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愛を求めて

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お風呂ではパニクってしまったけれど、
私は努めて冷静に、お風呂を出た。

お風呂から出ると、
カーティスがタオルを持って
準備していてくれて、
相変わらずの過保護ぶりを
発揮してくれた。


丁寧に体を拭いてくれて、
服も着せてくれる。


服は…いつものような
簡素なシャツとズボンだったけど
生地だけは手触りが良くて、
絶対に高級品だと思ってしまう。

服を着たら、私は手を引かれて
みんながいるソファーに移動した。


私がソファーに座ると、
金聖騎士団の皆が
私の周りに集まってくれた。

懐かしい。

でも、あれからそんなに
時間は経ってないのかな?

私は3人掛けのソファーに座ったので
私の隣には、カーティスとスタンリー。

前のソファーにはヴァレリアン。

その横に、座ってはいないけど
バーナードがいて、
私のソファーの後ろには、
ケインとエルヴィンが立っている。

立場とか、地位とかで
立ったり座ったりする場所が
決まってるのかも?

「ユウ、体調はどうだ?
大丈夫か?」

ヴァレリアンが聞いてくれたので、
私は大丈夫、と笑ってみせる。

その声に、みんなが…
安堵の息を吐くのが聞こえた。

愛されてるみたいで…嬉しい。

「それで…えっと。
どうなってるのか、聞いてもいい?」


この世界の、ある程度のことは
女神ちゃんに教えてもらったけれど。

世界がどうとか、国がどうとか、
そういうのではなくて、

私やみんなのことが知りたい。

ヴァレリアンは頷いて、
女神ちゃんが教えてくれなかったことを
丁寧に説明してくれた。

ま、女神ちゃんは世界レベルのことしか
気にしないだろうし、
人間たち一人一人のことに
関与する気もないから
仕方ないんだろうけどね。



私が『大聖樹』にしがみついたとき、
『大聖樹』から水が溢れてきたけれど
その水『大聖樹』の周囲にしか
溜まることは無かった。


それは見えない壁…
おそらく結界にによって
<外>に出ないようになっているのだと
その場にいた人たちは思ったそうだ。

確かに…あれは水槽みたいだったもんね。

そして私の身体が水に沈んだ時、
急に水がまぶしいほどの光を放って、
全員が目をつぶったとき、

物凄い風と、何かが割れるような…
大きな地響きとがして。

目が開けれない程の
光の中、なんとみんなは、
私と女神ちゃんの
会話を聞いてしまったようだ。

女神がこの世界を諦めてしまったこと。

人間たちが…自分たちが
魔獣や魔物を生み出してしまっていたこと。

女神が頑張って世界を救おうと
しているにもかかわらず、
神殿と王宮で対立をして
状況を悪化させていること。

そして…
私が、この世界を。
みんなを大好きだって思っていること。

そんな話を聞いて、
みんなが、自分たちの行動を
ふりかえり始めた時、

急に空気が熱くなり、
水が蒸発するような気配がして。

それが収まるのを感じて
ようやく目を開けたら…『大聖樹』が
雷が落ちたかのように、真っ二つに
割れていたらしい。

そして私は…
その『大聖樹』のそばで、
丸い水のようなものの中に、
胎児のように体を丸めて眠っていたのだそうだ。

うむ。
だから水のなかで
全裸で寝てたのね。

全裸で!

あ、でも体を丸めて
寝てたのなら…見えてないわよね?

色々…大事なとことか。


……いや、お尻は見えてた、か?

