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サウスランドへ
着岸
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「フォース。着いたよ。」
やっとここまでやって来た。
逃げて逃げて逃げ続けた僕たちが辿り着いた南の果てノースランド。
甲板にいたフォースはおそらく着岸していたことに気がついていないのだろう。
だから僕が教えてあげることにした。
「あ、ああ。」
最近彼は、反応すら鈍くなった。
僕も、いきなり自分の故郷が無くなるとなったらこうなるかもしれない。
というか、フォースならきっと死んだセブンスのことも気にかけているだろう
殺したのは僕なのだけど
「アスィールは、お前はすごいな、記憶喪失なのに。なのに私は。」
「フォース。気にしないで。誰のせいでも無いから。ゆっくりで良いから。ね。まずは王宮に謁見しないと。」
「あと。」
「セブンスさんについては、私も悪かったと思っている。ごめんなさい。彼を助けられなくて。」
フォースは立ち上がった。
「『誰のせいでも無い』さ。アイツは生け捕りにしても、いず処刑されていた。」
「そうすれば、アイツはもっと人間を恨んでいただろう。」
「本当に私たちはどうすれば良かったんだろうな。」
アスピが腕を腰に付けて、ため息をついた。
「貴方が人生で1番の先輩でしょ。しっかりしてよね。」
魔法使いが、神父を説教する珍しい光景。
他で見ることはできないだろう。
僕は、ノースランドの戦利品であった白竜の角を持ち出した。
「あ、勝手に持ち出して。」
「良いだろう? 別に。彼女には、もう必要無くなった代物なんだ。僕が貰っても。」
* * *
僕たちは魔導船のメンテを終えると、荷物を持ち出して、船着場で手続きを済ませてから、王都へと入った。
他の王都とは、まるで違った。
まず人口。
文献によれば、一年中気温が15℃以下に下回ることはなく、作物も家畜にも困らないらしい。
当然、作物や家畜が暮らしやすい気候ならば、人間だって暮らしやすい。
死亡率が低いのも、サウスランドで人口が多い一つの理由だ。
王都のここ、ポートロワイヤルは、ビックリバーの農業に適した三角州にそのまま人が移り住み、発展した街となっている。
食糧自給率は250パーセント。
ここで収穫された作物は、そのまま港から他国へと運ばれるらしい。
僕たちは、関所で手付きを済ませると、真っ直ぐ、真っ直ぐ大通りを突っ切って、突き当たりの城門へと向かう。
肉を焼く香ばしい臭いと、花果の甘い香たち。
船の上で保存食ばっかりだった僕たちの胃を刺激しない訳がなかった。
「みんな。だめよ。先に王様のところに行かなきゃ。」
と、当の本人様も自分に言い聞かせるように理性を保っている。
僕自身も、ヨダレが止まらない。
船の上でパサついて硬い干し肉を齧りながら、何度もこの光景を夢見たか。
『サウスランドに着いたら、アツアツでフルフルの骨付き肉を頬張ってやるぞ!! 』と。
僕たちは、唸る内臓を抑えながら、やっとの思いで城門の前に立ち、そして門番たちに話をつけようとした。
「なんだお前ら。」
門番が胡散臭そうな目でこちらを見てくる。
僕は自身が勇者であることを彼に説明しようとしたところで、言葉を飲み込む。
ノースランドのことはとにかく、ウェストランドの情報が、ここまで届いていない訳がない。
「僕たち行商人でして、珍しいモノをお持ちしたので、ぜひ国王様にお目にかかれればと。」
「帰れ。」
突っぱねられる。
僕は衛兵たちに、白竜の角を見せた。
「なんだそりゃあ。どう見ても牛の角だろ。バカも休み休み言え。」
そういうと、衛兵たちはゲラゲラと笑い始めた。
「最近、魔王軍の動きが活発化してな。噂によれば、ならず者を自分の陣営に引き込んで、スパイ活動をやされているみたいじゃないか。」
(フォースが飛びかかろうとしているのを抑える。)
「俺は門番だ。責任を持って仕事をしている。ポート王に何かあれば、俺の首が危ないんでね。」
僕たちは、追い返されてしまう。
