【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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魔法と魔術と婚約者

46:古書絵本

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 お茶の時間が終わった後、
ヴィンセントはしなければならないことが
できてしまった、と俺に
申し訳なさそうに言う。

俺は手紙の返事でも書くのかと思い、
素直に、わかった、と頷いた。

図書室に行っても良いかと聞くと、
構わないと言われたので
俺は荷物整理をしていた
リタに言って、ノートとペンを
取り出してもらった。

それから屋敷に侍女に
案内してもらって
図書室へと向かう。

ここの図書室はいつ来ても
綺麗に掃除してあって
本も丁寧に保管されている。

もちろん、古書だって
さすがにぼろぼろの本を
新たに製本するようなことは
されていないが、
それでも本がばらばらにならないように
紐でくくってあったり、
埃が付かないように
物凄く古そうな本は
カバーをかけてあったりする。

俺はそのカバーの本を
めくってみるのが好きだった。

中に何が書いてあるのは
表紙がカバーで隠れているから
見ただけではわからないからだ。

以前、ここに来た時は
ドキドキわくわくでカバーを
開いてみたら、昔の料理本だったから
思わず笑ってしまった。

古書だからと言って、
魔法や魔術のことばかり
書いてあるとは限らないのだ。

昔の人たちも、
今の俺たちと同じように
料理を作って、生活していた。

当たり前のことなのに、
俺はそのことに気が付いて、
大発見したような気分になった。

その時のわくわく感は
今でもすぐに思い出すことができる。

今日もそんな新発見があるのだろうか。

図書室に着くと、
侍女は俺のために準備した
お茶をテーブルに置き、
「何かあればお呼びください」
と呼び鈴を残して退出する。

俺はお茶の隣に
ノートとペンを置いて準備をした。

「さて。
今日はどんな本と会えるかな」

楽しみだ。

古書の棚はこのテーブルのすぐそばにある。

侯爵家は絵が綺麗な古書ばかり
集めてくれているので、
まずは表紙で決めよう。

そう思って俺は
1冊づつ表紙を見ながら
読む本を探していく。

棚にはいろんな本があって
題を読むだけでも面白い。

侯爵家の人たちは
ただ古書だから、と言う理由で
俺のために本を集めてくれているのだろう。

だが、古語が読める俺にとっては
目の前の本は本当に
バラエティーに富んでいる。

本の題名を読んでみると

『愛しの彼の心を射止める方法』

『これであなたも自由人になる』

なんだよ、自由人って。
表紙にツッコミするぞ。

『保存食の作り方・最新版』

今はもう、最新じゃないけどな。

『向かってきた剣はこうやって防ごう』

って危ないな、何かの指南書か?

心の中でツッコミを入れつつ
見ていくと、ふと、一冊の本に目が留まった。

絵本だろうか。

『聖樹と恋に落ちた少女』

樹と恋に落ちたのか?
どう言う意味だ?

俺は本を手に取ってみた。

思った以上に分厚くて
結構重たい。

その本をテーブルに置き、
俺は椅子に座った。

サイズも大きめで、
小さな子に読み聞かせを
するための本なのかもしれない。

ページには古びた絵と、
大きめの文字が書かれている。

絵本のようだが、
目次を見ると、
いくつもの話が入っている
小話総編集のようだ。

どれどれ、と俺はページをめくる。

昔の子どもはどんな絵本を
読んでいたのだろう。

そう思ってめくった一枚目で
俺は動きを止めた。

だって。

『光と水を重ねたら種になり、
樹であればしずくになる』

なんて、大きな文字で書いてあったのだ。

俺が、謎に思っていた、
あの文言だ。

もしかしたら、この本を読んだら
あの言葉の意味がわかるかもしれない。

俺は興奮を抑えながら
ノートを広げた。

これでいつでも描き写すことが可能だ。

俺はゆっくるとページをめくる。


 物語は不思議な内容だった。

水魔法を使う少女が、
森の中で1本の樹を見つけた。

その樹は長い間、
その土地を守って来た精霊が
宿る樹だった。

少女はその樹を一目見て
その美しさに心を奪われる。

そして少女は、何日も、
何日も、その樹のところに行き、
話しかけた。

まるで恋人に話しかけるように。

その日にあったこと。
親友と喧嘩をしたこと。
両親に怒られたこと。

話をすると、樹木は少女に
応えるように葉を揺らし、
風が吹いた。

そんな穏やかな日が何年も続いたが
ある年、その土地が干ばつに襲われた。

森は枯れ、少女が見つけた樹も
また、葉を散らしていく。

少女は必死で自分の魔法を使い、
樹に水を上げたが、
それぐらいの水では
状況は何も変わらなかった。

そこで神に祈る。

どうか、雨を。
皆を助けて。
この樹を助けて。

少女は必死に祈る。

すると、目の前の樹が
突然、輝いた。

驚く少女の前に、
樹の精霊が姿を見せる。

そして言うのだ。

『もう私は無理だろう。
寿命だったのだ。

そなたの話は楽しかった。
そのお礼に、私の『種』を託そう』

精霊はそう言い、
少女の手に1つの『種』を渡した。

そして少女の目の前で
樹はどんどん枯れていく。

少女は泣いた。

そして、手にした『種』を
樹のそばに植えた。

すると、枯れていく樹の枝から
しずくが落ちた。

ぽとん、と水滴が地面に落ちる。

すると、土に植えた『種』が
芽を出した。

また枝からしずくが落ちる。

また『種』が成長する。

そしてみるみるうちに
少女が植えた『種』は成木になった。

それでも樹はしずくを垂らし続ける。

干ばつで苦しんでいた土地に
しずくは染みわたり、
枯れた畑が潤いを取り戻していく。

驚いた村人たちが
水が流れてくる先をたどっていくと
枯れ始めていた森が
生き返ったように青々と
葉を茂らしている。

そしてその奥で枯れ始めた樹から
水がしたたり落ちているのが見えた。

そばで泣いている少女から話を聞き、
村人たちは精霊に感謝を捧げた。

枯れていく樹は最後に
大きなしずくを落とすと
さらさらと小さな破片になり
風に飛ばされていった。

樹木がすべて風に
吹かれて無くなった時、
成木の周辺には大きな川が生まれていた。

村人たちは精霊に感謝をして
成木を精霊の樹として崇め、
この森の奥を神聖な場として
立ち入り禁止にした。

ただし少女だけは
精霊の樹に近づくことを許された。

少女は毎日魔法で精霊の樹木に
水をやり、話しかける。

そうして村は精霊の樹に守られ
それ以降、干ばつで苦しむことは
なくなったという。

めでたしめでたし。


……はー。
凄い内容だった。

恋に落ちたのか?とは思うが、
まさかこのハーディマン領の
話ではないよな?

森も川もあるし……。
いやいや、精霊の樹なんて
聞いたことが無いし、違うだろう。

でも、気になる。

ちょっと森に行って
探してみるか?

俺はそんなことを思いつつ、
次のページをめくった。






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