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連載
第九十五話
しおりを挟む案内されて、謁見の間に到着すると案内してくれた者が扉の奥に向かって声を掛ける。
「ミリアベル・フィオネスタ伯爵令嬢、及びノルト・スティシアーノ卿が到着致しました」
そう、男が声を掛けると中から扉が開かれて「どうぞ」と声を掛けられる。
ミリアベルは一度深々と頭を下げてからノルトの後に着いて謁見の間に足を踏み入れた。
謁見の間には玉座があり、その玉座に国王陛下が座っている。
そして、その国王陛下の左側にはこの国の宰相だろう。宰相が立ち、右側の壁際には近衛騎士が数名控えている。
その近衛騎士側に、教会の関係者であろう服装を身に纏った男が一人にこやかな微笑みを浮かべてじっとミリアベルを見つめている。
「──っ」
ミリアベルは、その男からの視線に薄ら寒さを感じてぶるり、と体を震わせるとそっとその男から視線を逸らして国王陛下へ謁見する際の姿勢を取る。
ノルトが陛下への挨拶を済まし、続けてミリアベルも挨拶を行うと陛下は嬉しそうに頷いて唇を開いた。
「うむ、突然の召喚にも関わらず快く応じて貰い有難い」
にこやかに話す陛下に、ノルトも微笑みながら「とんでもございません」と応じる。
ノルトは陛下と会話をしながら、じっと周囲に視線を向ける。
こうして見ると、陛下も隣の宰相も近衛騎士も至って普通の人間に見える。
まさか、この国の国王が自ら禁術に手を出し、あまつさえその身を滅ぼそうとしている事など、宰相も近衛騎士も微塵も考えていないだろう。
ノルトは他の人間に分からないようにそっとミリアベルの方へと視線を向けて、驚きに僅かに瞳を見開いた。
(──ミリアベル嬢……!?)
ミリアベルは、国王陛下に視線を向けた後、俯いていたのは知っているが、その顔色は真っ青になり、唇が僅かに震えている。
ノルトは明らかに怯えている様子のミリアベルにどうしたのか、と動揺してしまうがそれを今この場で悟られてはいけないと思い、ぐっと唇を噛んで耐える。
(ミリアベル嬢は、何にそんなに怯えてるんだ……?)
ノルトが戸惑う中、ミリアベルは自分が感じた事が嘘であるように心の中で強く願っていた。
いや、嘘であって欲しいとそう願っていたのかもしれない。
(じゃないと、国王陛下はもう既に──!)
先程、謁見の間に入り、国王陛下の声を聞いた時に感じた違和感。
そして、顔を上げて国王陛下の目と視線を合わした瞬間。
ミリアベルは気付きたくない事に気付いてしまい、その恐ろしさに唇が戦慄いた。
何故それに気付いてしまったのか分からない。
それは、自分が聖属性の魔法に目覚めたから生と死に関して殊更敏感に感じるようになってしまったのか。
聖魔法に目覚めている人間ならば皆このような事が分かるのか、だが、今までノルトから渡された教本にはそのような事など一切何も書かれてはいなかった。
それならば、他の聖魔法の使い手には分からない人間も多くいるのかもしれない。
(奇跡の乙女であれば分かっていた……?いえ、それとも陛下がこうなってしまったのはここ最近……?それとも、傀儡となったしまった奇跡の乙女にはもう分からなかった……?)
様々な事が自分の頭の中を駆け巡り、ミリアベルは目眩がしてくる。
今、この場で意識を保てているのが不思議な程だ。
魔の王であるネウスは、この事に気付いていなかったのか?
人の魔力に敏感な魔の王でも人の生き死にまでには確証が持てなかったのか。
それすらも分からない。
ミリアベルは思考が散らばって行くのを感じる。
だが、自ずと背後にいる教会関係者には動揺を悟られないようにしなければ、と無意識の内にそう感じ取っていた。
自分が今ここでその事に気付いている、と知られれば恐らく捕まる事は分かる。
(──陛下が、既にこの世の者では無い事を、どうにかノルト様達に伝えなければ)
ミリアベルは一度強く瞳を閉じると、深呼吸してから瞳を開けた。
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