11 / 98
9.黒兎
しおりを挟む
双頭黒犬は名前の通り一頭の体に二頭分の頭が付いている。肉食で、目の前の幻影兎を狙っているみたいだ。
でも、幻影兎は……幻影を見せて逃げる事が出来ると思うけど。どうしたんだろう?怖くて逃げられないのかな?
「シェリル、その犬は任せた」
ハッとして振り返ると、双頭黒犬だけじゃなかった。
(頭が三つある)
三頭魔犬は更に大きくて頭が三つだ。
どんどん増えている。いったいどうしたんだろう?まだ四階層なのにこんな数ありえない。
そういえば、北の魔族領の様子がおかしいって話が出ていた。ダンジョンの魔物にも影響があるのかもしれない。
「シェリル、何頭でも殺っていいよ。テオはシェリルの援護してやって。それとマーティス。どうせなら、多く殺った方に酒をおごるってのはどう?」
「なら、私も混ぜて下さい」
リリー様の暗器が、複数の魔獣の核を貫いた。
「リリーに負ける訳にはいかないな」
マーティス様の動きも速い。
「シェリル、お前も頑張れ」
ウィンクをした後、紅蓮の剣が地面から浮かび上がってきた。片手で軽く振った後は、豪快に斬りつけて行く。
幻影兎……この子の深紅の目が綺麗で魅入ってしまう。艶やかな黒毛も気持ち良さそう。この幻影兎を助けたい。
「おいで──黒兎」
気持ちが高揚してる。片手を差し出すと、トンっと軽やかにジャンプして僕の腕の中に飛びこんで来た。
指揮棒を持った方の手を一度振ると、氷が結晶化して突き刺さる。この攻撃を氷牙って呼んでる。リリー様の暗器は、糸が繋がっていて回収出来る仕様だ。
僕がもう一度指揮棒向けると、氷牙が突き刺ささったまま岩壁へと魔犬を押し飛ばした。
氷牙は回収の必要がないけど、魔力を使う点では攻撃相手が多いと消耗が激しい。
なんでこんなに湧いて出てくる?まだ先に行く必要があるのに。
なら、一掃するのはどうしたらいい?
黒兎と目が合った。幻影兎は幻影を見せてくれるんだ。
「手伝ってくれる?」
黒兎の深紅の瞳が輝く。ギルマスやマーティス様達も沢山斬り捨てていたけど。湧いて出て来ていた犬達が、突然脅えて始めて後退りだした。一頭が踵を返した途端、一斉に引き返した。
「なんだ? 急に湧いて出たと思ったのに、今度は一気に逃げていったな」
マーティス様が、一度剣に付いた血を払った後、ベルトに剣を戻した。
「ギルマス、どうする?」
皆が、ギルマスのアルト様の方に指示を仰ぐ。
すると、僕の方に寄ってきた。
「──なんか、面白そうなんだよね。この先は、さくっと行けるんじゃない?」
アルト様が、僕の耳元に顔を寄せる。
「シェリル。琥珀の瞳が綺麗だけど……今は隠して、ね」
慌てて焦げ茶に戻す。しまった、目立たないようにするはずだった。
ギルマスは唇に人差し指を立てた。乱れた赤髪を手ぐしで整えて紐を結び直した。
僕は、抱えいた黒兎を地面に降ろして、ギルマスの方について行く。一度振り返って黒兎に手を振った。
(またね)
次は、媚薬効果が高い月下香の花弁。最後に不死鳥の羽だ。フェニックス自体は、遭遇するのは難しいが、羽は生息域で見つける事が出来る。僕も余分があれば貰う事にしている。
「なんか、上手く行きそうなんだ」
ギルマスのその言葉通り、さらに地下へ進むと魔物の数もレベルも上がった。ただ平均的な物ばかりらしいので移動しながらのバトルもスムーズだ。さっきのが、おかしかっただけだ。
意図的? 何かの思惑……他に怪しい魔物なんていたのだろうか? イレギュラーは何時でも起きる。気を引き締めよう。
「でもシェリル、運の良さも冒険者には必要だ。生き残る確率が上がるからね」
生き残る──でも、残されるのは嫌だな。次は残されるより、守って先に逝ける方がいい。
僕は、羽を拾いながら……別れてきた人達を思い出していた。
でも、幻影兎は……幻影を見せて逃げる事が出来ると思うけど。どうしたんだろう?怖くて逃げられないのかな?
