【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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子ども時代を愉しんで

14:内密の婚約【ヴィンセントside】

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 イクスたちが領地に来て
数日後、俺は父に呼び出された。

長期休暇中だとはいえ
俺もイクスたちと遊んでばかり
いるわけにはいかない。

レックスは学校の課題を
持って来ていたようで
部屋でそれをしているし、

イクスは一人で外に出ることは
禁止しているので、
俺やレックスが忙しい時は
屋敷の図書室に入り浸っている。

この屋敷の図書室の蔵書の数は
かなり多いとは思うが、
実際に利用している人間は
あまりいない。

いや、まったく、ない。

俺も父も祖父も本には
あまり興味がない。

ただ、興味は無いが、
知識は必要だということは
理解している。

だから図書室があり、
年々、予算を組んで
蔵書の数も増やしている。

ただ読む人間がいないだけだ。

母や祖母も本は読むようだったが
読み浸るほどではない。

だからイクスが本を読みたいと
言った時に一番喜んだのは
家令たちだった。

集めるだけ集めて、
誰も読まない本を整理するのは
辛かったのだろう。

執事も侍女長も喜んで
イクスのために図書室に
イスやテーブルを準備して
快適空間を作ってしまった。

もちろん、イクスが
無理をしないように
適度にお茶やお菓子を運び
体調管理をすることも忘れていない。

そうやって俺は
レックスともイクスとも
離れていた時に父に呼び出されたのだ。

「お呼びですか?」

父の執務室に行くと
騎士団から戻ってきていたらしい
父が俺を出迎えた。

俺は長期休暇中だが
騎士団を率いる父が
昼間に屋敷にいることは珍しい。

「来たか」

父は難しい顔をして
座っていた椅子から立ち上がる。

常にない様子に俺は
気を引き締めた。

「何かありましたか?」

俺の言葉に父は頷き、
俺を近くのソファーに促す。

俺が座ると父も俺の前に座った。

「じつはな、
今日、陛下に呼び出されて
王宮に行ってきた」

「陛下に?」

何事かと俺は思ったが、
父は俺を見つめて予想外のことを言った。

「あぁ、お前とパットレイ公爵家の
子息との関係はどうなっているかと、聞かれた」

「は?」

聞かれている意味がわからず、
俺は父を見返した。

父は眉間にしわを寄せる。

「イクス君が怪我をした経緯を
教えただろう。

その責任を取って、
第二王子のクルト殿下が
イクス君を娶ると言う話が出ている」

俺は思わず固まった。

「陛下はもちろん、
イクス君が望むのなら、
とは言っていたが、
どうやらクルト殿下は
イクス君のことを元から
慕っていたようだな」

待て待て。
そんな話は聞いてない。

というか、
あの二人の間には
どうみても友情しかなかったではないか。

俺の驚きに気が付いたのか、
父は俺を見ながら
「あの一件で恋心に気が付いたそうだ」
と言葉を付け加えた。

「ただ陛下が動くと
王命になり、イクス君に
選択肢が無くなってしまう。

だから陛下は先に
私を呼び出したのだろう」

俺は自分が動揺していることに気が付いた。

何故なら、心臓がバクバクなって
イクスが俺にしがみついてきたように
指先が震えているからだ。

「おまえはイクス君と仲が良い。
イクス君はどうみても
お前を慕っているようだしな」

兄としてかもしれんが、と
父は付け加えることを忘れなかった。

「パットレイ公爵にも
陛下との会談の後、
すぐに会い、話を通している。

もしお前が望むのなら
イクス君との婚約をー」

「ま、待ってください。
イクスはまだ10歳ですよ?」

「そうだ。
だが王家から婚約を打診されれば
断れないだろう。

私も、パットレイ公爵も
王家にイクス君を渡すぐらいなら
うちが良いと判断している。

うちならばイクス君を守れるが
他の家門では無理だ」

それはわかる。
だが。

「俺はいい。
でもイクスが成長して
誰かを本気で好きになったら?
俺との婚約が足かせになりませんか?」

「……おまえは、いいんだな」

俺の上げ足を取るように父が言う。

「俺は、イクスのことは
可愛いし、守ってやりたいと思います」

それは本心だ。

「そうか。
ならば守ってやればいい」

父はそれだけ言うと、
話は以上だ、という。

いや、何も決まってないし、
どうする気なんだと思ったが、
父の視線に俺は退出するしかできない。

俺はモヤモヤしたまま
その日は過ごした。

夕食の時に俺を見つけた
イクスが俺にまとわりつくのも、
食後に一緒に紅茶を飲むのも
いつものことだったのに。

やけにイクスを気にしてしまい、
レックスに不審がられたぐらいだ。

だが、そんな俺のもやもやは
あっけなく翌日に晴れてしまった。

朝から俺は父に連れられ
イクスもレックスも置いて
パットレイ公爵家に出向いたのだ。

そして両家の話し合いの上、
俺とイクスは内密に婚約をした。

イクスはまだ10歳だ。

俺が将来を決めることに
罪悪感があると告げると、
それならば、
俺とイクスが婚約者で
あることを正式に発表するのは
イクスが成人するまで
待つことにしようと
パットレイ公爵が
提案してくれたのだ。

またイクスにこのことを
告げるのも、イクスがもっと
成長してからにするとも決めた。

今は王家との婚約を回避できれば
十分だという。

王家には知らせるが、
イクスには知らせることはない。

本人の意志もあるし、
まだ婚約するには早いからだ。

ただ、王家からの打診を
なかったことにしても
今後、イクスに婚約の申し込みが
数多く届くことは予想ができる。

それに今は王家も諦めてくれたが、
今後、どうなるかはわからない。

クルト殿下が本気でイクスを
望んで行動することだってある。

そこで牽制することは必要だと
父もパットレイ公爵も考えたらしく
大々的に婚約のことは発表しなくても
さりげなく俺がイクスの
パートナーだと示していくことになった。

ただ、パートナーだと
匂わせているだけで
正式な発表はしない。

それならば、この先、
俺とイクスの関係がどうなったとしても
公爵家とハーディマン侯爵家の
力があれば、なんとでもなるのだろう。

将来、俺かイクスに本当に
愛する人が出来た時は
婚約を解消する余地があることも
確認して、それらを婚約の書類と
共に文字に残した。

書類にはもし
婚約を解消したとしても
双方に問題が無い場合は
慰謝料などは発生しないことも
決められている。

イクスが成長した後に
婚約を解消しても
問題が無いようにしたのだ。

もちろん、俺も問題はない。

それは将来、
婚約を解消できるから
と言う意味ではなく、
婚約をすると言う意味で。

イクスを守りたい気持ちは
本当だったし、
誰にも渡したくない想いは
確かに俺の中にあったのだから。

婚約はその場で
当主同士で決められ、
レックスには公爵が伝えてくれると言う。

弟大好きなレックスのことだ。
俺に山ほど文句を言ってくるだろう。

そう考えるとうんざりするが、
それでも、これでイクスは
もう誰の手に渡ることは無い。

たとえ第二王子でも、
イクスと婚約することは叶わないのだ。

そう思うと俺は心に平穏が広がった。

イクスは俺だけに懐いて、
俺だけに「好き」って言えばいいと思う。

身勝手だとは思うが
俺はもうイクスは自分のものだと言う
満足感でいっぱいだった。

だから。

これから俺との婚約を
知らないイクスに散々、
振り回されることになろうとは
この時の俺は夢にも思っていなかった。


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