僕たちは近くの飲食店で、昼食を取った。
アスピが醤油の垂れる骨付き肉にあんぐりと噛み付く。
「ほぅむ~ん。」
肉汁が収まりきらないようで、口から溢れて来ているようだ。
彼女はよく咀嚼し、ゴクリと飲み込んでから、口を開いた。
「まぁ、妥当っちゃ妥当な話よね。」
「私たちの悪評は、もうポートロワイヤルにも伝わっているだろう。身分を明かすことは逆効果だ。」
伝説の防具については後回しにするとして、僕らには沢山の問題があった。
テーブルの上に置かれた銀貨三枚つまり500G。
コレだけ豪勢な食事を、ワンコインで食べられる地域は他にはないだろう。
だが僕たちの手元に残っているのは、銀貨二一枚。
ノースランドと違い、魔導船を宿代わりに使うとしても、三食しっかり食事を摂れば、こんな金は三日とも持たないだろう。
「私、長旅でシャワーを浴びてないんだけど。」
「言われてみれば。」
「私たちは、そんな身なりで王に謁見しようとしていたのか。」
僕もそこまで考えていなかった。
というかみんな疲れているのだ。許してほしい。
「お金欲しい。」
アスピが咄嗟にこぼした僕たちの心の声。
今ある問題は、まず一つ自分たちの旅費。
ビギニア王や、十二使徒から援助を受けていた、お金も既に尽きようとしている。
コレでも倹約して上手くやりくして来た方だ。
そして二つ目は、他の十二使徒の仲間たちの安否と、リワン姉ちゃんと、孤児院のみんなへの寄付。
コレはサウスランドに着いて落ち着いたら、並行してやろうと考えていた。
そして最後に、ノースランドが奴隷商売をしなくても国民が生きていけるようにする打開策。
三つ目は、すぐに取り組めないとして、一つ目と二つ目はすぐにでも行えることである。
「ギルドに行こう。」
「……それしかないわね。」
アスピが苦虫を噛み潰す。
冒険者の真似事。
当然僕たちは、女神の加護を受けていないので、教会で生き変えることは出来ない。
「運び屋の仕事もいくつか受けるぞ。」
とフォース。
運び屋。前世の僕が就いていた職業。
僕たちはギルドの建物に入るや否や、張り出されている依頼の一つから、一番報酬の多いモノを取り出した。
『山賊の討伐 50万G 』
やっとここまでやって来た。
逃げて逃げて逃げ続けた僕たちが辿り着いた南の果てノースランド。
甲板にいたフォースはおそらく着岸していたことに気がついていないのだろう。
だから僕が教えてあげることにした。
「あ、ああ。」
最近彼は、反応すら鈍くなった。
僕も、いきなり自分の故郷が無くなるとなったらこうなるかもしれない。
というか、フォースならきっと死んだセブンスのことも気にかけているだろう
殺したのは僕なのだけど
「アスィールは、お前はすごいな、記憶喪失なのに。なのに私は。」
「フォース。気にしないで。誰のせいでも無いから。ゆっくりで良いから。ね。まずは王宮に謁見しないと。」
「あと。」
「セブンスさんについては、私も悪かったと思っている。ごめんなさい。彼を助けられなくて。」
フォースは立ち上がった。
「『誰のせいでも無い』さ。アイツは生け捕りにしても、いず処刑されていた。」
「そうすれば、アイツはもっと人間を恨んでいただろう。」
「本当に私たちはどうすれば良かったんだろうな。」
アスピが腕を腰に付けて、ため息をついた。
「貴方が人生で1番の先輩でしょ。しっかりしてよね。」
魔法使いが、神父を説教する珍しい光景。
他で見ることはできないだろう。
僕は、ノースランドの戦利品であった白竜の角を持ち出した。
「あ、勝手に持ち出して。」
「良いだろう? 別に。彼女には、もう必要無くなった代物なんだ。僕が貰っても。」
* * *
僕たちは魔導船のメンテを終えると、荷物を持ち出して、船着場で手続きを済ませてから、王都へと入った。
他の王都とは、まるで違った。
まず人口。
文献によれば、一年中気温が15℃以下に下回ることはなく、作物も家畜にも困らないらしい。
当然、作物や家畜が暮らしやすい気候ならば、人間だって暮らしやすい。
死亡率が低いのも、サウスランドで人口が多い一つの理由だ。