もう、泣くしかない。


まぁ、とにかくそんなわけで、
『大聖樹』は割れてしまったけれど、
私が女神ちゃんを説得している声は
聞こえていたので、全員、教会や
『大聖樹』に祈ったそうだ。


そして…もし世界が破滅に
向かっているのだとしても、
女神に恥じないように生きようと、
神殿と王宮はいがみ合うのをやめ、
話し合いをするようになったらしい。


その姿勢は、騎士と神官、神父たちにも
広がって、いがみ合うのではなく、
話し合おう、という風潮が
王都に広がったらしい。


また、私と女神ちゃんの
会話を聞いていた人たちが、
家族や友人たちに話をして、
<愛>を世界に満たそう、という
考え方が広まったらしい。


そして王都から地方へと、
それは広がり、人々は神殿に行き、
『聖樹』に祈るようになったらしい。


女神への感謝と<愛>を。

そして…『大聖樹』には
私の目覚めを。

その祈りを始めてから、
3か月ぐらい経った頃『大聖樹』に
異変が起きた。


割れたところから、
新芽が出てきていることに
警備をしていた騎士が気が付いたのだ。

もっとも、私が入った水の球体も、
『大聖樹』も結界があって
近寄ることができなかったので、
その新芽に気が付いたのは
かなり枝が大きくなってからだったらしい。

そのあたりから、王都には
各地の神殿から魔物がいなくなったことと、
一斉に枯れてしまった『聖樹』から
新しい芽が出たという報告が相次いだらしい。

国民たちは大いに喜んで、
さらに神殿で祈るようになった。

そうなると、私が目覚めるときが
近いのではないか…という話になり、
この部屋や、私の服。
そしていつでも入れる風呂…と
いろいろ準備をしてくれたらしい。

至れり尽くせりだ。
ありがたい。

ヴァレリアンの話を
一通り聞いて、少し息を付いたとき、
バーナードがケインとエルヴィンに
合図をした。

二人は頷いて…
すぐそばにあった棚から
カップと水筒みたいなものを
取り出して、お茶を入れてくれた。

……私の分だけ。

なんか…お姫様扱い?

ちょっと恥ずかしいんですが。

でも、喉が渇いていたので、
嬉しいけれど。

「ユウは?
ずっと眠っていたから
何も…変わってないのか?」

ヴァレリアンに聞かれ、
私は悩む。

何を伝えるべきか…。

言った方が良いことと、
言わなくてもいいことの区別が
うまくできない。

悩んでいると、
カーティスに手を握られた。

「悩まずに話して?
一緒に考えよう。

それが大事なんでしょ?」

と笑って言われて、
私が女神ちゃんに言ってたセリフか、
と思い当たる。

そして…私は、話すことにした。

この世界の『聖樹』は、
みんなの<感謝>と<祈り>で
再生しはじめていること。

けれども、<祈り>だけでは
『聖樹』の成長は遅いこと。

私が…とりあえずは
『大聖樹』に<祈り>を捧げて
成長させていかなければならないこと。

これだけを告げた。

ある程度めどが立ったら
国中の『聖樹』の成長を助けてるために
<祈り>を捧げる行脚にでかけて欲しい…と
女神ちゃんに頼まれていることは、
内緒にしておく。

心配かけるだろうし、
行くのなら…一人で行くと決めている。

だって、みんな王家の人とかだし、
身分とか関係ないって言えるのは
バーナードとエルヴィンみたいだけど。

バーナードは婚約者さんと
結婚するから一緒に旅なんかできないし。

エルヴィンだって、
将来有望な聖騎士の将来を
私や女神ちゃんの都合で
台無しにするわけにはいかない。

でも言ったらきっと、
ついて来るって言いそうだから
絶対に言わない。

「そんなわけで、当面は、
『大聖樹』のお世話をしたいと思ってます。

それで…
『大聖樹』の傍で寝泊まりする場所を
確保したいと思ってまして」

もう全裸で寝てたわけだし、
『大聖樹』の横で、毛布一枚で
寝ても大丈夫だけどね。

と、半分ヤケになって言ったら、
カーティスが何言ってるの?って笑った。

「ここはユウの部屋だからな。
好きに使えばいい」

私の隣にいたスタンリーが口を開く。

「え?
こんなに豪勢な部屋を!?」

王子様のカーティスが使ってる部屋かと思った。

「ここなら神殿も王宮も関係ない。
『大聖樹』の宮だからな。

『大聖樹』は近いし、
問題はないだろう」

ヴァレリアンに言われて、
確かにそうか、とも思う。

私が神殿に属するか、王宮に
属するかでもめていたのなら、
中立の場所っていうのは大事だよね。

「でも、こんなに広い部屋、
いいのかな?」

一人で使うのに、
なんだか申し訳ない。

と言うと、
「一人じゃないよ」とカーティスが言う。

「ん?
一人じゃない?」

「だって、この部屋は、
私たち金聖騎士団、全員が
使える部屋にもなってるからね」

んん?

意味が分からんぞ??








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