13 / 214
子ども時代を愉しんで
13:育つ恋(?)心【ヴィンセントside】
しおりを挟むイクスの怪我がすっかり治った頃、
イクスたちが俺の領地に
遊びに来ることになった。
俺もこのまま長期休暇が
終わるまで公爵家に
滞在するのも気が引けると
思っていたので、屋敷に戻る
良いタイミングだったと思う。
帰省中の馬車の中では
イクスは始終、楽しそうだった。
公爵家の馬車だからか
領民たちが馬車を見かける度に
馬車に道を開けて頭をさげるのだが
イクスはいちいち、
それに反応して手を振っていた。
素直なイクスは純粋に可愛いと思う。
俺もこんな弟が欲しかったと
思うぐらいには、
イクスは可愛い。
馬車の中では
イクスが俺の膝に乗るという
ハプニングもあったが、
それすらも俺には
喜ばしいことだった。
突然、馬車が揺れて
イクスの身体が投げ出されたので
俺が慌てて腕を掴み、
イクスの身体を引き寄せたのだが。
そこからイクスは
俺にしがみついて
俺から離れようとしなかった。
レックスに言われて
俺から体を離したかと思うと、
何故かちょこん、と
俺の膝に座る。
レックスは自分よりも
弟が俺に懐いているのが
おもしろくないようだったが、
俺にヤキモチを焼くレックスを
見るのも、どこか優越感があって
嬉しかった。
それに俺にしがみついた
イクスの指が震えている。
怖かったのだろう。
身体が投げ出されたのだから
階段から落ちた時のことを
思い出したのかもしれない。
俺は無理にイクスを
膝から下すのではなく、
「しばらくはこのままでいい」
と言ったが。
その後、すぐに可愛い口が
「……好き」と呟く。
俺の胸に温かいものが
沸き起こる。
だがそれを隠して
「なんだ、膝に座るのが
そんなに好きだったのか」
と笑ってやると
レックスもその言葉に乗って来た。
きっとイクスが俺のことばかり
好きだと言うのが
気に入らないのだと思う。
なにせレックスも弟が
大好きだからな。
だがそんなレックスも、
馬車移動は疲れたようだった。
俺の屋敷に着いてすぐ、
二人が幼い頃から
屋敷に泊まりに来た時に
いつも使っている客間に
案内させたのだが、
俺が着替えてからその部屋に行くと
何やらイクスがレックスに
訴えている。
何かと思ったら、
イクスは森に行きたいらしい。
レックスは疲れたから
後にしたいらしいが、
イクスは、今がいいと言う。
俺はその話を聞いて
侍女に森に行くための準備をさせた。
レックスが一瞬、
顔を歪めたが無理に付いては来なかった。
ただし「怪我させるなよ」と
小さく俺に言って来たので
それだけは頷いておく。
イクスははしゃいだ様子で
要望を言うが、
全部叶えるのは時間的に無理だ。
1つに決めろと言うと、
森がいいと言う。
「冒険者ごっこ!」
と言われて腕ごと
手を繋がれた時はその小さな体に
少しだけ、ドキっとした。
だがその体の小ささや
肌の白さに、病み上がりだから
無理はできないと思う。
案の定、
イクスは少し歩くだけで
息を切らしていたし、
見ているだけでハラハラする。
俺は何度も声を掛け
こまめに休憩を取った。
それにしてもイクスは
色んなことを考える。
大きな葉を見つけると、
それに穴を3つあけて
顔に貼り付ける。
何かと思ったら
「おばけだぞー、がぉー」と
俺を驚かそうとした。
お化けが、がぉーとは
言わないと思うが、
俺は怖がった方が
良いのだろうか。
迷っているうちに
イクスは俺の反応に
少し唇を尖らせて、
今度は小さな草に目をやると
それを唇に当てて
笛のような音を出した。
これには驚いた。
「凄いな」
そう言うと、
でしょ!と嬉しそうに笑う。
俺が学校に入ってから
この森でイクスと
一緒に遊ぶことはなかったから、
