ジュは俺の手のひらの水を
今度はしっぽで、
ぱしゃ、っと弾くと、
さきほどまで読んでいた
俺のノートの周囲をグルグル回った。
俺のノート。
丁度開いた場所には俺の字で
『光と水を重ねたら種になり、
樹であればしずくになる』
と書いてある。
まさか、と思った。
俺はジュのことを頭の中で
勝手に漢字の樹木のジュだと思っていた。
この世界には漢字は無いが、
俺の脳は前世の記憶もあるし
自動翻訳機もあるので
何も思わなかった。
が。
もしこの『樹であればしずくになる』の
『樹』が、ジュのことだったら?
俺が水を与えることで、
ジュがしずくになる……?
それは、どういうことだ?
ジュが精霊の樹の栄養分になる、とか?
俺とジュの視線が重なる。
ジュは、にやり、と笑った。
……ような気がした。
俺が何に気が付いたのか
理解したかのような顔で、
にゃぁ、と鳴く。
そして前足で俺の手を叩いた。
水を。
光魔法と、水魔法。
それだけれはきっと足りない。
そこに樹属性の魔法を混ぜた
とっておきの水を作れ、と
ジュは言っているのだ。
それを飲み、ジュはしずくになる。
この『しずく』の意味はわからない。
だが俺はジュが消えてしまうのでは
無いかと思った。
ジュの命を使い、
精霊の樹のい命が次代に継がれ、
この辺境伯の土地が潤うのでは
ないかと、そう思ったのだ。
「ま、って。
ジュ。それは……嫌だ」
出来ない、とは言わない。
俺は2つの魔法を同時に発動できるが
3つの魔法を同時に発動することもできる。
訓練したからだ。
だがこういうのは想定外だ。
自分の魔法で、
何かの命を奪うなど
考えたことが無かった。
無理だ。
「ジュは僕の水を飲んだら
どうなるの?」
ジュは答えない。
代わりにまた
『ジュ・ミズ』と頭に響く。
そして真剣な小さな両目が
俺を見つめた。
よく見ると、茶色いと
思っていたジュの両眼は、
光の反射のせいか金色にも見えた。
そしてその瞳は、
俺に拒否は許さないと
そう言わんばかりの強い
意思を秘めているように思える。
にゃ。
短く、そして促すように
ジュは鳴く。
俺は仕方なく、
両手をジュの前に出した。
そして水魔法を発動させる。
それからその上に光と樹の
魔法を重ねがけした。
手のひらに沸いた水が
最初は光り輝き、
その後、淡い緑の光が
一瞬、水に映る。
ジュはしっぽを振り、
ぺろり、と水を舐める。
『ミズ!』
感激したようなジュの声が
頭に響いた。
そしてジュは。
俺が生み出した水を
手のひらに顔を突っ込むようにして
物凄い勢いで飲みだした。
それはずっと枯れていた大地が
まるで水を求め、吸いこむようだと
俺はなんとなく思った。
502
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる