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愛を求めて
84:羞恥心は捨てました
しおりを挟む「女神ちゃん、
逃げるなーっ、卑怯者ーー!」
と叫んだ瞬間、
私は…ゴボっと息を吐き出した。
口の中に水が入ってきて、
息ができない。
なんで?
どうなってんの!?
って思って目を開けたら、
私は水の中で溺れてて。
なんで!?
と思って、手を動かしたら、
パシャ!と音がして…
水が、割れた。
私は頭から水をかぶって、
呆然とする。
「まじか。
やっぱり、また水か。
女神ちゃん、そろそろ本気で怒るわよ?」
とつぶやいて。
ふと、視線を感じて
私は顔を上げた。
すぐそばで…目を見開いて
私を見ている青年が数人いた。
騎士…だろうか。
それとも聖騎士なのか。
わからないけど、
剣を腰に下げた制服の人たちがいる。
「えーっと?」
状況がつかめない。
制服を着た騎士っぽい人たちの
後ろに、神官さんっぽ人たちもいて。
その人たちが慌てたように
何かを言って走っていくのが見えた。
でも、頭が痛くて…
ちょっと現状がつかめない。
酸素不足かも。
なんでいつも、水のなかに落とすのかなぁ。
いや、ここは最初みたいに
湖とか池ではないから…
ん?
ここってどこ?
こめかみを押さえて、
せめて現状を説明してから
この世界に落としてよ、
と、女神ちゃんに悪態をつく。
うずくまっていたけれど、
髪からは、ぽたぽた水が
したたり落ちてきて、うっとおしい。
指や足に力を入れてみると、
立てそうだ。
よし。
とにかく立ち上がって、
状況を確認しよう。
周囲は、どんどん騒がしくなっていって、
私は近くにいた制服の青年に
声を掛けることにした。
が。
立ち上がって青年を見ると、
彼は急に真っ赤になって、
私から顔をそむけた。
なぜ?
初対面で顔をそむけられるほど
今私は、酷い状態なのだろうか。
「ユウ!」
悩みそうになったが、
すぐに、聞きなれた声に
私は自然と笑顔になる。
「カーティス!」
カーティスが走ってきて、
私を抱きしめてくれた。
ぎゅーっと抱きしめられ、
心配かけたのかも、と思う。
その後、すぐにヴァレリアンと
スタンリーが走ってきて、
やっぱり抱きしめられた。
一人づつ、抱きしめ合って
お互いを確かめているうちに、
バーナードとエルヴィン、
ケインもやってきて、
やっぱり抱き合ってしまう。
「よかった、ユウ。
もう…目覚めないかと思った」
泣きそうな顔で、
最後に抱き合ったケインが言う。
「そんなに長い間、私は寝てたの?
というか…どういう状況?」
って皆の顔を見て尋ねると、
バーナードが話をする前にこれを着て、
と、上着を渡してくれた。
あぁ、何故か濡れてるもんね。
と、思って上着を受け取ろうとして
私は気づいてしまった。
「な、な、なんで私、裸なのー!?」
思わずしゃがみ込んだ。
バーナードが上着を肩にかけてくれて、
「俺の上着が一番大きいだろうから、
今はこれで我慢して」
と言って抱き上げてくれた。
バーナードの上着に袖を通すと、
カーティスが上着のボタンを留めてくれた。
「まずは…着替えないとね。
おいで」
とカーティスに言って、
先導するように歩き出す。
私はバーナードに抱き上げられたまま、
他の皆と一緒に、カーティスの
背中を追いかけた。
裸…全裸だった。
その事実が衝撃すぎて、
私はなかなか現実を見ることができない。
けれども、移動していると
目の端に神官さんや騎士さんたちの
姿が見えた。
みんな、驚くような顔をして
私を見つめてくる。
えーっと、私が全裸だから驚いてるの?
全身、ぐしょ濡れだから驚いてるの?
なんだか、いたたまれない。
私はバーナードの肩に
顔をぐりぐり押し付ける。
すると…いつもの慣れ親しんだ感触で、
なんだか安心した。
うん。
安心のお兄ちゃんだ。
ちょっと落ち着いてきたので、
みんなを見てみると、
あんまり…変わってないような気がする。
女神ちゃんの成長ぶりに、
何年も間が空いているのかと
思ったけど…そんなことは
ないみたいだ。
カーティスは廊下を通って、
奥まった場所にある部屋の前で
立ち止まった。
部屋の前には衛兵みたいな
人がいて、カーティスの合図で
部屋を開けてくれる。
もしかして、偉い人が使う
部屋なんだろうか。
部屋に入ると、そこは…
めちゃめちゃ広い部屋だった。
入ってすぐ左側には
大きなテーブルを挟んで
3人掛けのソファーが2つ。
1人掛けのソファーが2つ。
その隣には給仕用の
テーブルや棚がある。
逆に右側には、
これもまた大きな…
驚くほど大きな天蓋付きのベットがあった。
その傍には、クローゼットらしきものもある。
えーっと。
ワンルームマンション?
かなり広いけど。
ヴァレリアンが何やら
外の衛兵みたいな
人たちに何かを伝えていて。
カーティスが部屋に入るなり
バーナードの腕から
私を取り上げた。
「ユウはお風呂に入ろう。
体が冷えたでしょ?」
と、私を抱き上げたまま
カーティスはベットの奥に進む。
その奥には扉があって、
開くと…広い…お風呂があった。
しかも、浴槽には湯が…すでに
あふれんばかりに溜まっている。
「ユウがいつ目覚めるか
わからなかったからね。
いつでも入れるように
毎日準備をしてたんだよ」
なんてカーティスは言いながら
私が着ていたバーナードの上着を脱がす。
「え、っと、あの?」
「まずはあったまってから。
ね?」
と優しく言われ、
私は素直にお風呂に入ることにした。
どうせ、身体は水浸しだし、
服は…着ないとダメだしね。
私を湯舟に浸からせると、
カーティスは着替えを用意するね、と
言って、風呂場から出ていく。
私は湯舟に浸かり…
徐々に思い出してきた。
そういえば…最後の時、
私は全裸で『大聖樹』に抱きついたんだった。
そう。
あの時は必死で…
私の身体から<愛>を
『大聖樹』に送るから、
服は邪魔になると思ったんだった。
私の汗や唾液も<聖なる加護>になるから
汗の一滴さえも『大聖樹』に吸わせてやる!
って思ったもんね。
思ったけど…冷静になると
恥ずかしすぎる。
どんな痴女だよ、って思う。
うん。
さっきの人も…
びっくりしてたもんね。
いきなり私が全裸で
出てきたら、そりゃ驚くわ。
しかし、私はなんで
あの場所にいたんだろう?
しかも、全裸で。
目を閉じて考えて…
そういえば、女神ちゃんの涙が
『大聖樹』から溢れてたのを思い出した。
そっか。
私が濡れた水は、
女神ちゃんの涙の残りだったのかもしれない。
私の身体は女神ちゃんの涙に包まれ、
守られていたのかな?
この世界でまた生きていけるように。
ん?
待って?
全裸で眠ってたの?
あの場所で?
みんなが集まり、
祈りを捧げていたらしい
『大聖樹』の前で…?
私の裸…もしかして
常に見られたい放題!?
マジで!?
信じらんない!
ちょっと、女神ちゃん!
何してくれてんの?
文句言わせろーー!!
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