【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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魔法と魔術と婚約者

47:古語と魔法

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 この話以外の本に
収められていた小話も
似たような話だった。

精霊が出てきて
魔法を使う人間と
恋に落ちたり、
一緒に冒険をしたり。

とにかく仲良くなって
奇跡が起こるのだ。

ただし、1話、1話、
出てくる精霊の種類も
魔法を使う人間の魔法属性も違う。

俺はそれをノートに書き出した。

何ひとつ被らないのは偶然だろうか。

もしこれが、当時の子どもが
読む絵本だったとして。

精霊や魔法を教えるために
作られた可能性はないだろうか。

たとえば、前世で言う
知育絵本のように。

そうでなければ、
『光と水を重ねたら種になり、
樹であればしずくになる』
という文言が、
絵本にまで出てくるのはおかしい。

何か意味があり、
俺が見た本だけでなく
この絵本にも書かれているのだ。

そしてこのような文言は
1話に1つ、必ずついている。

つまり、文言と物語が
何らかの意味があり、
連動しているのだ。

俺は丁寧に絵本の内容と
文言をノートに書き写す。

これ、俺の部屋にある古書と
照らし合わせたら
新しい発見があるかもしれない。

くそー。
こんなことなら、あの本、
持ってくればよかった!

俺は悔しい思いをしながら
必死でノートに日本語を綴る。

書きなぐるようにして書いたので
若干、ノートの文字は歪んでしまったが
まぁ、俺が読めたらそれでいい。

ようやくノートを書き終え、
冷めたお茶を飲んで一息ついていると
部屋の扉をノックする音が聞こえた。

俺は慌ててノートを閉じて返事をする。

すると扉が開き、
ヴィンセントが入って来た。

「何か面白い本でもあったか?」

言いながらヴィンセントは
テーブルの上の古書に目を向ける。

「……面白いか?」

「うん、絵が綺麗なんだ。
ほら」

と俺は古書を広げて
少女が精霊の樹と話をしている
絵をヴィンセントに見せる。

色あせてはいたが、
神秘的で綺麗な絵だと思う。

すると、椅子に座ろうとしていた
ヴィンセントは、その絵を見て
動きを止めた。

「ヴィー兄様?」

どうした?

「あ、いや。すまない」

なにが?

ヴィンセントは椅子に座り
「手紙の内容と似た絵だと思ってな」と言う。

手紙とはさっきの手紙のことだろうか。

俺がヴィンセントを見ると
ヴィンセントは、じつは、と
辺境伯領の話をはじめた。

辺境伯って、ヴァルターの実家だよな?

俺は椅子に座り直して
ヴィンセントの話に耳を傾ける。

ヴィンセントは今から話すことは
公にはしてないから内緒だぞ、と
前置きをして、
ヘルマン辺境伯領にある
森と不思議な精霊の樹の話をした。

その話を聞きながら
俺は必死に胸を押さえる。

そうでなければ、叫び出しそうだ。

だって、辺境伯領の話は
今読んだ古書に書かれていたことと
全く同じだったからだ。

「それでな、その精霊の樹の様子が
おかしくなってから、
他国との小競り合いや
流行病が流行ったりと
ここ数年、あまり良い話は
聞かなかったのだが、

今年に入りヘルマン領は
日照りが続いて苦しい状況らしい。

ヘルマン領には大きな川もあるが
それもだんだん干上がってきているそうだ」

本気か。
それって、絵本の話が本当に
あったことだったとしたら
その精霊の樹ってのは、
寿命ってことにならないか?

「それで、水魔法を使える者を
集めているらしいのだが
状況はあまりよくないらしい」

ヴィンセントが言うには
成人の儀をヘルマン辺境伯領で
する予定だったが、
無理そうだという連絡だったらしい。

今年も来年も。
この分だと領地も荒れるだろうし
満足な成人の儀ができるとは
思えない。

手紙にはそう書かれていたと
ヴィンセントは言う。

「成人の儀なんて俺は
どうでもいいと思うが、
はやり心配でな」

そういうヴィンセントは
辛そうな顔をする。

「とはいえ、
俺は火魔法しか使えないし、
ハーディマン侯爵家としても
食料などの支援はできるが……」

だよな。

ハーディマン侯爵家は火魔法の家系だもんな。

水魔法と言えば
俺や兄、父も使えるが、
辺境伯と父は懇意ではないから
さすがに公爵家に支援を求めることは
できないのだろう。

とはいえ、俺一人の水魔法で
何が改善できるわけでもない。

なにせ、干ばつとか
そういう自然災害レベルの話だ。

俺みたいな子どもが
水魔法を使えるからと出しゃばっても
面倒が増えるだけだろう。

心苦しいが、
俺にできることは何もない……。

と俯く俺の目の前に、
先ほどまで読んでいた絵本が目に入る。

できることは、ない?

……ないかもしれない。

でも、この絵本みたいに、
もしヘルマン辺境伯の屋敷にも
似たような本があったら?

その本に、聖樹のことが
書いてあるかもしれない。

古書で書かれているから
誰も気に留めなかったかもしれないけれど、
辺境伯領の危機に関して、
歴代の当主が何もしてこなかったなんて
ことはないと思う。

そして、聖樹のことが
他領には内緒にしているのなら
聖樹のことを絵本にして
代々、当主に受け継いでいても
おかしくはない。

もしそれがあれば、
俺がそれを読むことができれば
辺境伯領を救う何か策が……

いや、そんなものがなくても
俺の部屋に置いてある本と
この絵本を照らし合わせてみたら
何か策が生まれるかもしれない。

このままだったら、
辺境伯領で多くに人たちに
被害が及ぶかもしれない。

それなら、何もしないよりも、
動けるのなら動いた方がいい。

俺が勢い良く立ち上がると、
ヴィンセントが驚いた顔で
俺を見た。

そうだ。

動こうと言っても、
俺は今、ハーディマン侯爵家にいるし
何をどうやって説明する?

俺は古語が読めます。
魔術を研究してますって言うのか?

無理だ。

信じてくれる可能性は低いし、
もし信じてくれたとしても、
それはそれで、危険度は増す。

だって魔術だぞ?

それを解き明かすなど、
この世界の常識をひっくり返すほどの
発見になる。

どうする?

だが俺が動かないと、
ヘルマン辺境伯の領地で
大量の死者が出るかもしれない。

俺には関係ないと言えばそうだが、
それでも、このまま見過ごしていいのか?

俺にならなんとかできるかもしれないのに?

やばい。
心臓がバクバク音を立てている。

「イクス?」

ヴィンセントが心配そうに俺の名を呼ぶ。

「ヴィー兄様、僕……」

自分の身を守るために、
多くの人を犠牲にするのが最善なのか?

だが、俺の場合、
自分の身だけではない。

最低でも俺の秘密を父と
辺境伯には打ち明けなければならない。

そうでなければ辺境伯に
行くことはできないし、
行ったとしても、辺境伯に
事情を説明しなければ
相手にしてもらえないだろう。

そして最悪、ヴィンセントにも
話さねばならなくなる。

どうする?
どうすればいい?

俺は唇を震わせてヴィンセントに視線を向けた。



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