【R18】完結・女なのにBL世界?!「いらない子」が溺愛に堕ちる!

たたら

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愛とエロはゆっくりはぐくみましょう

67:自らの意志で祝福を

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どうしても、行きたい。

私が行くことで、もし、
何かの助けになるのであれば、
なんとしても行きたいし、助けたい。

私の必死の説得に、
バーナードは折れた。

ただし、宿屋はそのまま。
荷物も馬車も預けておく。

馬に二人乗りをして
襲われたという村の様子を見に行くだけ。

何かあったら、すぐに引き返す。

それだけ約束させられて、
私とバーナードは街を出た。


襲われた近くの村は、
朝出たら、昼までには着くぐらいの距離らしい。

そんなに近い場所で
大量の魔獣が出たなんて怖すぎる。


ただ、この街には
魔除けみたいな魔獣除けが
張り巡らされていて、
自警団もいるので、
街の人たちはそんなに恐怖を
感じてはいないらしい。


そんなに効果がある魔獣除けって
どんなのか見てみたい気もする。


私たちは残念ながら
魔獣除けなんて持ってないので、
物凄く警戒しながら馬を走らせた。


でも、魔獣が出ても
バーナードがいてくれるから
心配はしていない。

あの大きな魔獣レベルでなければ
きっと大丈夫だ。

私も…たぶん、戦えると思うし。


戦い方なんてわかんないけど、
この前もなんとかなったしね。


休憩もせずに、私たちは村に着いた。

村は私たちを…いや、バーナードを見て
目を輝かせた。

バーナードは、念のために
聖騎士の上着だけは持ってきていて、
村に着く前にそれを羽織ったのだ。

村人たちは大喜びで
私たちを招き入れた。


状況を聞くと、突然、魔獣が現れて
村を襲ったらしい。


村人たち総出で必死で戦っていたところ、
偶然、聖騎士が二人通りかかり、
加勢してくれたが、


その二人は村人たちを危険に
さらすわけにはいかないと
一人は村を守る結界を張り、
もう一人は魔獣たちをすべて一人で引き受け
戦い続けたらしい。


魔獣がすべて消えた時、
2人の聖騎士たちは何も言わず、倒れた。


そして今…村の教会で眠っているらしい。


ただし。
死を待つだけの状態で。




私たちは教会に急いだ。

教会…と言っても、小さな村の
教会なので、木でできた…
ログハウスと呼ぶには粗末な
小屋のような場所だった。

中に入るとすぐに、
中性的な女神像と礼拝堂がある。


その奥にある神父の休憩部屋に、
戦った聖騎士たちは
寝かされていた。


私とバーナードは教会の奥の
部屋に続くドアを開け…
絶句した。


そこには…
包帯を体中に巻いたエルヴィンと、
真っ青な顔で目を閉じたケインが
横たわっていたからだ。


私はバーナードにしがみついた。


私たちを案内してくれた神父さんが、
この村ではこれ以上の手当てができないこと。

医者も薬草もなく、
しかも…ケインは魔力を使い果たし、
このまま衰弱していくのを
見ていることしかできない、と
涙を流した。


その涙を見て、
私は怒りを覚えた。


このまま…この二人が死ぬのを見ていろと?


冗談じゃない。

何を言っているんだ、この人は。

まだ、生きてるじゃないか。
エルヴィンも、ケインも。

まだ生きてるのに、
なんで、何もしようとしないわけ?

神父に詰め寄りそうな私を
バーナードは止めた。


仕方が無いのだというかのように
首を振る。


バーナードさえも諦めるのかと
怒りに燃えたが、バーナードは
そんな私を抱きしめた。

「少しだけ…時間をくれ」

「バーナード?」

「いったん、街に戻る。
早馬を依頼して、王都に応援を要請する。

魔獣がまた襲ってくる可能性もあるし、
街になら良い医者か…薬草があるかもしれない。

あいつらはヒヨコだが、聖騎士だ。
大丈夫だ、絶対に」

力強く言うバーナードに頷きかけて、
私は、バーナードもまた、
小さく震えていることに気が付いた。


仲間が…息を引き取るかもしれないのだ。
怖くないはずがない。


だけど、バーナードは
努めて冷静に、自分ができることを
やろうとしている。

「街を往復する間、
ユウは独りになる。大丈夫か?」

一緒に行こう、とは言わない。

通常なら、私を一人にはしないだろう。
けれど。

私が一緒だと馬の足も遅くなる。

エルヴィンたちを助けるために、
バーナードは苦渋の決断をしたのだ。

【女神の愛し子】を守るより、
仲間を守ることを、優先した。

それは、私を蔑ろにしたわけではなく、
大切な仲間である私やエルヴィン、ケインの
状況を見て、必要な行動を選んだということ。


女神が最優先ではなく、
今、生きている人間を、仲間を
優先したということだ。


私は、嬉しかった。

女神ちゃんが決めたストーリーを
【運命】としてただ受け入れて
生きるのではなく、

自分の人生を、自分で決め、
自分の力で【運命】を切り開くバーナードに、
私は彼の強さを改めて感じた。


「私は二人のそばから動かない。
だから…行って、バーナード」


私は彼の背中を押した。

バーナードは頷いて、
私を置いて駆け出した。

その背を見送り、私は神父さんを見る。

「私が…彼らを診ます。
しばらくは、人払いをお願いします」

頭を下げると、神父さんは頷いた。
そして「女神のご加護を」と祈り、
部屋から出ていく。


「女神ちゃんの加護?
冗談じゃない、そんなの待ってられないわ」


私は急いで二人に近づいた。


二人は小さな狭い部屋に置かれた
ベットに寝かされている。

簡易ベットらしく、小ぶりだが
部屋が狭いのでベットを2台入れると
歩くのがやっとなぐらいの幅しかない。


2つのベットの間は隙間が無く、
無理やり2台のベットを入れたような状態だ。


…床に転がされてなかっただけ
マシかもしれない。


私は靴を脱いで、
ベットにのぼった。



二人の間で四つん這いの状態になり、
まず右側にいる
エルヴィンの様子を見た。


上にかけられていた薄い布を取ると、
怪我の酷さに目をそむけたくなる。

服は脱がされ、下着一枚だったが、
恥ずかしいなんて思わない。

なぜならエルヴィンの身体はほぼ、
真っ赤に染まった包帯で巻かれ、
血が止まっていないのだろう。

ベットのシーツを赤く染めている。

熱がでているのか、顔も赤く、
息も苦しそうだ。

顔も半分以上、包帯がまかれていて
見てるだけで息苦しくなる。

ケインは逆に、
生きているのか心配なほど、
真っ白い顔で、ただ……横たわっていた。

死んでいるのではないかと心配になり、
心配で耳の下の動脈を指で触れると…

……心臓は動いていると思う。

けれども。
それは良く知る、どっくん、どっくん、
と生命力を感じるようなものではなく。

とても弱弱しい…
動いているのかどうかもわからないような
小さな動きだった。

頬に触れたが、冷たい。

仮死状態。

そんな言葉が脳裏をよぎる。

早く、なんとかしなければ。

私は部屋のドアに戻り、
鍵をかけた。

人払いをお願いしたけど、
誰か来ない保証はない。

鍵は…すぐに壊れそうな
小さなものだったけど、
ないよりはマシだろう。

私は…つばを飲み込んだ。

私なら、できる。

二人を助けられる。

そのための…【祝福】なのだから。







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