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しおりを挟むフィミリアは、自室のベッドからゆっくりと立ち上がると窓際にゆっくりと足を向ける。
今日は、サミエルとその他彼の部下である騎士団の団員達が先日の事件について話を聞きに来る、と言っていた。
先程、サミエル達がハーツウィル子爵邸にやって来たのを見たフィミリアは話が終わって玄関から出てくる近衛騎士団の面々を自室の窓からそっと見下ろしていた。
「──……っ、」
未だにぶるり、と自分の体が震えるのが分かる。
フィミリアは自分の体を自分の腕で抱き締めるようにして必死に眼下に居る騎士団の姿をじっと見つめる。
──今はまだ、会えるような心境ではない。
「分かってる、分かってるのよ……サミエル様を恨んでも仕方ないって言うのは……だけど……っ」
フィミリアはあの時に男達から話された言葉が頭から離れない。
「婚約者がいない女性等を狙っている」と言っていた。
サミエルとあんな形で婚約を解消しなければもしかしたら自分はあんな目に合わなかったかもしれない。
サミエルが、聖女に心を移してしまったばかりに自分はこんな目に合ってしまったのだ、と言う気持ちが昨日から消えてくれない。
そして、もし万が一自分がまだサミエルと婚約をしていて、運良くあの事件を免れたとしても、自分以外の令嬢達は変わらず被害を受けていただろう事を考えると、卑怯な事を考えてしまった自分にも嫌気がさす。
だからこそ暫く顔を見たく無かった。
今、サミエルの顔を見てしまえばみっともなくサミエルを責めてしまいそうで、人を傷付ける言葉をかつて婚約者で、大好きだった人に投げつけたくない。
フィミリアは、自然と滲んで来てしまった涙を乱暴に自分の手で拭うと父親に会いに行く為、部屋を出る事にした。
男性使用人にはち合わせてしまう事を避けるように、昨夜戻ってから父親が配置換えを行ってくれている。
自分をこれ以上傷付けないように、昨夜父親も疲れていただろうにすぐさま配置換えを行ってくれた父親に感謝する。
自分への愛情を確かに感じて、フィミリアは拭った涙が再びボタボタと床に落ちてしまうのを感じたが、気にせずに扉を開けるとそっと廊下へと足を踏み出した。
父親と侍女のミアが居るであろう部屋へと向かいながら、フィミリアは自分の前に姿を表さないように気を使って行動してくれている使用人達の気配を感じて、有り難さにさらに涙腺が緩んでくる。
フィミリアは扉の前に辿り着くと、何度も深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「──……っ」
息を長く吐き出して、そっと自分の腕を上げて扉をノックすると、声を出して中に居るであろう父親へ言葉を掛ける。
「──お父様、私です、フィミリアです……少し宜しいでしょうか?」
フィミリアが言葉を掛けると、直ぐに中からバタバタと扉に駆け寄る音が聞こえて来て、扉が勢い良く内側へと開かれる。
「フィミリア!どうしたんだ、大丈夫なのか……?」
扉を開けて姿を表したフィミリアの父親、フレディの心配そうな顔を見て、フィミリアは何とか微笑みを浮かべるとこくりと頷いた。
「ええ、お父様に相談がございます。お話をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
フィミリアの言葉にフレディは頷くと、中へ入るように促して、扉をそっと閉じた。
廊下にはぱたん、と小さく閉じる時の音が響いて普段は人の姿が行き来い、賑やかな廊下には今は誰もいないせいか、寂しく悲しくその音が響いた。
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