闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

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サウスランドへ

乗船

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 あの後、僕たちは魔導船に辿り着いた。
 食糧を多めに買い込んでおいたのが、功を成したかサウスランドに着くまで、飢餓になることも、魔力切れになることもないだろう。
「そろそろ交代よアスィール。」
 アスピの言葉でふと我に返った。
「ああ、もうそんな時間か。ごめん。」
 僕は動力室から出る。
「ちゃんと食事はとるのよ。特にビタミンCは。」
 僕はその忠告に従い、酢漬けのオレンジをビンから取り出して口に放り込んだ。
 ツンとくる刺激。
 食べやすいように砂糖が多めに入っているとはいえ、僕はこの刺激が好きにはなれなかった。
 船の死神、壊血病。
 まぁ最悪フォースに直してもらえるが、それも気が引ける。
 アレから彼はずっと考え込んでいる。
 僕はアスピと相談して、動力源に魔力を送るのは、二人で行うことにした。
 そもそも彼には魔力というモノが存在するのだろうか?
 夢で出て来た黒服の男の話
 トゥエルブスさんたちが言っていた、セブンスが聞こえなくなったという神の声。
 アスピが使う攻撃魔術と、フォースが使う回復魔術は、仕組みが違うのかも知れない。
 僕は椅子に腰掛けると、竜宮の剣を抜いた。
「おい、乙姫。」
[………]
 僕は彼女を自分の腕に突き刺した。
[……ん…なんですか? ]
 気だるそうな声。
 彼女は僕から血を吸い取った。
「契約だ。お前に僕の血をやる。だからお前の力を貸してくれ。」
[私の力なんて必要ないんじゃなかったですか? ]
 僕の血を啜っておきながら、ズウズウしい。
「ごめん。悪かったよ。」
[誠意を感じません。貴方の血からは。]
[前の勇者さんはこんなんじゃ無かったんだけどなぁ。]
 僕は伝説の勇者のようにはなれない。
 だから彼女には相棒としてではなく、契約者として接していきたい。
「だからそこだよ乙姫。」
[名前で気安く呼ぶなよ。]
「じゃあなんて呼べば良い? 」
[……乙姫で良い。童貞さんには、それぐらいが1番でしょう。]
[契約の件ですけど……まぁ良いでしょう。血を下さるのなら。]
[逃げるなよ。]
 そう言って彼女はまた鞘に収まると、スウスウの息で眠ってしまった。
[良いのかアスィール。こんな奴と契約して。]
 ドゥルガがカタカタと机を揺らす。
「今の力不足の僕にはコレしか出来ない。でも僕には傷陽がある。」
 僕はまた自分の左腕に治癒魔術をかけた。
[まぁ君と、あのクソ野郎の関係に僕が首を突っ込むことではないけどさ。]
「なぁドゥルガ? 」
[なんだい? 相棒? ]
「伝説の勇者と乙姫はどういう感じだったの? 」
[そんなにアイツのことが気になるのなら、直接聞けば良いじゃないか。]
 盾が鼻息を鳴らす。
 拗ねているのだろうか。
「乙姫だけじゃない。みんなの関係も。みんなその時にはもう人格を持っていたんだろう? 」
[君も僕の扱いが上手くなったね。全く。良いよ。教えてあげる。]
[そうだね。まず鎧の 姑獲こかくと靴のペティー。この二人は元々性格上、勇者とはすぐ打ち解けて……姑獲は、まぁ良い奴なんだけど。]
[アペシュもそうだった。勇者は人が良いから。]
[そうだ、ダンジョンの宝箱を巡って、喧嘩していたことはあったかな。アペシュは君の知っている通り生真面目だからね。]
[でも彼は、民家の引き出しを物色したり、ツボを割ったりすることは無かったよ。]
[だから彼はアペシュに信頼されていた。]
[乙姫とは…… ]
 そこでドゥルガは苦虫を噛んだ。
[アイツね。面食いなんだ。多分君が相手にされないのもそのためだと思うなぁ。]
「酷いことを、さらっと言うよねドゥルガは。」
 そこで僕は、彼女と勇者の関係をまだ聞いていないことに気づく。
「君は? 君は勇者とどういう感じだったの? 」
[君とおんなじ感じかなアスィール。勇者は僕のことを友達だって言ってた。人間基準だと、血は繋がってないけど親しい人間のことを言うらしいね。僕はその感覚がよく分からなかったけど。悪い気はしなかったよ。]
[もちろん、僕は、アスィール。君ともその友達になりたいと思っている。]
[もし魔王を倒しても、僕を置いていなくなるなよ。]
 僕は何ともいえない気持ちになった。
「それは……約束できないかも知れない。僕も人間だから勇者と同じように老いて死ぬんだ。」
[君にはマスター・リーから譲り受けた外の世界に干渉する力があるじゃないか。それで不死になって、ずっと一緒にいてくれよ。]
[僕が朽ちて無くなるまで……さ。]
 果たして僕は約束するべきなのか。
 一度アスピと話したことがある。
 魔王を倒した僕たちはどうなるのかって。
 アスピは処刑されると言った。そのために冒険者にされずに生かされていると。
 魔王を超える力の持ち主。
 その頃には僕も不死に近い能力を手に入れているかも知れない。
 ただ、勇者に対して根強い恐怖心を持っている人類が、僕を放っておいてくれるとも思わない。
 それはノースランドの件で嫌と言うほど思い知った。
 いや、この考え方はやめよう。僕は勇者だ、みんなを疑ってはいけない。
「分かった。約束だよ。」
 軽い言葉。
 僕はこの言葉に責任を持たなければ行けない。
 僕に力を貸してくれたドゥルガを傷つけないためにも。
 

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