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【五ノ章】納涼祭
第八十話 アナタの事が知りたい《後編》
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「なんかいっぱい貰っちゃったなぁ」
熱狂冷めやらぬ自由に狙い撃ての会場から離れた場所で、両肩に下げた景品の入ったバッグを背負い直す。
いやはや、自由に狙い撃てはめちゃくちゃ面白いゲームでしたね。
不規則な突風が吹くステージ、時間経過による障害物の増加と地形変化。
おまけに硬い的が次々と出てきて、壊すには二連射で当てなきゃいけなかったりなど。挑戦者や観客を飽きさせないエンターテインメント性を感じた。
あまりにもテンションがブチ上がってしまい、自分でもどんな動きをしてるのか分からないほど無我夢中で楽しんでしまったぜ……。
ちなみにレオたちは食べ物の余韻を無言で楽しんでいたが、興味本位で競技中の俺と感覚を繋げた結果、視界と思考の展開速度に追いつけずグロッキーになったので黙りこくっている。バカかな?
「そんな申し訳なく思わなくていいんですよ。クロトさんはオールパーフェクトを達成したのですから、当然の権利ですっ」
俺と同じように肩からバッグを下げて隣を歩くカグヤが、鈴の音を鳴らしながら興奮した面持ちでこちらを向く。
そう、彼女が言うように気分が上がって調子に乗った結果、全ての的を撃ち落とすという前代未聞の偉業を成し遂げてしまった。
他の景品も気になるけどトライアルマギアだけ確保できればいい、なんて軽い意気込みだったのに。
生徒会長のスコアを越えるどころか、誰にも打ち破れない記録を樹立したのだ。
やっべ、やり過ぎた。なんて我に返ったところで時すでに遅し。
女装喫茶の宣伝もそこそこに解説席からすっ飛んできた運営の方に感激され、一位更新とオールパーフェクト賞を祝し、一位から十位までの景品を頂くことに。
当初の目的以上の収穫に埋もれかけたところをカグヤに助けてもらい、二人して逃げるように立ち去ってきたのだ。
「本当に、お見事でした。クロトさんがあれほどまで弓術に精通してるなんて……自信満々だったのも納得です。格闘術はお母さまから教わったと聞きましたが……」
「弓、というか遠距離武器の心得は父さんからだね。十三歳の時にとんでもない事件に巻き込まれて以来、徹底的に扱かれた時期があったんだ」
背負ったテディベアの重みを感じながら、昔のことを思い出す。
晴れて中学生となった夏休みに孤独のグルメごっこでふらっと立ち寄った裏路地で事件が起きていたようで。
有無を言わさず身柄を捕らわれ、このままでは命の保証は無いからと協力を強制されて。
未成年であることを悟られない為に顔を隠して事件解決に奔走し、残りの休みを全て消費した挙句に拳銃で風穴開けられて病院送りにされた。
この事件のせいで俺は地獄のような特訓をさせられて……今にして思えば、この時期からずっと血まみれになるような事態にばかり直面しているな。
しかし悪い事ばかりではなかった。その事件の際、身を隠すように言われて案内された喫茶店でコーヒーの淹れ方と美味いカレーの作り方を伝授されたのだ。
曰く、面倒事を持ち寄られた上にタダで匿うわけがねぇだろ、と。
至極ごもっともな指摘に頷くことしかできず、店の手伝いに駆り出されながら定番メニューである二品を仕込まれ、客に出しても問題ないと認められるまでに至ったのだ。
