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しおりを挟む「アイーシャ! 私の拘束を解くように殿下を説得しろ! 誤解がある……、全ては誤解だ……っ!」
「何を苦し紛れな嘘を……」
エリシャに口封じの布を装着し終えたリドルが呆れたように呟き、マーベリックやアイーシャ、クォンツの元へ戻って来る。
ケネブの言葉を聞いて、アイーシャは鋭い視線でケネブを見据える。
「──何が、誤解だって言うんですか……? 十年前、私の両親を殺そうとした事? それとも、エリシャにこの国で禁止されている魔法を覚えさせた事……? それとも、お母様を合成獣にした事ですか……!?」
「っ、違う……! ぜ、全部誤解だ……! 今一度話し合おう……、一緒に過ごした十年間を忘れたか? お前は実の両親より、私達と過ごした時間の方が長いだろう、思い出も何も無いウィルバート達より、私達と過ごした長い時間を……!」
アイーシャの言葉を一切聞かず、自身の厚顔無恥な主張を無理くり通そうと足掻くケネブに、アイーシャは怒りで頭に血が上る。
「──っ、なんて事を……っ!」
「アイーシャ嬢っ、構うな」
クォンツに静止されるが、アイーシャはケネブの言葉にムカムカと苛立ちが募る。
──あれだけの事をしておきながら。
──この十年間、辛い思いをどれだけ抱えて来たか。
それを分かろうともせず、自分の都合しか考えないケネブの言い分にアイーシャは表情を歪めた。
「──アイーシャ……っ、! お前っ、その目は何だ……! 育ててもらった恩も忘れ厚かましい……っ!」
「っ、暴れるな! ケネブ・ルドラン……!」
アイーシャに対して怒りを顕にし、拘束された状態にも関わらず食ってかかるように体を滅茶苦茶に動かすケネブに、護衛が鋭い声を上げる。
だがケネブは護衛の声に一切反応をせずにアイーシャを睨み続けたままだ。
「お前は私の言う事をただ聞いていればいい……! お前は私達ルドラン家のために生かされてた事を忘れるな……! お前の価値はそれだけだ……!」
興奮するケネブの隣、その隣で口封じの布をされたエリシャが背後から近付く気配に気付き、怯えるように肩を跳ねさせた。
「──ふごっ、むぐぅーっ」
「……っ何だ、エリシャ……! 少し黙って──」
どんどん、とエリシャがケネブに体当たりをしてケネブの注意を引こうとする。
エリシャの行動を煩わしそうに眉を顰め、視線を向けたケネブはエリシャが目を見開き、見詰める先につられて視線を向けた。
その先には。
先程、ウィルバートから逃げてきた方向からは、醜い咆哮を上げて急速に近付いて来る禍々しい程の気配。
ケネブは先程、ウィルバートが起こした行動を思い出しそして近付いて来る気配の正体を察して顔色を真っ青にした。
「──っ、何だ……?」
「何かが近付いて来る、? 殿下、お下がり下さい」
その気配は、その場にいたクォンツやリドルにもすぐ気が付いた。
獣にしては近付いて来る速度が速い。
だが、咆哮を上げている声を聞けばとても理性ある生き物とは言い難い。
クォンツはアイーシャとマーベリックを守るように二人に背を向けて、近付いて来る気配に真っ直ぐ向き直った。
そして、その場にいる一同は姿を現したその存在に驚愕のあまり絶句する。
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