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149(残酷描写あり)
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アイーシャ達一同の前に姿を現したソレは、獣と言うには禍々しく。
魔物と言うには歪過ぎた体躯を持っていた。
「なん、だ……あれ……」
ぽつり、と呟いたのはクォンツかマーベリックか。
だがその呟きに答える者は誰もおらず、皆が一様に姿を現したソレに注目する。
身長の高いクォンツやマーベリック達が頭上を仰いでもその視界にソレを捉えるのは難しく、それ程にソレの体躯は大きい。
呆気に取られていたアイーシャ達であったが、ソレがのそりと動いた瞬間、クォンツが弾かれたかのように動いた。
「──っ、! その場から離れろ……!」
クォンツは言葉少なに叫ぶと、隣にいたアイーシャを抱き寄せてその場から跳躍する。
クォンツの声を聞いて、硬直が解かれたかのようにマーベリックやリドル、護衛達がハッとしたように動き、立っていた場所から大きく距離を取る。
その場にケネブとエリシャを残したまま、アイーシャ達が飛び退いた場所には巨体の生き物から吐き出された禍々しい色をした液体がビシャリ、と地面に飛散してそして嫌な音を立てて地面をじゅうじゅうと溶かしている。
「──嘘だろ、酸性の体液を吐き出すのかよ……」
「ク、クォンツ様……、あれも……魔物なのですか?」
クォンツに抱き寄せられた体勢のまま、アイーシャが怖々と聞く。するとクォンツはゆるり、と首を横に振った。
「いや、あんな魔物は見た事がねえな……何だあれ……」
「クォンツ、あれは合成獣、ではないのか?」
「いや、どうだか……合成獣にしては……なんつーか……」
マーベリックの問い掛けにクォンツは腑に落ちないと言うような表情でこめかみをかく。
合成獣にしては禍々し過ぎるような気がする。
クォンツがマーベリックと視線を合わせ、話を続けている間。
注意深く生き物を観察していたアイーシャは、その巨体からふわり、と黒い粒子がまるで立ち昇るように体の一部から放出されている様子を見て、目を見開いた。
「──っ、」
(あれはっ、お父様が闇魔法を発動する時に発生していた粒子……?)
まさか、と思いアイーシャはきょろりと周囲を確認するが近場にウィルバートが居るような気配は無い。
(まさか……、まさか、よね? お父様が犠牲になっていたり……お父様が……手を下していたり……しないわよね……?)
昨夜のウィルバートの様子を思い出し、不安を覚えてしまう。
ウィルバートの態度に、違和感を覚えた。
何だかとてもすっきりとした表情をしていて。
(何だか、吹っ切れた、と言うような……)
そして、今朝方。
マーベリックの不吉な言葉を思い出してアイーシャは無意識にクォンツの胸に縋る。
「──、? アイーシャ嬢、どうした……?」
頭上からアイーシャを心配するような声が聞こえるがアイーシャはクォンツの腕の中でじっと考え続ける。
(ケネブ・ルドランを殺すつもり……王太子殿下は、確かにそう言った……)
どきどき、と逸る心臓の音が嫌に耳に響く。
アイーシャが考え込んでいると、ケネブとエリシャがいる方向から叫び声が響いた。
「──あああああっ!」
「んぐぅーっ!!」
突然耳を劈く絶叫が聞こえ、アイーシャもクォンツも勢い良くそちらの方向に顔を向ける。
その瞬間、風が吹きふわりとアイーシャ達のいる場所に異様な匂いが漂う。
今まで生きてきた人生の中で嗅いだ事のないような、何とも言えないような匂い。
その匂いの元を察したクォンツは、瞬時にアイーシャの視界を奪うように自分の胸にアイーシャの顔を押し付けた。
「ふぐっ、……っ? クォンツ様!?」
どうしたのだろうか、とアイーシャが顔を上げようとするがそれをさせまいとクォンツは更にアイーシャを抱き込む。
「見ない方が良い」
硬い声音でぼそり、と告げられた言葉にアイーシャはぎくり、と体を硬直させた。
アイーシャとクォンツがそうしている内に、ケネブとエリシャが居る方向からは悲鳴が上がり続けている。
耳を澄まさずとも、何かが焼けるようなじゅうじゅうとした音と、地面にボタボタと何かが落ちる音。
そしてその音の後に風に乗ってあの異臭が漂う。
「熱い熱い熱い! 早く拘束を解けぇぇぇ!」
「んーっ! んぐううぅ!」
ケネブとエリシャの悲鳴が絶え間なく聞こえる。
アイーシャはケネブとエリシャの近くに先程の生き物がいた事を思い出し、そして彼らの身に何が起きているのかを察してぞっとした。
「もしかして……、叔父様と、エリシャが……」
アイーシャの言葉にクォンツは躊躇いながら頷き、「ああ」と答えた。
「溶けている……見ない方が良い……。だが、それよりも、だ……」
緊張を孕んだクォンツの言葉にアイーシャもそうだ、と考える。
このような場所にあのような生き物が出現したのであれば、討伐せねばならない。
このまま放置してしまえば最悪、人里にあの生き物が下りてきてしまう。
そうなればその地に住む人々が犠牲になってしまう。
「あの生き物を、どうにかしないといけない、ですよね……?」
「……ああ。骨が折れるだろうがここにはリドルもマーベリックも居るし、護衛もいるからな……どうにか出来るだろう」
「私も、補助魔法であればいくらでも……! お邪魔にならない場所でお手伝い致しますね」
「危ないと感じたら一人でも山を降りろよ……?」
クォンツの言葉にアイーシャは強く頷く。
アイーシャ達のすぐ後ろでは、リドルやマーベリック達だろうか。
人の動く気配がして、戦闘について話し合っている声が聞こえて来ていたのだった。
──アイーシャ達から少し離れた木々の間。
ケネブやエリシャが逃げて来ていた方向。
そちらの方からゆっくりと歩いて来ていたウィルバートは、自分の娘とケネブ達が顔を合わせてしまっている事、そして教団の男が変貌した生物を見て舌打ちした。
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