「シェリル、その犬は任せた」
ハッとして振り返ると、双頭黒犬だけじゃなかった。
(頭が三つある)
三頭魔犬は更に大きくて頭が三つだ。
どんどん増えている。いったいどうしたんだろう?まだ四階層なのにこんな数ありえない。
そういえば、北の魔族領の様子がおかしいって話が出ていた。ダンジョンの魔物にも影響があるのかもしれない。
「シェリル、何頭でも殺っていいよ。テオはシェリルの援護してやって。それとマーティス。どうせなら、多く殺った方に酒をおごるってのはどう?」
「なら、私も混ぜて下さい」
リリー様の暗器が、複数の魔獣の核を貫いた。
「リリーに負ける訳にはいかないな」
マーティス様の動きも速い。
「シェリル、お前も頑張れ」
ウィンクをした後、紅蓮の剣が地面から浮かび上がってきた。片手で軽く振った後は、豪快に斬りつけて行く。
幻影兎……この子の深紅の目が綺麗で魅入ってしまう。艶やかな黒毛も気持ち良さそう。この幻影兎を助けたい。
「おいで──黒兎」
気持ちが高揚してる。片手を差し出すと、トンっと軽やかにジャンプして僕の腕の中に飛びこんで来た。
指揮棒を持った方の手を一度振ると、氷が結晶化して突き刺さる。この攻撃を氷牙って呼んでる。リリー様の暗器は、糸が繋がっていて回収出来る仕様だ。
僕がもう一度指揮棒向けると、氷牙が突き刺ささったまま岩壁へと魔犬を押し飛ばした。
氷牙は回収の必要がないけど、魔力を使う点では攻撃相手が多いと消耗が激しい。
なんでこんなに湧いて出てくる?まだ先に行く必要があるのに。
なら、一掃するのはどうしたらいい?
黒兎と目が合った。幻影兎は幻影を見せてくれるんだ。
「手伝ってくれる?」
黒兎の深紅の瞳が輝く。ギルマスやマーティス様達も沢山斬り捨てていたけど。湧いて出て来ていた犬達が、突然脅えて始めて後退りだした。一頭が踵を返した途端、一斉に引き返した。
「なんだ? 急に湧いて出たと思ったのに、今度は一気に逃げていったな」
マーティス様が、一度剣に付いた血を払った後、ベルトに剣を戻した。
「ギルマス、どうする?」
皆が、ギルマスのアルト様の方に指示を仰ぐ。
すると、僕の方に寄ってきた。
「──なんか、面白そうなんだよね。この先は、さくっと行けるんじゃない?」
アルト様が、僕の耳元に顔を寄せる。
「シェリル。琥珀の瞳が綺麗だけど……今は隠して、ね」
慌てて焦げ茶に戻す。しまった、目立たないようにするはずだった。
ギルマスは唇に人差し指を立てた。乱れた赤髪を手ぐしで整えて紐を結び直した。
僕は、抱えいた黒兎を地面に降ろして、ギルマスの方について行く。一度振り返って黒兎に手を振った。
(またね)
次は、媚薬効果が高い月下香の花弁。最後に不死鳥の羽だ。フェニックス自体は、遭遇するのは難しいが、羽は生息域で見つける事が出来る。僕も余分があれば貰う事にしている。
「なんか、上手く行きそうなんだ」
ギルマスのその言葉通り、さらに地下へ進むと魔物の数もレベルも上がった。ただ平均的な物ばかりらしいので移動しながらのバトルもスムーズだ。さっきのが、おかしかっただけだ。
意図的? 何かの思惑……他に怪しい魔物なんていたのだろうか? イレギュラーは何時でも起きる。気を引き締めよう。
「でもシェリル、運の良さも冒険者には必要だ。生き残る確率が上がるからね」
生き残る──でも、残されるのは嫌だな。次は残されるより、守って先に逝ける方がいい。
僕は、羽を拾いながら……別れてきた人達を思い出していた。
応援ありがとうございます!
19
お気に入りに追加
860
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる