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【四ノ章】借金生活、再び

短編 ちびっ子カルテット~巻き込まれた凡人~《プロローグ》

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 打ち上げパーティーの真っただ中。
 蟹尽くし料理に舌鼓を打っている親方とレインちゃんの元へ。

「すみません、親方。中間試験の勉強とか準備で挨拶に行けなくて……」
「ふぉっふぉ、構わんよ。こうして盛大な催し物に招待してもらったわけじゃしな」

 魔科の国グリモワールで購入してきた菓子折りのお土産を片手に。
 白い髭を撫でながら笑う姿は数週間前と変わらない。お元気そうで何よりです。

「それに、聞いたぞ? 遠征から戻ってきて早々に工房で籠って倒れたとな。大方、自分の工房を持ててはしゃいで徹夜したのじゃろ?」
「ふぐっ! だ、誰がバラして……リーク先生か」

 最初の方に親方と話していたサリファ夫妻は、喧騒から離れたテーブルでイチャついている。
 すげぇ、人目もはばからずアーンしてるぞ。それを見て七組男子の目が血走ってやがる。落ち着けよお前ら。

「カカカッ! 気持ちは分からんでもないがのぅ、若い頃の儂とそっくりじゃて」
「ぐぬぬ……ま、まあ、その話はいいじゃないですか。自制できなかった自分の落ち度ですし、今後そうならないように努めますから。それよりも親方──鍛冶スキルが中級になりました」
「っ! まことか?」

 目を見開き、落っことしそうになったコップを握り直して。
 改めて顔を見合わせ、静かに頷く。

「そうかそうか、よかったなぁ……」
「はい。面倒見てくれた親方のおかげで、ようやく人並みに武具を作れるようになりました。……それでそのぉ、つきましては相談がございましてぇ……」
「なんじゃ、煮え切らないのぅ。前に言っとった露店の話か?」
「相談の一割弱くらいは関係してます」
「一割だけか!?」

 驚愕の表情のまま固まった親方へ子ども達の武器作成、折れてしまった長剣を修繕する新素材の開発案を伝えた。
 話を聞いていく内に戸惑いを払い、顎に手を当て熟考し始める。ぶつぶつと小声で何か呟いたかと思えば、ここでは結論が出せないと言われた。
 ひとまずこれは触りの部分だけで、詳しい内容は後日詰めていきたい。そう言うと親方は儂の工房を貸すと言ってくれた。試すならそこでやれ、と。
 やはり親方を頼って正解だった。新素材に関しては自分でも正しいかどうかちょっと迷ってたからな。

「クロトお兄さん!」

 一通りの段取りを組んで、改めて鍛冶スキルの成長を祝って乾杯を交わす。
 果実水を呷り、飲み干して。二人で焼きガニを楽しんでいると、子ども達の輪から外れてレインちゃんがこちらに歩み寄ってきた。

「やっほ、久しぶり。ごめんな? いきなり打ち上げに参加してほしいなんて連絡して。楽しんでる?」
「すっごく! 料理もおいしくて、七組の皆さんや同級生の子も面白くて……! 何より、こういうパーティーって憧れてたんです!」
「そりゃよかった。親方にグリモワールのお土産を渡してるから、後で食べてね」
「わあっ……! ありがとうございます!」

 ニコニコと屈託の無い笑みを浮かべるレインちゃんに、心が温まっていく。
 妖精族の女の子であり、小さい頃に両親を亡くしたにもかかわらず、お爺ちゃんと一緒に暮らせて嬉しいと胸を張る頑張り屋な子だ。天使かな?
 隣を見れば、親方も柔らかい表情でレインちゃんを見つめている。

「やはりウチの孫は最高に可愛い。そうは思わんか?」
「同感です。あの子なら孤児院の子ども達ともすぐ仲良くなれるでしょう」

 腕を組んで頷き合う俺達に、首を傾げるレインちゃん──その首には紐で吊るされた小さな袋が下げられている。
 小さいというよりは細長い袋の中身が何なのか、俺はよく知っている。《装飾細工師アクセデザイナー》の技術を学ぼうと決意した大本の要因だ。
 国外遠征に向かうより前、迷宮ダンジョン攻略を禁止されて金欠のまま野草をんで、井戸水を飲んで生き長らえていた頃の出来事。
 衝撃的な出会いからもたらされた、短くも濃密な冒険のお話。

「そうだ! お兄さん、グリモワールでどんな事があったのか聞かせてくれませんか? お爺ちゃんも気になるよね?」
「うむ。あの夫妻からの又聞きで済ませるより、本人の口から教えてもらうとするかの」
「期待されるほど大層な事をした覚えは……あるかなぁ?」

 そんなやりとりを交わしながら、遠征での思い出話を語る裏側で。
 俺は数週間前の状況を思い出していた──。

 ◆◇◆◇◆

 グリモワール。アマテラス。グランディア。
 五十年前、魔導革命と呼ばれる技術の変移を経て、三大国家と呼ばれるほどに成長した国の延長線上。
 線が混じり合い点となる位置に存在するのが、冒険者の育成を目的とした学園を中心とする国家、ニルヴァーナ。
 世界に蔓延はびこる魔物の討伐、迷宮の攻略など。時には冒険者ギルドの依頼を通じて仕事をこなす、いわば何でも屋の代名詞とも言える職業。
 それが冒険者であり、学園の生徒は学生冒険者と呼ばれる。
 これはそんな学生冒険者である俺、アカツキ・クロトが受けた一つの依頼にまつわるお話だ。
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