【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

文字の大きさ
上 下
63 / 214
魔法と魔術と婚約者

63:観察

しおりを挟む




 正直、ヴィンセントにしてもらうことは
何もなかった。

でもそれは言えなかったから
俺はヴィンセントの膝から
立ち上がり、ノートを取り出した。

「今の精霊の樹の状態を
記録しようと思うんだ。

ヴィー兄様も、
この精霊の樹で気づいたこと、
何でも教えて?」

俺がそう言うと
ヴィンセントは頷くと、
ゆっくりと精霊の樹の周囲を
回り始めた。

上を見たり、幹に触れたり。

その都度、気が付いたことを
俺に伝えてくれる。

俺はそれをノートに書き込みながら
自分でも精霊の樹を見上げてみた。

下から見上げると
とても大きい樹木だとわかるが、
葉や枝先は枯れ始めていて
痛々しく思う。

本来であれば、この精霊の樹を
蘇らせることができれば
良かったのだが、
きっと俺にできるのは
新しい種を芽吹かせることだけだ。

この精霊の樹は次代に
役目を移してこのまま
枯れていくのだろう。

「イクス、それでその猫?は
この精霊の樹の中にいるんだな?」

「うん、たぶん」

ヴィンセントはいつのまにか
メジャーみたいなものを持って
樹の周囲の大きさを計っていた。

俺にその大きさを伝えてから
ヴィンセントは精霊の樹に
向かって立った。

そして両手を幹に付けて
「おい」と言う。

「いいか?
イクスは俺のだから
ちょっと貸すだけだ。

イクスがどんなに重要でも
すげぇことができても、
俺のだからな。

取り込んで、
自分のもんにしたら
即効、この樹ごと剣で
叩き切るぞ。

俺の火魔法を組み合わせた剣なら
これぐらいの太さの樹なんて
一瞬で倒せるからな」

え!?

何、喧嘩売ってんの?

っつーか、
精霊の樹の幹の太さを
量ってくれたのは
記録の為じゃなくて
自分が剣で倒せるかどうか
確かめる為だったのか?

いやいや、ちょっと感覚がおかしい。

どうした?
そんなキャラじゃなかっただろ?

「ちょ、ヴィー兄様」

なに精霊?に喧嘩売ってんだよ。

焦る俺に、ヴィンセントは
物凄くいい笑顔を俺に向けた。

「きちんと伝えておかないと
イクスが頑張ったことで
妙なことになりかねないからな。

自然界ではどちらが上か、
示しておくことは重要なんだ」

それって、精霊の樹より
自分の方が格上だっていいたいのでしょうか?

って、俺まで丁寧語になっちまうぞ。

なんかわからんが
ヴィンセントが壊れてきている。

ちょっと心配させ過ぎただろうか。

俺はヴィンセントの腕を引っ張り、
精霊の樹から引き離す。

「もう、ヴィー兄様、
相手は精霊と精霊の樹なんだよ。

人間とは感覚が違うかもしれないし
僕はジュと友達になったんだから」

「ジュ? 誰だ、そいつは」

そうか、俺はまだ
あの白い羽の生えた猫の名を
ヴィンセントには言ってなかった。

「白い羽の猫のことだよ。
ジュって名前なんだ」

たぶんな。

「ジュ?
随分と簡素な名前だな」

まぁ、そう思うよな?
俺もそう思った。

「もしかしたら
愛称かもしれないけど。

あまりちゃんと会話は
できなかったんだ。

でも多分、それが名前だと思う」

俺がそう言うと、
ヴィンセントはまた眉間にしわを寄せた。

「あちこちで愛想を振りまいて
親しい者を作るのは
俺は感心できない」

……ん?

何やら早口で言われたが
良く理解できなかった。

「イクスはまだわからないだろうが
笑顔で人を騙すやつもいる。

人間はイクスのように
優しく善良な人間ばかりではないんだ。

親切そうだとか、かわいいとか
優しくされたとか。

そんな理由で友達を作るのは良くない」

いや、そうかもしれないけど?
俺は公爵家の人間だし、
そうなんだろうけれど。

だが今、何故そんな話になる?

