自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

文字の大きさ
上 下
122 / 249
【五ノ章】納涼祭

第八十一話 キミと一緒に《前編》

しおりを挟む
「シルフィ先生にカグヤもだけど、今日は妙にグイグイ距離を詰めてきてドキドキするなぁ……」

 機嫌の良いカグヤと共にアカツキ荘へ荷物を届け終えた後、女装喫茶のシフトの時間が近づいてきた彼女と別れて学園内を練り歩いていた。
 しかし納涼祭の雰囲気と夏の暑さ、さらにこれまで一緒に祭りを楽しんでいた彼女たちとのやりとりが影響してか、ほわほわと柔らかい物で全身を包まれているような感覚が離れない。

 今まで生活を共にしているにもかかわらず、二人の思っていることや考えていることを想像しなかった。あったとしても表面上の部分だけで、深い所は聞かなかったし聞こうともしなかった。
 その二人がてらわず正面からまっすぐに感謝や関心を伝えてくれる。
 心地良い感触なんだけど、面と向かって本心をぶつけられるのは嬉しくもあり恥ずかしくもある。

「でも、なんでいきなりあんなこと言ってきたんだろう? 祭りの空気に当てられたのかな」
『ふう……ようやく落ち着いてきたな』
『ああ、凄まじい情報量だった。肉体が無いのに気分が悪くなるとはな』

 あっ、バカ二人が復活した。

『まったくもう……調子に乗って安易に感覚を繋げるからそうなるんだよ』
『レオが接続を止めようとしたのが疑問だったが、酷く痛感させられた。アレを戦ってる最中に組み込んでいるのか? よくついていけるな』
『我とてあの集中状態の時は完全に切り離すようにしている。刹那のまたたきであっても極限まで濃縮された密度の情報が押し寄せてくるのだ。迂闊に繋げばこちらがやられるぞ』
『魔剣の意思たる私たちが適合者のスペックに置いていかれるのか……』
『人が長年磨き上げてきた特技を異常の塊みたいに言いおって』

 脳内の会話に相槌を返しつつ学園外周の道から構内に入る。午前中や昼間に比べれば人の数は落ち着いてきたように見えた。
 現在時刻は十五時前、納涼祭は十七時まで。人波が薄れていくのも納得の時間帯だ。
 俺は十六時から調理班のシフトがある。それまでには女装喫茶の方に戻らなくてはいけないが……さて、何の出し物で暇を潰そうか。

自由に狙い撃てアルシェトリアで派手に動いたし、軽くご飯でも食べに行こうかな』
『そうか。では、我らはもう少し休ませてもらおう』
『すまないが五感も切り離しておく。用があれば呼び起こせ』
『結局二人してダメージ抜けてないじゃん』

 言動の割に弱々しく二人は脳内会話から退散した。騒がしい住人も大人しくなったところでいざ食の旅路へ、と散策を再開。
 大っぴらに火を扱っても問題ない外の出店と比べて、学園構内の飲食系は軽めの物になる。女装喫茶は俺が防火・防水処理を施した設備で固めているので問題ないが、そうでない出店は生徒会や教師の判断によって制限が掛けられてしまう。
 そんな中でも組同士で提携して運営する出店もあり、外と中で役割を分担して料理を提供している。
 その内の一つであるお店で、ナンのようなモチモチ生地に刻んだ各種野菜、薄切りにして焼いた肉が数枚とピリ辛のソースを挟んで焼いた、疑似ケバブみたいな料理を四個購入。

「うめ、うめっ……」

 香ばしい匂いに食欲が刺激され、外に出るまで我慢できず廊下に設置された長椅子に座ってモグモグ食べる。
 非常にボリューミーで腹に溜まるが味付けのおかげでいくらでも食べられそうだ。
 ぺろりと一気に三個も平らげて、最後の一個に手を掛けようとしたら。

「ハッハァ!! ざまあみろ、お堅い教師と生徒会共めぇ! 逃げ切ってやったわよォ!」

 どこぞのチンピラかと見紛う言動を撒き散らしながらフレン学園長が眼前にスライディングして現れた。
 スーツ姿に似つかわしくない顔芸、もとい黒い表情を浮かべており、あまりの衝撃的光景に喉が詰まりかけた。急いで果実水で流し込む。

「げほっ……が、学園長、何やってんの……」
「あら、こんな所で会うなんて奇遇ね、クロトくん。私は来賓の案内とか説明とか学園長としての責務を生徒会およびノエル生徒会長に丸投げして逃走してたのよ」
「簡潔な説明で分かりやすいけどマジで何やってんの?」

 コイツ、シルフィ先生が言っていた捜索隊を全部ぶっちぎってきたのか。思わず頭を抱えそうになる情報の羅列に声音が据わる。
 当の本人は俺や周囲から向けられる奇異の視線を意にも介さず隣に座ってきた。しかも食べようとしてた疑似ケバブも奪いやがった。遠慮が微塵も感じられない。

