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 アイーシャは声を掛けてくれた男性にお礼を告げた後、学園の建物内に入り先程催しが行われると教えて貰った会場へと向かう為、事前に渡されていた書類を鞄の中から取り出す。

「──えっと、……そもそも、ここは……何処かしら……」

 取り出した書類には、新学年の入学に伴い学園内の高位貴族を中心とした「学園役員」と言う複数人からなるグループだろうか。そのグループの代表者が祝いの言葉を述べたり、学園内の説明をしたり、とする時間が設けられている。
 「それ」は学園内の大講堂で行われるらしいが、その大講堂が何処にあるのか、アイーシャ自身、今自分が何処に居るのかが分からない。

「困ったわ……どうしよう……」

 自分を置いて、さっさと先に行ってしまったベルトルトとエリシャに恨み言をぶつぶつと呟きながら、アイーシャは廊下を進む。
 一先ず歩けば何処かで生徒に出くわすだろう、と考えて足を進めたのだが、道に迷う人間がやってはならない事をアイーシャは自ら率先して行ってしまう。

 アイーシャは自分の邸内や、何度も行った事のある街へしか赴いた事が無い為、まさか自分が「方向音痴」だとは露知らず、自分が建物内で迷う事などありはしないだろうと言う謎の自信に突き動かされ、スタスタと足を進め、どんどんと建物内の入り組んだ場所へと迷い込んでしまった。



「──……おかしいわ……何で誰も生徒が居ないの……?」

 人の姿が全く見当たらない所か、先程までは太陽光が燦々と入り込む大きな硝子窓が取り付けられた廊下を歩いていた筈なのに、今では薄暗く、何処かひんやりとした廊下に佇んでいた。

 誰も人が居ない、静かすぎる場所にぽつんと一人で立っていると不安が湧き上がって来る。

「だ、駄目だわ……こんな……初日から迷って催しに参加出来なかったら……っ」

 邸に帰り、義母のエリザベートに知られたら何と言われるか。
 まともに学園にも通えないのであれば無駄な事は止めて学園になど通う必要は無い、と言われてしまう可能性がある。

 アイーシャは焦りながら自分の手の中にある書類を再度確認する。
 学園内の簡易的な地図が記載されたページを全面に出して、その紙をくるくると回しながら自分が今居る場所、向いている方向を確認するが、回し過ぎてしまい最早自分がどの方向を向いているのかすら分からなくなってくる。

「ど、どうしよう……っ」

 おろおろとしながらアイーシャが紙を回していると、アイーシャの背後。

 自分が歩いて来た廊下の曲がり角付近からだろうか。
 カツン、と誰かの足音が聞こえた。

「──……は、? さっきのご令嬢じゃないか……。こんな所で何をしてるんだ?」
「……っ、!?」

 アイーシャは声を掛けられた方向に勢い良く振り向くと、廊下の曲がり角は距離がある為、顔ははっきりとは分からないが、聞こえて来た声と、学園の制服を着ている事、そして。
 アイーシャが美しい、と感じた夜明け前のような髪の毛が薄らと差し込む太陽の光に照らされて煌めいているように感じた。
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