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愛とエロはゆっくりはぐくみましょう
66:いきなり急展開?!【2】
しおりを挟むバーナードから王宮や
神殿の話を聞いた日は、
夜まで待ったけれど、
エルヴィンもケインも来なかった。
バーナードは心配しなくてもいいと
笑っていたし、
すぐに決めることが
できるような問題では無いから
腰を据えて待つしかないだろう、
と言ってくれた。
確かに、指示がないと
何もできないのは確かだ。
でも。
私は不安…しかない。
だって、たぶん、時間がない。
女神ちゃんの試験だって
そもそも時間が無いって話で
私がこの世界にやってきたのだし。
女神ちゃんの放置していた
聖女ストーリー用の【試練】も
どれだけ撤去できたかわからない。
つまり、時間が無いし、
どんな【試練】が今後、この世界に
もたらされるかわからない。
そしてその【試練】は
人間では対処できない災害級の
【試練】なのだ。
それは…バーナードが
命を落としかけたあの魔獣で
実証済みだ。
どうする?
バーナードに、時間が無いって
伝えてみる?
でも、根拠は…ない。
女神ちゃんのところと、
この世界では、時間の感覚…
流れ方が違うこともわかっている。
女神ちゃんの【時間がない】が
この世界でどれぐらいの【時間】なのか
何もわからないのだ。
でも、たぶん、切羽詰まってるような気がする。
だって…聖獣たちが姿を見せない。
私の怒りが収まるだろうと、
ワイロ的に生まれた聖獣…ホワイトや
ブラウンさえ、私の顔を見に来ない。
これは…マズイんじゃないの?
モヤモヤして、
なかなか眠れなかった。
バーナードが心配してくれて、
夜中に昨日飲んだお酒を
少しだけ入れたお茶を飲ませてくれた。
すぐに身体があったかくなって。
無性にバーナードに甘えたくなって。
女神ちゃんの呪いが出ないように
俯きながらバーナードにしがみついたら、
バーナードは背中をぽんぽん、と
叩いて、一緒に眠ってくれた。
22歳にもなって
何してるんだ!?って
恥ずかしくなったけど。
私はこうして、この世界で
『人生をやり直している』のかな、と
バーナードの腕の中で
なんとなく思った。
元の世界の私は、
愛情とか信頼とか、まったく信じてなくて。
施設の弟妹たち以外は
皆、敵だと思っていた。
戦わないと、生きていけない。
心を許したら、生きていけない。
どこかで…そう思って、
必死だった。
誰も私を愛するはずが無いからと
お金だけを信じていて。
でも、どんなに働いて、
お金をためても、
不安は消えなくて、
また働いて。
でも、ためたお金を使うこともできず、
ひたすら節約して、働いて。
今考えると、元の世界で私は
何をしていたのだろう、と思う。
この世界で私は、
何もしなくても愛されることを知った。
ことばが通じなくても、
心を通わせることができることを知った。
そして…何もできない
私自身を求めてくれる人がいることを知ってしまった。
女神ちゃんの呪いとは関係なく、
私を…大切にしてくれる人がいる。
それだけで、幸せな気分になる。
バーナードは、
私が女神ちゃんの呪いが
発動することを気に病んでくれているけれど。
幸い、私はそこまで…
気にしていない。
とりあえず、呪いが発動するのは
『私が好意を感じた相手』限定なので
嫌な相手に無理やり…ということは、ない。
だからと言って、バーナードと
そういうことを
してしまったのは…まぁ…あれ…だけど。
でも、私は嫌じゃなかった。
もちろん、ヴァレリアンたちと
身体を重ねてしまったことも、
それはそれで、納得している。
それは、元の世界では考えられないことだけど、
女神ちゃんに『貞操や倫理観が緩まる祝福』を
かけられたから、だけでなくて。
きっと私の『愛情の器』が
からっぽだから、受け入れられているのでは
ないかと、思うようになった。
だって、世界を救えるぐらい