王都のここ、ポートロワイヤルは、ビックリバーの農業に適した三角州にそのまま人が移り住み、発展した街となっている。
食糧自給率は250パーセント。
ここで収穫された作物は、そのまま港から他国へと運ばれるらしい。
僕たちは、関所で手付きを済ませると、真っ直ぐ、真っ直ぐ大通りを突っ切って、突き当たりの城門へと向かう。
肉を焼く香ばしい臭いと、花果の甘い香たち。
船の上で保存食ばっかりだった僕たちの胃を刺激しない訳がなかった。
「みんな。だめよ。先に王様のところに行かなきゃ。」
と、当の本人様も自分に言い聞かせるように理性を保っている。
僕自身も、ヨダレが止まらない。
船の上でパサついて硬い干し肉を齧りながら、何度もこの光景を夢見たか。
『サウスランドに着いたら、アツアツでフルフルの骨付き肉を頬張ってやるぞ!! 』と。
僕たちは、唸る内臓を抑えながら、やっとの思いで城門の前に立ち、そして門番たちに話をつけようとした。
「なんだお前ら。」
門番が胡散臭そうな目でこちらを見てくる。
僕は自身が勇者であることを彼に説明しようとしたところで、言葉を飲み込む。
ノースランドのことはとにかく、ウェストランドの情報が、ここまで届いていない訳がない。
「僕たち行商人でして、珍しいモノをお持ちしたので、ぜひ国王様にお目にかかれればと。」
「帰れ。」
突っぱねられる。
僕は衛兵たちに、白竜の角を見せた。
「なんだそりゃあ。どう見ても牛の角だろ。バカも休み休み言え。」
そういうと、衛兵たちはゲラゲラと笑い始めた。
「最近、魔王軍の動きが活発化してな。噂によれば、ならず者を自分の陣営に引き込んで、スパイ活動をやされているみたいじゃないか。」
(フォースが飛びかかろうとしているのを抑える。)
「俺は門番だ。責任を持って仕事をしている。ポート王に何かあれば、俺の首が危ないんでね。」
僕たちは、追い返されてしまう。
僕たちは近くの飲食店で、昼食を取った。
アスピが醤油の垂れる骨付き肉にあんぐりと噛み付く。
「ほぅむ~ん。」
肉汁が収まりきらないようで、口から溢れて来ているようだ。
彼女はよく咀嚼し、ゴクリと飲み込んでから、口を開いた。
「まぁ、妥当っちゃ妥当な話よね。」
「私たちの悪評は、もうポートロワイヤルにも伝わっているだろう。身分を明かすことは逆効果だ。」
伝説の防具については後回しにするとして、僕らには沢山の問題があった。
テーブルの上に置かれた銀貨三枚つまり500G。
コレだけ豪勢な食事を、ワンコインで食べられる地域は他にはないだろう。
だが僕たちの手元に残っているのは、銀貨二一枚。
ノースランドと違い、魔導船を宿代わりに使うとしても、三食しっかり食事を摂れば、こんな金は三日とも持たないだろう。
「私、長旅でシャワーを浴びてないんだけど。」
「言われてみれば。」
「私たちは、そんな身なりで王に謁見しようとしていたのか。」
僕もそこまで考えていなかった。
というかみんな疲れているのだ。許してほしい。
「お金欲しい。」
アスピが咄嗟にこぼした僕たちの心の声。
今ある問題は、まず一つ自分たちの旅費。
ビギニア王や、十二使徒から援助を受けていた、お金も既に尽きようとしている。
コレでも倹約して上手くやりくして来た方だ。
そして二つ目は、他の十二使徒の仲間たちの安否と、リワン姉ちゃんと、孤児院のみんなへの寄付。
コレはサウスランドに着いて落ち着いたら、並行してやろうと考えていた。
そして最後に、ノースランドが奴隷商売をしなくても国民が生きていけるようにする打開策。
三つ目は、すぐに取り組めないとして、一つ目と二つ目はすぐにでも行えることである。
「ギルドに行こう。」
「……それしかないわね。」
アスピが苦虫を噛み潰す。
冒険者の真似事。
当然僕たちは、女神の加護を受けていないので、教会で生き変えることは出来ない。
「運び屋の仕事もいくつか受けるぞ。」
とフォース。
運び屋。前世の僕が就いていた職業。
僕たちはギルドの建物に入るや否や、張り出されている依頼の一つから、一番報酬の多いモノを取り出した。
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