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しおりを挟むその場には、ざわざわと隣の学園生と何やら囁きあっている者や、高位貴族である侯爵家のリスティアナと、王太子であるヴィルジールの婚約が白紙になりそうな事に楽しんでいる者、野次馬感覚でやはり楽しんでいる者。
そうして、国の内部がこれから揺れ出しそうな事を察知し、報告の為に家に帰る者達でざわめいた。
(──私も、今日は学園に出ずに戻った方がいいでしょうね……お父様に報告をしなくてはいけないわ……)
リスティアナが自分の顎に手を当てそう考えていると、ざわめく学園生達の間を縫って聞き慣れた声がその場に響いた。
「──? 何故、このような騒ぎに……? あら、リスティアナ。おはよう、どうかしたのかしら?」
「──コリーナ!」
心強いコリーナの登場に、リスティアナはぱっと視線を上げるとコリーナに向かって近付き、そっと囁く。
「コリーナ。殿下と、ナタリア嬢がこの場で騒ぎを起こしてしまったの……ナタリア嬢の発言で、恐らく全てを察した者も中には居ると思うわ」
「……っ、何ですって……? もうっ、何故私がたまたま遅く登園してしまった時にこのような事が起こるのかしらね……っ」
「でも、助かったわコリーナ。私は、急ぎ邸に戻りお父様に報告するわ。アイリーン嬢と、ティファ嬢をよろしくね、何かあれば力になって差し上げて」
リスティアナの声に、コリーナは「分かったわ」と小さく頷くと周囲の学園生達に聞こえるように言い放つ。
「学生の本分は、学ぶ事では無くて? いつまでジロジロと女性を不躾な視線で見つめ続けるのかしら? 貴族として恥ずべき行動は控えて欲しいわね」
侯爵令嬢であるコリーナの言葉に、周囲に居た学園生達は気まずそうに視線を逸らし、一人また一人とぽつぽつと学園の建物へと足を向けて歩き出す。
その様子を見ながら、リスティアナはコリーナに向かって微笑むと唇を開く。
「……コリーナ、ありがとう。ふふ、貴女には昔から助けられてばかりね?」
「そんなのお互い様よ。リスティアナ、貴女だって昔から私を助けてくれていたわ」
ぱちり、とコリーナがウィンクをしてリスティアナにそう言うと、「また休日明けに会いましょう」とリスティアナの肩をぽん、と叩いてから学園の建物の方へと歩いて行った。
馬車に乗り、急ぎ侯爵邸に帰宅したリスティアナは馬車から降りるなり父親の執務室へと真っ直ぐ向かう。
学園に向かった筈のリスティアナが直ぐに戻って来た事に使用人達は何か問題でも起きたのか、と察して直ぐにリスティアナが学園に持参していた荷物達を預かると、リスティアナは使用人にお礼を告げて執務室の前までやって来る。
(──午前中のお忙しい時間帯に……このような報告を上げてはお父様の仕事を増やしてしまうかもしれないわね……。けれど、このまま見過ごしておくわけにはいかないわ……)
リスティアナはぐっ、と小さく拳を握ると目の前の扉をノックした。
「──お父様、私ですリスティアナでございます」
「……リスティアナ? 入りなさい」
「失礼致しますわ」
父親の返答があった事を確認すると、リスティアナはそっと扉を開けて中へと入る。
父親は机に向かい何枚かの書類を確認していたが、リスティアナが入室してくるとその書類を机の上に置き、椅子から立ち上がる。
「ソファに座りなさい。今、お茶を用意させよう」
「お仕事中に申し訳ございません」
「なに、気にするな。今日は午後に領地の視察が入っている程度だからな」
父親はリスティアナが腰を下ろした向かいのソファに自らも腰を下ろすと、チリンとベルを鳴らして使用人を呼び、お茶の用意をするよう告げる。
「──何か、あったな?」
「……はい」
お茶の用意が終わり、使用人が部屋から下がると父親はリスティアナに視線を向けて瞳を細める。
リスティアナは、学園で起きた事を全て父親に話す事に決めると、ゆっくりと唇を開いた──。
「──なるほどな……」
リスティアナが全てを話し終えると、考え込むようにして父親が自分の顎に手を当てる。
「殿下から婚約解消の申し出が行われてから数日……。不自然な程事態が急速に悪くなって行くな」
「──そうなのです、私もその事が引っ掛かっております」
「ああ。初めは恋にのぼせ上がり判断力を無くしているのかと思っていたのだが……それにしては強引過ぎるやり口だ」
「ええ、学園生が大勢あの場にいるにも関わらず、自国の王族の醜聞となり得る事柄を……あのように声を大きくして話して聞かせるでしょうか」
「今のリスティアナの話では、殿下が上手くマロー子爵家の令嬢を制していないだけのようにも聞こえるが……」
「ええ、それもあるとは思います。お子を第一に優先するあまり、ご令嬢に対して強く静止する事が出来ておりませんわ」
「王族の血筋を大事にするのは分かるが……」
父親がちらり、と気にするようにリスティアナに視線を向けてくるが、リスティアナは気にするでもなく父親に続いてキッパリと口にする。
「殿下は、どうにも情けない程にあの令嬢に強く出れないようです。身篭った経緯を、詳しく調べた方が良いかと思います、お父様」
「──そうだな。詳しく調べさせよう。他国に行っているオルファを呼び戻そう」
「お兄様を……! かしこまりましたわ、お父様」
「ああ、これから国の内部が荒れるかもしれんからな……手伝わせよう」
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