『愛情に飢えている』器なんだよ?私。
多くの『愛』がないと
きっと、満たされない。
それこそ、一人から受ける【愛情】では
満足できなくなっているのだと思う。
私はずっと、ほんとは、愛されたかったから。
親に捨てられた私を愛する人などいない、って
思っていたけれど。
愛してくれる人がいるってわかったら、
物凄く『愛』が欲しくなって、
ちょっと愛されたら、もっと、もっと
欲しくなってしまって。
私は言葉だけでなく、
触れ合ったり…抱かれたり。
そういうことで、
私自身に与えられる『愛』を得て、
心を満たそうとしているんだと思う。
だから、バーナードの心配は、
じつは、杞憂なのだ。
そんなわけで、私はバーナードに
愛されたいわけではないし、
抱かれたいわけではないけれど。
スキンシップは物凄くしたくて
仕方がないわけで。
朝、バーナードの腕の中で
目が覚めて、嬉しくなった。
バーナードの胸にすりすりして、
肩におでこを擦りつけて。
片腕にしがみついたら、
呆れたように「おはよう」って言われた。
そして
「俺じゃなかったら、
絶対に後悔する行為だぞ」
と、何故か怒られた。
誰が後悔するのか意味がわからん。
けど、バーナードの瞳が
本気だったので、素直に頷くことにした。
バーナードって、じつは
本気で怒ったら怖いかもしれない。
その後、一緒に着替えて、
部屋で朝ご飯を食べていたとき、
どうせすることもないし、
宿屋で悩んでいても
仕方が無いから、と気分転換に
散歩に出かけようという話になった。
お昼を屋台で食べてもいいし、
どこかで買って、
公園で食べてもいい。
そう言われて、
ちょっとわくわくする。
この黒髪黒目のせいで
あまり街をで歩けない状態だったから、
少しでも街の様子を見て歩けるのは嬉しい。
次にいつ来れるかわからないし。
一応、水筒は持ったけれど、
あとは屋台で買うことにして、
私たちは宿を出ようとした。
すると、受付にいた宿屋の
ご主人が、私たちを呼び止めた。
「お客さん、どこに行くんだい?」
私が声を出す前に、
バーナードが笑って答えてくれる。
「散歩を。この街を散策したくてね」
「そうか。楽しんでおいで。
でも、街の外には出ない方がいいよ」
「どうしてです?」
「近くで魔獣が出たからさ」
私たちは、目を見開いた。
ご主人の話では、
この街の近くの村が
大量発生した魔獣によって
襲われた、というのだ。
しかも、偶然居合わせた
聖騎士が村を守るために奮闘し、
生死をさまよう傷を負ったらしい。
「怖いねー」と何も知らない
宿屋のご主人はそう言って、
私たちに笑いかけた。
怖い……。
確かに。
私たちにとっては。
ご主人とは違った意味で、
……恐ろしい情報だった。
私は思わず、
バーナードの腕を、掴んだ。
私は相変わらずヴァレリアンの
黒いフード付きコートを着ていて、
バーナードは、シャツとズボンという
楽な恰好をしている。
しかも、水筒だって持っている。
今すぐ、どこにでも行ける恰好だ。
だから。
私はバーナードを見上げた。
「ダメだ」
バーナードは小さく言う。
「ユウを危険な場所に
連れていくことはできない。
逆に、俺だけ…見に行くことも無理だ。
ユウを一人にはできない」
きっぱりと、バーナードは言う。
だけど。
ほおっておくことはできない。
もし、その聖騎士がエルヴィンだったら?
いや、エルヴィンでなくても、
今、この瞬間、バーナードたちと同じ
聖騎士が、死の淵に立っているとしたら?
そして私が…その人を
救えるとしたら。
行かないわけにはいかない。
だって、私は。
この世界を救いたいと思ってるけど、
それは…この世界の人たちを
救いたいという意味だから。
世界を救えても、
大切な人を助けられないのであれば、
私がこの世界にいる意味はなくなる。
私は。
私の大好きな人たちを守りたいのだ。
だからーーー。
行きたい。
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