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答え合わせ 4終
しおりを挟む「…っ、」
ミュラーの言葉を聞いたレオンは、ぐしゃりと表情を歪めて声にならない声を上げる。
「確かに、レオン様は…その、普通の男性としては性的趣向がおかしかったかもしれません…ですが、レオン様は今も幼い少女にそういった感情を抱くのですか?」
「──っ、そんな訳ない…!俺がそういった気持ちになったのは後にも先にもミュラーだけだ…っ」
縋るようにミュラーにそう告げるレオンに、ミュラーは微笑むと座っていたソファから腰を上げてレオンの元へと歩んで行く。
「ならば…、私としては…確かに吃驚してしまいましたが、レオン様が"私自身"を好いて下さっている事がとても嬉しいです」
「…ミュラー」
そっとレオンの元へと向かうと、レオンの隣へと腰掛ける。
先程からレオンは自分の震える指先を真っ白になる程力強く握りしめていた。
震えるその両手のひらをミュラーはそっと自分の両手で包み込む。
自分のその異常な趣向を好いた人物に告白するのはどれだけの恐怖だったろうか。
きっと、レオンはミュラーが嫌がれば手を離してくれただろう。
そして、一生涯ミュラーの前に姿を表す事はしないつもりだったのだろう。
レオンの話しを聞いていて、彼からの言葉の端々
や表情から自分への異常な執着、愛情を感じ取った。
何より成人するまで自分の父親からの約束を守り続けるなんて事がそもそも普通ではない。
自分だったらさっさと相手に話してしまっていただろう。
大人の男性だったら上手く相手の親にバレないように想いを交わすことだって出来たはずだ。
(私がレオン様を好き過ぎて態度に出てしまう可能性はあったかもしれないけれど…)
もし万が一悟られたら婚約してしまえばいいのだから。
相手は侯爵家当主。伯爵家の我が家の爵位では相手からの婚約の申し込みを突っぱねる事が出来ないのだから。
愚直でまっすぐ歪んだ執着心を見せるレオンにミュラーは堪らない気持ちになる。
きっと今まで汚い手を使いもしただろう。それ程に自分自身を求めてくれていたレオンに恐れの気持ちは抱かない自分にミュラーは心の中で笑った。
「結局、私も一途に10年間レオン様を思い続けた執念深い女ですもの」
「…ミュラー」
まだレオンと色々話したい事がある。
ミュラーはゆっくりと自分の父親へと視線を向けると唇を開いた。
「…お父様…、レオン様と2人きりでお話したいです。出ていって頂いてもよろしいでしょうか?」
「ミュラー…それは…」
「2人きりにしてしまうのが恐ろしいですか?想いを通じ合わした私達が何か間違いを犯すと?…想いを通じ合わせた後の昨日、媚薬で我を忘れた私にレオン様は自分からは指一本触れませんでした。レオン様は自身でしっかりと自分の感情をコントロール出来る大人の男性です、そのような心配は侯爵家当主であるレオン様に失礼に当たる事ではありませんか?」
きっぱりとミュラーに諭されるような強い口調で言われ、ミュラーの父親は言葉を紡げなくなる。
そっとレオンへと視線を向けると「娘を頼んだ」と呟き、静かに扉から出ていった。
「…ミュラー?」
「レオン様、お話をしましょう。…私はレオン様がそれ程まで私を想っていて下さっていた事に気付いていませんでした」
「それは…そうだよ、俺はミュラーにだけは悟られてはいけない、と押し殺していたから」
困ったように眉根を下げて微笑むレオンにミュラーはレオンの手のひらを握っていた自分の手のひらに力を込める。
「その…レオン様が随分前から私を好いて下さっていた事も、驚きはしましたが不思議と嫌悪感は感じません」
「─っ」
ミュラーのその言葉にレオンは怯むように体をびくり、と震わせるとミュラーから視線を外す。
「確かに世間一般から見たらレオン様は異常な感性を持った男性です。ですが…幼い私に無体を働く事もありませんでしたし、数年前、レオン様のお膝に乗ってしまった時もお叱りを受けました」
「…本当にあの年の君に手を出したら父親との約束事以前に俺は犯罪者だ…何より深くミュラーを傷付ける。一時の自分の欲に負けてミュラーの心を深く傷付ける事は出来ない」
「ふふ、お父様もレオン様の性格を全くわかっておりません。レオン様はこんなに誠実な人なのに…」
誠実、だろうか?とレオンはミュラーに言われた言葉を自分の頭の中で反芻すると誠実とはなんなのか、と分からなくなってしまう。
「誠実、とは程遠いんじゃないかな…?俺はミュラーの知らない所で君に近付く男を排除して来たし…もしかしたら排除してきた男達の中には本当にミュラーを心から愛し、幸せな家庭を築けた男もいたかもしれない」
「本当にそうだったとしたらレオン様は私を手放して下さったんですか?」
きょとん、と瞳を丸めてそうミュラーに問いかけられてレオンは低く唸る。
「…無理だ。俺以外の男の隣で幸せになるミュラーを想像するだけで死にそうになる」
「ふふ、私もそうです。一時、本当にレオン様を諦めようとしましたが、きっと万が一誰か他の男性と結婚したとしても…私は本当の意味で幸せになれなかったと思うんです。きっといつまでもレオン様を思い出して、伴侶となった男性とレオン様を比べて…後悔していたと思います」
結局私もレオン様を諦める事なんて出来なかったんです。
そう微笑みながら言葉を紡ぐミュラーにレオンは唇を噛み締める。
そっとミュラーへ視線を移すと、ミュラーもしっかりと自分をまっすぐ見つめてくれていて、レオンは自然と希うように唇を開いた。
「…本当に俺でもいい?ミュラーの伴侶として、君の隣に俺がいてもいい?」
自分の両手を握るミュラーの手のひらをぎゅう、っと力強く握りしめる。
だけれど、その力はミュラーが手を振り解けるくらいの力強さで。きっとミュラーが思い直してレオンの手を振り解けるくらいの力強さ。
言葉とは裏腹に、まだ逃げ道を作ってくれているレオンにミュラーは笑うと反対にレオンの手をしっかりと握り締めた。
「…勿論です、私の気持ちは変わっていません。大好きです、レオン様」
いつものミュラーのその告白。
10年聞き続けたその言葉にやっと自分の気持ちを返す事が出来る。
レオンは自分の瞳から一筋涙が零れ落ちる感触を感じる。
やっと、言える。
「ありがとう、ミュラー。俺も愛してるよ」
泣き濡れた自分の表情を隠すように、レオンはミュラーを引き寄せるとしっかりと自分の腕でミュラーを抱き締めた。
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