「外部の人間を大勢呼び寄せてるんだから、こういう時こそ真面目に仕事した方がいいんじゃないの……?」
「だって折角のお祭りなんだから私だって楽しみたいもーん。最低限の対応はしたんだから別にいいでしょ」

 子供じみた反論を押し通して学園長は疑似ケバブを頬張る。
 ……なんでお酒が欲しいわね、みたいな顔してんだ。白昼堂々、構内飲酒とかアウトに決まってるだろ。

「それにしても毎年のことながら手が込んでていいわねぇ……美味しい物にありつけるし、本腰を入れて準備した甲斐があるってものよ。おかげで魔科の国グリモワールで人気のスポーツを誘致できたわけだしね」
「ああ、自由に狙い撃てアルシェトリアはかなり面白かった。景品も総ナメさせてもらったし、しばらくアカツキ荘の食事が豪勢になるよ」
「ん~? 聞き間違いじゃなければ景品を全て手に入れたみたいに言わなかった?」
「生徒会長のスコアは抜いたし、的は全部撃ち落としてオールパーフェクト賞で色々貰ったよ」
「イカれてるわね」

 ドン引きに加えて信じられない物を見るかのような視線を向けてくる。
 なんだよぉ、出来る限りの事を全力でこなしただけじゃないか。納涼祭を盛り上げろって曖昧な依頼を出したのはお前だぞ。

「まあ、君が遊戯やら遊びに手を出すと途端に強くなるのは今に始まった事でもないし、当然っちゃ当然か」
「そうだね、息抜きで始めたリバーシで何回やっても俺に勝てなくてぐずってた学園長。ハンデをつけてサポートに先生がいたのに手も足も出なかった学園長」
「おっと、大人の尊厳を破壊するのはやめなさい」

 口元に付いた汚れを紙で拭いながら、ジト目で訴えかけてくる学園長を鼻で笑う。
 アカツキ荘で暮らし始めて数日が経った頃。俺が片手間に作成していたリバーシを晩酌で良い気分になっていた彼女が持ち出し、勝負しましょう! とか言ってきたのが事の発端だ。
 ルール自体は学生組で遊んでいたのを見て把握していたので早速対戦を開始。
 数戦ほど遊んで、どう足掻いても盤面が全て黒く染まってしまうことに不満を言い始めた。いや、決して弱いわけではないのだが……。

 じゃあ酔いをましてからハンデをつけるし先生も補助に置いていい、とめちゃくちゃ有利な条件を与えてゲームを再開。
 勝ったわ、なんてドヤ顔で胸を張った学園長と先生コンビを、さすがに圧勝という場面は少なくなったが全戦全勝。
 挙句の果てにはどうすれば勝てるか、二人して知恵熱が出そうなくらい頭を悩ませていた。
 結局その日は思考回路がオーバーヒートしてダウンした二人を部屋まで運んでお開きとなったのだ。

「今に見てなさいよ、ぎゃふんと言わせてあげるわ……」
「そんな震えた声で強がってもなぁ。それで、これからどうするつもりなんだ? 俺は今すぐお前を縛って捜索隊に突き出すつもりなんだけど」
「残念でした~、もう捜索は打ち切られて解散してるはずなので問題ありませ~ん」
「じゃあなんでこんな所で爆走してたんだ……?」

 端正な顔で腹が立つ表情のまま煽ってくる学園長。一瞬、容赦なくアイアンクローをくらわせようか迷って疑問が口を突いて出た。
 首を傾げれば彼女は俺の顔を指差してニヤリと笑う。

「君と納涼祭を見て回りたくてね、逃げながら探してたのよ」
「俺と? というか、そういうことならデバイスで連絡をくれればよかったのに」
「逃走中にデバイスなんて使ってたらすぐさま捕らえられて終わりよ。それにあちこち走り回った甲斐もあって、興味深い出し物も見つけられたし」

 言ってることも行動原理もハチャメチャだが、納涼祭を満喫したいという気持ちは本心なんだな。
 廊下を歩く人々の満足そうな顔を眺めて嬉しそうに頬を緩める姿は、本当に学園の事を思って働いてきたのだと感じさせる。
 納涼祭が近づくにつれて、アカツキ荘に書類を持ち込んで自主残業している時もあった。
 行事に対して全力で取り組み、生徒以上に時間と苦労を重ねてきたのは彼女だ。その頑張りへの報酬があってもいいだろう。

「一人で遊ぶのは味気ないし、シルフィは真面目だから仕事に戻れって言いそうだし……クロトくんなら気兼ね無く付き合ってくれるかなって思ったの」
「俺のこと暇人だと思ってない? まあ、今まさに暇だけど」
「なら早速行きましょう? 一人よりも二人、キミと一緒ならもっと面白くなりそう!」

 椅子から勢いよく立ち上がり、彼女は満面の笑みを浮かべて手を差し伸べてきた。
 ニカッと歯を見せてくる様はまるでイタズラ好きな子供のように純粋で。
 ため息一つこぼして、取ろうとした手を掴まれて。俺たちは祭りの陽気で賑わう構内へ繰り出した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

処理中です...