渋い声に帽子の似合うおやっさんと猫を持ち歩いてた伊達メガネの兄ちゃん、今も元気にしてるかなぁ。
「以前にもクロトさんの過去を少しだけお聞きしましたが、全てにおいて壮絶な経験をしていますね」
「んん? 何か話したっけ?」
「お腹の傷痕の話ですよ。対処が思いつかず自分で焼いた、と。それ以外にも冬の山で遭難しかけた、誘拐されて自力で脱出したとか」
「うーん、我が身のことながら悲惨な経歴だぁ……」
それに聞かれたから答えたけど、自分の過去を語る男ってどうなの? 昔の栄光に縋ってる情けない男みたいに思われない? 栄光っていうか清々しいまでに黒歴史だけど。
今更になって気恥ずかしくて顔が熱い。隠すように頬を掻いていると徐々に周りの出店が無くなり、代わりに木の柵で囲まれたグラウンドの一画に辿り着いた。
「あれ、こんな開けた場所あったんだ。結構広いけど何の設備だろ? 乗馬体験?」
「看板がありますね。えっと……“召喚獣触れ合い体験広場”? 保護施設の方々が運営してる施設のようですね」
カグヤが指差した先を見れば見覚えのある召喚獣たちの姿があった。
保護施設の長たるケットシーを筆頭に老若男女問わず大勢に群がられているが、付き合いのある俺からしてみれば新鮮な光景だ。
何せ彼らは保護された経緯から心に傷を持ち、人との関わりを持とうとしなかった。忌避し、嫌悪し、近づけば殺意を向けてくることも少なくない。
出会った当初、何度も吹き飛ばされ魔法で叩きのめされ血だらけにされた実体験がある為、こうして初対面の相手でも問題なく触れ合えてる成長ぶりにな、涙が……。
「そういえば施設の方が感謝していましたよ。クロトさんが辛抱強く召喚獣に向き合い続けたおかげで人に対する恐怖心が払拭された、と」
「みんな、根はいい子だからね。頑張った甲斐があったよ」
さすがに荷物を持ったまま広場に入るわけにはいかないので、外から眺めているだけにしておく。
しかし傍から見ても楽しげな空気が伝わってきて自然と頬が綻ぶ。
「……よかった。元気が出てきたみたいですね」
「え?」
不意に、カグヤから掛けられた優しい声に振り向く。
「入学金の返済、魔剣、カラミティの襲撃、納涼祭。色々な状況が重なって想像以上に疲れているはずなのに、上辺だけの元気を見せて悟られないようにしてますよね?」
「っ、あー……そんなこと、ないよっ?」
「ふふっ、声が上擦ってますよ」
微笑む彼女は隣に並び立って言葉を紡ぐ。
「私以外の、アカツキ荘の皆さんも気づいています。ですがクロトさんは背負った重荷を誰にも渡さない、自力でなんとかしようとする癖がありますから。鋼のように硬いその意志は尊重したい……無茶し過ぎたら止めますが」
「心当たりが多くて申し訳ない……」
「直してほしいわけではありません。でも──頼ってほしい、頼られたい。きっと皆さんはそう思ってます。自分の保身が一番、打算込みなんて言いながら誰かの為に動ける、見せかけではない優しさと思いやりの心を持つ貴方に助けられましたから」
だから私は、と胸を張って。
「アナタの事を知りたい、その上で支えたいのです。同じ学び舎に通う友として、肩を並べて共に戦う仲間として」
「知りたいって言われても、聞いてて楽しい話なんてないよ?」
「とんでもない、興味深い内容ばかりですよ。クロトさんが過去を語る時、とても大事で大切な宝物を見せるようで微笑ましく、そこから知れることは沢山あります」
鈴の音を鳴らして目線を向けながら。
「苦難の壁を乗り越え、困難な道を突き進む貴方だけの人生……話したい時に話してください。それが貴方の負担を取り除く一助となれるなら、喜んで聴き手となりましょう。ひとまず今は、景品をアカツキ荘に運びましょうか」
凛々しく、美しく。
立ち居振る舞いから気品を感じさせるカグヤは、包み込むような慈愛の心を曝け出して──今日一番の笑顔を浮かべた。
“おまけのコーナー”
──自由に狙い撃て、序盤解説。
『この場にお集まりの皆様方、お待たせしました。本日三十人目の新たな挑戦者の入場となります! なんと初挑戦でありながらカスタマイズを選択し、弓と魔法で挑む彼の名は学園の特待生アカツキ・クロト!』
『学園最強と名高いノエル生徒会長のスコアを越えようと幾人もの挑戦者が挑み、破れていきました。なぜか執事服に身を包んでいる彼ですが、今回の挑戦でどのような結果を残すのか楽しみですね』
『それでは早速開始と行きましょう。自由に狙い撃て、スタートです!』
『まず第一陣は低速で飛び交う的です。形状が特殊であり、障壁内を吹く風の影響を強く受けて不規則に動く的ですが、どのように対処を──は?』
『さ、三本の矢を番えたかと思えば、同時に的が撃ち抜かれて!? 続けざまにどんどん撃ち抜かれていきます! 矢の回収も自然で淀みなく、補充の必要が無いくらいだ!』
『凄まじい腕前ですね……これほどの弓術を修めているとは。未だ魔法を使用していない辺り、まだ余力を残しているようです』
『おっと、しかし最後の的を前に矢が切れてしまった! 補給地点は遠く近場に矢は落ちていない! これは撃ち損じてしまうのでは……ん? 何やら弓を構えて……投げたァ!?』
『信じられない行動ですが“弓矢”を使用しているのでルール上の問題はありません。恐らく魔法よりも得点倍率の高い弓矢で稼ぐのが目的でしょう』
『外れたとしても魔法で仕留めればいい話ですからね。いや、だとしてもイカれた判断力と手際の良さだ! 本当に初心者かぁ!?』
「……そういえばクロトさんはよく爆薬やポーションを投げてますから、投擲の精度は高いですよね。ですが、弓で的を壊すとは……」
──自由に狙い撃て、中盤解説。
『三本の矢を同時速射、弓を投げるなど驚きの行動で快進撃を続ける挑戦者! しかし中盤からは的の数が増加し、ランダムに屹立する障害物が出現します!』
『今までとは打って変わり正確な位置取りや大胆な立ち回りを要求されます。しかし未だに挑戦者は魔法を使わず、障害物を足場に躍動感溢れる動きでステージを跳び回り、弓矢でのみ的を射抜いております』
『現在までミスが無い為、既にスコアは十位圏内に届きつつあります。ですが、卓越した弓術の腕前でもさすがに手数が少なくなってきたぞ! これは厳しいか!?』
『解説席に寄せられた情報によれば、の魔法属性は特殊。それも自身の血を自在に操る血液魔法と呼ばれるものです』
『まるでセリス教の怨敵である吸血鬼の如き魔法ですね! とはいえ制限が多く剣やナイフを作れる程度であまり射程は長くないそうですが、いかにして魔法を……おや、いきなり矢じりで手のひらを切りました!』
『自傷行為に躊躇いが一切無かったですね。少し怖い光景でしたが、何やら蠢いた血が糸のように細くなり彼の周囲を漂い始めました』
『見た感じ投網でも作るのでしょうか? いえ、でも棒状の物体にも変化して……んん? あれは、釣り竿ですかね?』
『釣り竿ですねぇ。さすがにこんな場所で魚は釣れませんが、どんな意図があってあんな物を……お、片手で振ったかと思えば針を障害物の柱に引っ掛けましたね』
『そうこうしてる間にも的はどんどん出現しています。今のペースでは間に合わな──ああ!? なんてこった、柱に付いた足場をもぎ取って振り回し始めたぞ!? 絡め取られた的がどんどん壊されていく! 魔法行使での得点になるとはいえ無法が過ぎるぞ挑戦者ァ! しかし観客の熱狂は天井知らずに上がっていくゥ!』
「なるほど。弓矢では一点攻撃しかできないから、血液魔法で範囲攻撃ができるようにしたんですね。糸で的を寸断するよりも豪快さを選んだ、と…………それはそれとして、なぜ釣り竿?」
──自由に狙い撃て、終盤解説。
『観客はおろか解説の予想まで裏切り続ける彼の勢いによって場の熱狂は最高潮! そして自由に狙い撃てもいよいよ終盤! 苛烈なステージ変化が挑戦者を襲うゥ!』
『ただの障害物だった壁や柱が変動し、地面も土属性魔法の応用で隆起し、または崩落するなど一筋縄ではいきません』
『しっかり挑戦者の安全は確保されていますが、それらに気を取られスコアを伸ばせず終了となる展開が多い! おまけに中心を射抜かなければ壊せない耐久性の高い的が出てくる始末! 規格外の行動を見せる彼はどう動くのか!?』
『そう言ってる内に的が出てきましたね。さすがに振り回していた足場を手放し、弓矢で集中的に狙っていますが短弓では威力が足りません。いえ、二射連続で中心点に当ててるのは凄まじいのですが』
『さらっと凄腕技術が流されていますが、確かにこのままでは手間が掛かります! 順調に伸びてきたスコアもここで打ち止めになるかァ!?』
『いえ、彼の周囲を浮遊していた血が短弓に吸い込まれていきます。形が変わって……荒々しい長弓になった?』
『アレが血液魔法の付与なのでしょうか。しかし長弓にして威力が上がったところで……おお? 今度は矢を血で作成しました! 何やら矢じりがドリルのような形をしています!』
『ですがすぐには弓に番えず、普通の矢で的を撃ち始めました。これまでとは打って変わって絶妙に端を掠めているだけで破壊には至らず、的はフラフラと空中を落ちていきます』
『もしやこれまで発揮してきた異常なパフォーマンスの反動が現れてきているのか? 快進撃もここで打ち止めとなるか──おっと! ついに血の矢に手をかけました!』
『……っ。そうか、これが狙いだったのですね』
『えっ、どういう意味で……ッ! 馬鹿な、先ほどまで当てていた的が一直線に並んでいる!? 風が吹き、狙いもつけづらい地形で位置を調整したというのか!?』
『私たちはまだ彼の実力を測り切れていなかった。心のどこかで勝手に見限っていたのかもしれません。ですが、そんな心の内を狙い撃つように──』
『今、血の矢が放たれ、全てを貫いたァアアアアアアアッ!! ここで終了のサイレンが鳴り響くッ! 前代未聞、空前絶後! 初挑戦の初心者が生徒会長のスコアを下し、まさかのオールパーフェクト達成だァ!!』
熱狂冷めやらぬ自由に狙い撃ての会場から離れた場所で、両肩に下げた景品の入ったバッグを背負い直す。
いやはや、自由に狙い撃てはめちゃくちゃ面白いゲームでしたね。
不規則な突風が吹くステージ、時間経過による障害物の増加と地形変化。
おまけに硬い的が次々と出てきて、壊すには二連射で当てなきゃいけなかったりなど。挑戦者や観客を飽きさせないエンターテインメント性を感じた。
あまりにもテンションがブチ上がってしまい、自分でもどんな動きをしてるのか分からないほど無我夢中で楽しんでしまったぜ……。
ちなみにレオたちは食べ物の余韻を無言で楽しんでいたが、興味本位で競技中の俺と感覚を繋げた結果、視界と思考の展開速度に追いつけずグロッキーになったので黙りこくっている。バカかな?
「そんな申し訳なく思わなくていいんですよ。クロトさんはオールパーフェクトを達成したのですから、当然の権利ですっ」
俺と同じように肩からバッグを下げて隣を歩くカグヤが、鈴の音を鳴らしながら興奮した面持ちでこちらを向く。
そう、彼女が言うように気分が上がって調子に乗った結果、全ての的を撃ち落とすという前代未聞の偉業を成し遂げてしまった。
他の景品も気になるけどトライアルマギアだけ確保できればいい、なんて軽い意気込みだったのに。
生徒会長のスコアを越えるどころか、誰にも打ち破れない記録を樹立したのだ。
やっべ、やり過ぎた。なんて我に返ったところで時すでに遅し。
女装喫茶の宣伝もそこそこに解説席からすっ飛んできた運営の方に感激され、一位更新とオールパーフェクト賞を祝し、一位から十位までの景品を頂くことに。
当初の目的以上の収穫に埋もれかけたところをカグヤに助けてもらい、二人して逃げるように立ち去ってきたのだ。
「本当に、お見事でした。クロトさんがあれほどまで弓術に精通してるなんて……自信満々だったのも納得です。格闘術はお母さまから教わったと聞きましたが……」
「弓、というか遠距離武器の心得は父さんからだね。十三歳の時にとんでもない事件に巻き込まれて以来、徹底的に扱かれた時期があったんだ」
背負ったテディベアの重みを感じながら、昔のことを思い出す。
晴れて中学生となった夏休みに孤独のグルメごっこでふらっと立ち寄った裏路地で事件が起きていたようで。
有無を言わさず身柄を捕らわれ、このままでは命の保証は無いからと協力を強制されて。
未成年であることを悟られない為に顔を隠して事件解決に奔走し、残りの休みを全て消費した挙句に拳銃で風穴開けられて病院送りにされた。
この事件のせいで俺は地獄のような特訓をさせられて……今にして思えば、この時期からずっと血まみれになるような事態にばかり直面しているな。
しかし悪い事ばかりではなかった。その事件の際、身を隠すように言われて案内された喫茶店でコーヒーの淹れ方と美味いカレーの作り方を伝授されたのだ。
曰く、面倒事を持ち寄られた上にタダで匿うわけがねぇだろ、と。
至極ごもっともな指摘に頷くことしかできず、店の手伝いに駆り出されながら定番メニューである二品を仕込まれ、客に出しても問題ないと認められるまでに至ったのだ。
渋い声に帽子の似合うおやっさんと猫を持ち歩いてた伊達メガネの兄ちゃん、今も元気にしてるかなぁ。
「以前にもクロトさんの過去を少しだけお聞きしましたが、全てにおいて壮絶な経験をしていますね」
「んん? 何か話したっけ?」
「お腹の傷痕の話ですよ。対処が思いつかず自分で焼いた、と。それ以外にも冬の山で遭難しかけた、誘拐されて自力で脱出したとか」
「うーん、我が身のことながら悲惨な経歴だぁ……」
それに聞かれたから答えたけど、自分の過去を語る男ってどうなの? 昔の栄光に縋ってる情けない男みたいに思われない? 栄光っていうか清々しいまでに黒歴史だけど。
今更になって気恥ずかしくて顔が熱い。隠すように頬を掻いていると徐々に周りの出店が無くなり、代わりに木の柵で囲まれたグラウンドの一画に辿り着いた。
「あれ、こんな開けた場所あったんだ。結構広いけど何の設備だろ? 乗馬体験?」
「看板がありますね。えっと……“召喚獣触れ合い体験広場”? 保護施設の方々が運営してる施設のようですね」
カグヤが指差した先を見れば見覚えのある召喚獣たちの姿があった。
保護施設の長たるケットシーを筆頭に老若男女問わず大勢に群がられているが、付き合いのある俺からしてみれば新鮮な光景だ。
何せ彼らは保護された経緯から心に傷を持ち、人との関わりを持とうとしなかった。忌避し、嫌悪し、近づけば殺意を向けてくることも少なくない。
出会った当初、何度も吹き飛ばされ魔法で叩きのめされ血だらけにされた実体験がある為、こうして初対面の相手でも問題なく触れ合えてる成長ぶりにな、涙が……。
「そういえば施設の方が感謝していましたよ。クロトさんが辛抱強く召喚獣に向き合い続けたおかげで人に対する恐怖心が払拭された、と」
「みんな、根はいい子だからね。頑張った甲斐があったよ」
さすがに荷物を持ったまま広場に入るわけにはいかないので、外から眺めているだけにしておく。
しかし傍から見ても楽しげな空気が伝わってきて自然と頬が綻ぶ。
「……よかった。元気が出てきたみたいですね」
「え?」
不意に、カグヤから掛けられた優しい声に振り向く。
「入学金の返済、魔剣、カラミティの襲撃、納涼祭。色々な状況が重なって想像以上に疲れているはずなのに、上辺だけの元気を見せて悟られないようにしてますよね?」
「っ、あー……そんなこと、ないよっ?」
「ふふっ、声が上擦ってますよ」
微笑む彼女は隣に並び立って言葉を紡ぐ。
「私以外の、アカツキ荘の皆さんも気づいています。ですがクロトさんは背負った重荷を誰にも渡さない、自力でなんとかしようとする癖がありますから。鋼のように硬いその意志は尊重したい……無茶し過ぎたら止めますが」
「心当たりが多くて申し訳ない……」
「直してほしいわけではありません。でも──頼ってほしい、頼られたい。きっと皆さんはそう思ってます。自分の保身が一番、打算込みなんて言いながら誰かの為に動ける、見せかけではない優しさと思いやりの心を持つ貴方に助けられましたから」
だから私は、と胸を張って。
「アナタの事を知りたい、その上で支えたいのです。同じ学び舎に通う友として、肩を並べて共に戦う仲間として」
「知りたいって言われても、聞いてて楽しい話なんてないよ?」
「とんでもない、興味深い内容ばかりですよ。クロトさんが過去を語る時、とても大事で大切な宝物を見せるようで微笑ましく、そこから知れることは沢山あります」
鈴の音を鳴らして目線を向けながら。
「苦難の壁を乗り越え、困難な道を突き進む貴方だけの人生……話したい時に話してください。それが貴方の負担を取り除く一助となれるなら、喜んで聴き手となりましょう。ひとまず今は、景品をアカツキ荘に運びましょうか」
凛々しく、美しく。
立ち居振る舞いから気品を感じさせるカグヤは、包み込むような慈愛の心を曝け出して──今日一番の笑顔を浮かべた。
“おまけのコーナー”
──自由に狙い撃て、序盤解説。
『この場にお集まりの皆様方、お待たせしました。本日三十人目の新たな挑戦者の入場となります! なんと初挑戦でありながらカスタマイズを選択し、弓と魔法で挑む彼の名は学園の特待生アカツキ・クロト!』
『学園最強と名高いノエル生徒会長のスコアを越えようと幾人もの挑戦者が挑み、破れていきました。なぜか執事服に身を包んでいる彼ですが、今回の挑戦でどのような結果を残すのか楽しみですね』
『それでは早速開始と行きましょう。自由に狙い撃て、スタートです!』
『まず第一陣は低速で飛び交う的です。形状が特殊であり、障壁内を吹く風の影響を強く受けて不規則に動く的ですが、どのように対処を──は?』
『さ、三本の矢を番えたかと思えば、同時に的が撃ち抜かれて!? 続けざまにどんどん撃ち抜かれていきます! 矢の回収も自然で淀みなく、補充の必要が無いくらいだ!』
『凄まじい腕前ですね……これほどの弓術を修めているとは。未だ魔法を使用していない辺り、まだ余力を残しているようです』
『おっと、しかし最後の的を前に矢が切れてしまった! 補給地点は遠く近場に矢は落ちていない! これは撃ち損じてしまうのでは……ん? 何やら弓を構えて……投げたァ!?』
『信じられない行動ですが“弓矢”を使用しているのでルール上の問題はありません。恐らく魔法よりも得点倍率の高い弓矢で稼ぐのが目的でしょう』
『外れたとしても魔法で仕留めればいい話ですからね。いや、だとしてもイカれた判断力と手際の良さだ! 本当に初心者かぁ!?』
「……そういえばクロトさんはよく爆薬やポーションを投げてますから、投擲の精度は高いですよね。ですが、弓で的を壊すとは……」
──自由に狙い撃て、中盤解説。
『三本の矢を同時速射、弓を投げるなど驚きの行動で快進撃を続ける挑戦者! しかし中盤からは的の数が増加し、ランダムに屹立する障害物が出現します!』
『今までとは打って変わり正確な位置取りや大胆な立ち回りを要求されます。しかし未だに挑戦者は魔法を使わず、障害物を足場に躍動感溢れる動きでステージを跳び回り、弓矢でのみ的を射抜いております』
『現在までミスが無い為、既にスコアは十位圏内に届きつつあります。ですが、卓越した弓術の腕前でもさすがに手数が少なくなってきたぞ! これは厳しいか!?』
『解説席に寄せられた情報によれば、の魔法属性は特殊。それも自身の血を自在に操る血液魔法と呼ばれるものです』
『まるでセリス教の怨敵である吸血鬼の如き魔法ですね! とはいえ制限が多く剣やナイフを作れる程度であまり射程は長くないそうですが、いかにして魔法を……おや、いきなり矢じりで手のひらを切りました!』
『自傷行為に躊躇いが一切無かったですね。少し怖い光景でしたが、何やら蠢いた血が糸のように細くなり彼の周囲を漂い始めました』
『見た感じ投網でも作るのでしょうか? いえ、でも棒状の物体にも変化して……んん? あれは、釣り竿ですかね?』
『釣り竿ですねぇ。さすがにこんな場所で魚は釣れませんが、どんな意図があってあんな物を……お、片手で振ったかと思えば針を障害物の柱に引っ掛けましたね』