ジュは精霊?とかそういう存在で
人間では無いし、
どうみても俺を騙して
得をする存在にも見えない。

だって俺は唯一、
精霊の樹をなんとかできる
存在なんだぞ。

と思ったが、ヴィンセントは
俺の顔を見て、俺が何を考えたのか
理解したのだろう。

「人間だろうと精霊だろうと
関係ない。同じだ。

自分の利益になるなら
イクスを利用するためだけに
近づき、騙すことも可能だろう」

そうだけど。
それを言い出したら
誰も信頼できないじゃん。

いくら何でも心配しすぎではないのか?

とはいえ、
ヴィンセントが俺の為に
言ってくれていることは
理解できるので、反論しづらい。

何をどう言おうかと
迷っていると、
突然、精霊の樹が淡く光った。

ヴィンセントが咄嗟に
俺の腕を引き、抱き寄せる。

すると、精霊の樹の光は
どんどん強くなっていき、
眩しい、と感じた瞬間、
その光は幹から飛び出してきた。

『シャー!』

飛び出してきた光は
羽の生えた白い子猫になった。

そして四つ足で地面に着くなり、
ヴィンセントを見て威嚇した。

「なんだコイツ、
俺に喧嘩を売る気か?」

いきなり現れた羽の生えた子猫に
ヴィンセントは驚く様子もなく
子猫をにらみつけている。

ちょっと。
いくら俺が話をしてたからと言って
少しぐらいは驚けよ。

順応しすぎなんじゃないのか。

いや、その前に。
こんな小さな小動物をいじめんなよ。

いくらヴィンセントでも
弱い者いじめはダメだぞ。

俺はヴィンセントの腕から抜け出し
「ジュ」と子猫に声を掛ける。

「精霊の樹の中から出れたんだね」

俺がしゃがんで手を伸ばすと
ジュはヴィンセントを威嚇したまま
ゆっくり俺の手に前足を乗せた。

ちょこん、と乗った肉球の感触と
牙をむき出しにする子猫の姿が
驚くほど、可愛い。

本物の猫だったら、
かわいい、かわいいと、
ぐりぐり撫でて、なんなら
猫吸いなるものをしてみたいぐらいだ。

『トモ・ダチ』

また頭に声が響く。

「うん、そうだね。
僕に会いに来てくれたの?」

俺が聞くと、
ジュは猫らしい仕草で
俺の手に顔を擦りつけた。

うっわー、可愛い。

俺が思わずジュを抱き上げると
ジュはちらり、とヴィンセントを見た。

もう牙は出てなかったが
何故か猫の顔なのに
得意げに笑ったような気がする。

「ねぇ、ジュ。
さっき言ってたノート、
ちょうど持って来てるんだ。
一緒に見る?」

俺がそう言うと、
ジュは猫らしく、にゃん、と鳴く。

俺はその言葉に気を良くして
何やら言いたげなヴィンセントに
目くばせをして
精霊の樹にもたれた。

そしてゆっくりと腰を下ろす。

俺はジュを肩に乗せて、
持って来たノートを見せた。

ヴィンセントが俺の隣に
座ろうとしたが、
何故かまたジュが、シャーっと
威嚇の声を出す。

「ジュ。
ヴィー兄様だよ。
敵じゃないよ」

俺がそう言っても
ジュは威嚇をやめない。

「ごめん、ヴィー兄様、
ちょっと離れて座ってもらってもいい?」

このままだとノートの話ができないし。

俺がおずおずと聞くと、
何故かヴィンセントはものすごく
傷付いた顔をして、
悲しそうに精霊の樹から
離れた場所に移動した。

なんか、ごめん。

と言いたかったけれど、
ヴィンセントが居なくなった途端、
ジュは嬉しそうに俺の肩の上で
ゴロゴロと喉を鳴らして
俺の頬に顔をすりよせてくる。

……かわいい。
かわいいが、何故そんなにどや顔なんだ?

ヴィンセントは離れた場所にある
樹木にもたれて俺たちを見ているが
物凄く視線が痛い。

何故だ?

なんでこんなに空気が悪いんだ?

なんか俺、胃が痛くなってきた気がする……。









しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

きよひ
BL
 ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。  カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。  家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。  そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。  この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。 ※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳) ※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。 ※同性婚が認められている世界観です。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...