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しおりを挟むリスティアナは父親の言葉に安心したように肩から力を抜くと、表情を緩める。
父や、他国に行っていた兄が戻り事の次第を調べ始めてくれると言うのであれば、なぜこのような状態に陥ってしまっているのかが分かるだろう。
「──反王太子派が、王太子であるヴィルジール殿下を廃す為に動いている可能性もあるな……派閥を詳しく調べねばならん」
「え……! ですが、王位継承権を持つのは殿下だけでは──」
父親の言葉にリスティアナは言葉を返そうとしてそこでハッとして言葉を止めると自分の唇を手のひらで覆う。
リスティアナが考えた事が父親にも分かっているのだろう。
父親は重々しく頷くと、眉を顰めて唇を開いた。
「ああ……いらっしゃるだろう……ヴィルジール殿下の叔父君……現国王陛下の兄君が……王兄殿下が……」
「ですが……っ、王兄であられるバジュラド様は継承権を放棄していらっしゃるのでは……?」
「前王の妾腹の子であったバジュラド様は、継承権を放棄してはいるが……。現在この国に王族の血を継いでいらっしゃるのは王太子であられるヴィルジール殿下ただ一人のみ……。殿下の身に何かが起きた場合は、一時的にバジュラド様にも継承権が与えられるだろう。それだけ、王族の血は尊い物だ」
「け、けれど……っ! ナタリア嬢はヴィルジール殿下の御子を身篭っておられます……! 万が一、殿下の御身に何かがあった場合でも、殿下の御子がいらっしゃるのは事実ではありませんか……!」
焦ったようにリスティアナが口にする。
その言葉に、父親も同意するように頷くが、続けて唇を開く。
「ああ。……殿下の御子が継承権一位になるのは必定。だが、まだ幼い御子が国の長として即位するには時間が掛かる。その間万が一陛下と殿下の御身に何かあれば、唯一残る王家の血筋を持つお方はバジュラド様その人しかいない」
「そんな……馬鹿な事が……」
「それに、殿下の御子が無事にお生まれにならなければ? 陛下と殿下に何かあれば、残っておられるのはバジュラド様お一人だ」
我々臣下は、最悪の状況と言うものを常に想定して動かねばならん、と父親は難しい顔でリスティアナにそう告げる。
だが、リスティアナにはどうしても父親が話した内容が現実に起こり得る事とは思えない。
ヴィルジールや、国王陛下はまだ健在で、お体も悪くない。
それに、王太子であるヴィルジールには、ヴィルジールの子である御子を身篭った女性がいる。
子が無事に生まれれば、王兄であるバジュラドが王位に着ける可能性は更に下がるのだ。
元々、継承権を放棄している人物である。そのような人物が、自らが王になる為にとそのような事を画策するだろうか。
「──もし、仮に……王兄であられるバジュラド様がそのように画策していたとしたら……一体どれ程の時間を掛けて……」
「まあ、バジュラド様自身にはそのつもりが無くとも、周囲にバジュラド様を持ち上げる者が居る場合もあるからな……。現状では何とも言えんのは事実だ」
そこでリスティアナの父親は一度言葉を区切ると、リスティアナに真っ直ぐと視線を向ける。
「──建国から続く我がメイブルム侯爵家は、国を乱す人物を王家の臣下として正さねばならん……。殿下の御子を身篭った、と言うナタリア嬢の周囲を注意深く見ておいた方がいいな……」
「それでしたら、ナタリア嬢が学園に登園している間は私が。それと同時に、マロー子爵家に接触するような貴族が居ないか、しかと確認致しますわ、お父様」
「──辛い目に合うやもしれんぞ?」
「それも、臣下の務めですわ、お父様」
キッ、と眉を上げて気丈にそう答えるリスティアナに、父親は「すまんな」と言葉を掛けて、リスティアナを執務室から見送った。
そうして、翌日。
リスティアナとヴィルジールの婚約は正式に教会に受理され白紙となり、婚約解消が行われた。
翌日は学園には登園しなかったリスティアナは、自室で婚約解消が行われた報告を聞き、ただ一言ぽつりと「そう」とだけ答えた。
「──休み明け……学園内は騒ぎになりそうね……」
この国の王太子であるヴィルジールと、四大侯爵家のメイブルム侯爵家の娘のリスティアナの婚約解消である。
宮廷内では瞬く間に話は広がるであろうし、そうなれば人から人へ話が伝わるのも早い。
「──けれど、待って……。王家はまさか直ぐにマロー子爵家のナタリア嬢と新たに婚約を結ぶ事を発表するつもりかしら……?」
そうなってしまえば、何故そのような事に、と貴族達は勘ぐるだろう。
そうして、先日の学園内でのナタリアの発言と行動に直ぐにナタリアの腹にヴィルジールの子が居る事が国中に広まってしまう。
「──そうなってしまえば最悪だわ……っ」
最早、それも時間の問題ではあるだろうが、その噂が真実だとして広まれば二つの勢力は揺れるだろう。
長年、平和で穏やかであったこの国が内部から大きく揺れ、乱れるのはもう時間の問題であった。
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