『そうこうしてる間にも的はどんどん出現しています。今のペースでは間に合わな──ああ!? なんてこった、柱に付いた足場をもぎ取って振り回し始めたぞ!? 絡め取られた的がどんどん壊されていく! 魔法行使での得点になるとはいえ無法が過ぎるぞ挑戦者ァ! しかし観客の熱狂は天井知らずに上がっていくゥ!』
「なるほど。弓矢では一点攻撃しかできないから、血液魔法で範囲攻撃ができるようにしたんですね。糸で的を寸断するよりも豪快さを選んだ、と…………それはそれとして、なぜ釣り竿?」
──自由に狙い撃て、終盤解説。
『観客はおろか解説の予想まで裏切り続ける彼の勢いによって場の熱狂は最高潮! そして自由に狙い撃てもいよいよ終盤! 苛烈なステージ変化が挑戦者を襲うゥ!』
『ただの障害物だった壁や柱が変動し、地面も土属性魔法の応用で隆起し、または崩落するなど一筋縄ではいきません』
『しっかり挑戦者の安全は確保されていますが、それらに気を取られスコアを伸ばせず終了となる展開が多い! おまけに中心を射抜かなければ壊せない耐久性の高い的が出てくる始末! 規格外の行動を見せる彼はどう動くのか!?』
『そう言ってる内に的が出てきましたね。さすがに振り回していた足場を手放し、弓矢で集中的に狙っていますが短弓では威力が足りません。いえ、二射連続で中心点に当ててるのは凄まじいのですが』
『さらっと凄腕技術が流されていますが、確かにこのままでは手間が掛かります! 順調に伸びてきたスコアもここで打ち止めになるかァ!?』
『いえ、彼の周囲を浮遊していた血が短弓に吸い込まれていきます。形が変わって……荒々しい長弓になった?』
『アレが血液魔法の付与なのでしょうか。しかし長弓にして威力が上がったところで……おお? 今度は矢を血で作成しました! 何やら矢じりがドリルのような形をしています!』
『ですがすぐには弓に番えず、普通の矢で的を撃ち始めました。これまでとは打って変わって絶妙に端を掠めているだけで破壊には至らず、的はフラフラと空中を落ちていきます』
『もしやこれまで発揮してきた異常なパフォーマンスの反動が現れてきているのか? 快進撃もここで打ち止めとなるか──おっと! ついに血の矢に手をかけました!』
『……っ。そうか、これが狙いだったのですね』
『えっ、どういう意味で……ッ! 馬鹿な、先ほどまで当てていた的が一直線に並んでいる!? 風が吹き、狙いもつけづらい地形で位置を調整したというのか!?』
『私たちはまだ彼の実力を測り切れていなかった。心のどこかで勝手に見限っていたのかもしれません。ですが、そんな心の内を狙い撃つように──』
『今、血の矢が放たれ、全てを貫いたァアアアアアアアッ!! ここで終了のサイレンが鳴り響くッ! 前代未聞、空前絶後! 初挑戦の初心者が生徒会長のスコアを下し、まさかのオールパーフェクト達成だァ!!』
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屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、
趣味全開で異世界を生きていく。
魔王とはいずれ戦うことになるだろう。
だが今は――
まずは冒険者登録からだ。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
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私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
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異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
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アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
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その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
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そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
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