イクスが物凄く成長したように感じた。
ただし、ターザンごっこ
というのは、さすがに無謀だ。
どう考えても、
イクスにできそうにない遊びだ。
俺であればできそうな気がするが、
イクスの腕力で、樹木のツルに
ぶら下がるなど、できるわけがない。
俺がそう指摘をすると
イクスがあまりにもしょんぼりするので
ツルを樹木に括りつけて
似たような感じの遊具を作ってやった。
どうやらイクスはツルで
遊びたかっただけで
俺が作った遊具をいたく気に入り、
俺が呆れるほど遊ぶ。
さすがに休憩を入れて、
イクスに水と干した果実を
渡してやると、冒険者の話になった。
「イクスは冒険者に興味があるのか?」
何気に聞いたのだが、
「うん。なんかカッコイイ。
一人でなんでもできるんでしょ?」
と言う。
俺は何故かおもしろくなくて
騎士だってすごいと主張してしまう。
「……騎士も一人でなんでもするぞ。
野営もするし、携帯食を持って
森で何週間も過ごすこともある」
嘘ではない。
だから騎士だってカッコイイ、
俺はそうイクスに言って欲しかっただけだ。
なのにイクスは、表情を曇らせる。
「騎士はさ、
カッコイイけど、心配」
「なにがだ?」
「冒険者は……何があっても
結局は自己責任だろ」
この言葉には驚いた。
10歳でそんな言葉を知っているのか。
いや、そこまで思慮深く
考えることができているのかと。
だからつい、語ってしまった。
「それでも、騎士は
護りたいものを守れるからな」
冒険者ではなく、
俺が騎士を目指す理由を。
俺の父は騎士団を率いている。
ハーディマン家は騎士の家系で、
長年、騎士団長はハーディマン家の
人間が担って来た。
もちろん、実力で、だ。
だから俺もいずれは
そうなりたいと思っている。
俺は大切なものは
全て俺の手元で、
自分で守りたい人間なんだ。
自分がいない場所で
大切な人が傷付くなど許せない。
そう思った時、
イクスが怪我をしたと
父に聞かされた時のことが
ふと思い出された。
あの時も俺は、
俺がその場にいたら
何があってもイクスを守ったのに。
そう思ったのだ。
「その……守りたいのなかに、
僕も入ってる?」
俺の気持ちも知らず、
イクスが聞く。
「当たり前だろう」
そう言うと、
イクスが俺にしがみついてきた。
「イクス?」
「何かあったら。
護りたいものを守れない時が来たら、
その時は、守らなくてもいい。
僕も、守ってくれなくていいから」
ぎゅっと俺のシャツを握るイクスに
俺は息を詰まらせる。
イクスは他人も自分も
守らなくていいから
ただ、俺自身を、
自分自身を守れ、と
そう叫んでいるように思えた。
心配してくれている嬉しさが
戸惑うぐらいに溢れてくる。
騎士とは誰かを守っても
それが「当たり前」だと
思われている節がある。
だが、騎士だって無敵ではない。
どんなに訓練をしても
怪我だってするし、
最悪命を落とすこともある。
俺はそういうものだと思っていた。
だが俺は自分が
命を落とすような
危機に陥ったとき、
こうして胸をしめつけるようにして
悲しむ人間がいるのだと
思い知らされた気がした。
生まれた時から
俺の父は騎士だったし、
母はおそらく父を心配したり
不安だったこともあるだろうが
このようにあからさまに
父や俺に示すことはなかったから。
俺は戸惑う。
イクスがどう言えば
安心するのかわからない。
結局俺はいつものように
イクスの髪を撫でた。
そして口から出た言葉は
「俺は強いから大丈夫だ」だった。
なんて安っぽい言葉だ。
それでもイクスは笑ったから。
俺はこいつを。
イクスをずっとそばで
守ってやりたいと、そう思った。
691
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる