209 / 236
20章 緩やかに侵食する黒
20-6 自己責任 ※ビスタ視点
しおりを挟む
◆ビスタ視点◆
「メ、メイサさん、美肌草を買いたいんですか?」
カウンター越しにレンはメイサ嬢に両手で手を握られている。
メイサ嬢のあまりの気迫にあのレンが引いている。けど、手をしっかりと握られているので逃げられない。羨ましい。。。
「あの美肌草が手に入るのなら、是非とも購入したいです」
「メイサ嬢、、、それ、職権乱用だから。冒険者ギルド職員による冒険者からの直接購入は厳禁だ」
俺はとりあえずメイサ嬢をとめる。美肌草、そんなに欲しかったのか。今もお肌は充分キレイだと思うけど。
「じゃ、じゃあ、指名依頼なら良いんですかっ?あの美肌草が手に入るなら悪魔に魂を売ってもいい」
「俺は悪魔か。。。」
レンがボソリと呟く。悪魔じゃなくて魔王だろ、コイツは。
「買取一覧にはなかったが、美肌草って冒険者ギルドでも買い取るのか?」
「それが、、、美肌草は三日ももたないので人気の商品ではあるのですが、冒険者ギルドでは取り扱いが難しく、現在のところ買取はしていません」
「でも、メイサさんが購入を希望するくらいだから、冒険者ギルドでも買い手はすぐに見つかりそうだけど」
「冒険者ギルドでの販売は難しいでしょうね。美肌草はその名の通り、完全に美肌のための薬草です。一回使用すると死ぬまで使用をやめられないという禁断の薬草です。うちでは納品後すぐに液体の飲み薬に加工して冷凍保存していますが、薬師ギルドでも定期配送できるのはごくごく一部の上流階級や王族、貴族だけですよ」
俺も、レンも、神官殿もその話をうんうん聞いていたが、振り返ると話していたのは薬師ギルドの副ギルド長のクッキィ氏だった。いつの間にいたのか。
「あ、それだけ高価な薬草だと?」
「その通り。今は薬師ギルドでも確実な人数分しか定期配送を承れないですからねえ。レンさん、是非うちに納品してくれると嬉しいです」
「クッキィ氏、何で冒険者ギルドに?今日はこれからそちらに伺う予定だったのだけど」
「なぜか今日は冒険者ギルドにレンさんを迎えに行った方が良いような気がしてならず、ついでに冒険者ギルドに納品したレンさんの薬草も全部買い取っていこうかと」
この人も勘が働くよな。
「メイサ嬢に払える金額なのか?」
「美肌草の金額は、」
「コツコツと貯めた貯金があります。美肌草が手に入るチャンスを棒に振るなんてことできません」
メイサ嬢がクッキィ氏の返答を遮って宣言した。メイサ嬢の目が本気だ。
けれど、薬師ギルドの定期配送のキャンセル待ちに並べないとしたら、財産も身分も不適格だと評価されたのだろう。
薬師ギルドの定期配送はそれなりの身辺調査を行う。支払いが滞ることのないように。ちなみにここで言う定期配送というのは、一年契約とかの期限付きのものではなく、その人物が死ぬまでの契約のものだ。つまり、それなりの薬草の定期配送の契約である。
「ああ、薬師ギルドは美肌草を加工しているのか。だ、そうだ、五十九号」
≪そうですね、我が王。シャーベット、アイスなどに加工するのはいかがでしょう。高級感も出せますし、冷凍保存しやすいと思われます≫
角ウサギがコレ答えているのよ。五十九号は俺の朝食のコックだから当然なんだけどー。あれから毎日美味しい朝食を運んでくれているよ。この角ウサギちゃんが可愛い女性だったら、俺、簡単にコロコロと落ちてるよ。胃袋つかまれているよ。
あ、五十九号が可愛いコック帽を被った。料理の話をし始めると被るんだー。って、どこからそのコック帽を出したんだ?
「えー、加工しちゃうのー?そのまま納品してくれればいいのにー」
クッキィ氏が口を尖らせても可愛くない。
メイサ嬢ならそんな表情も可愛いのだろうけど。
今のメイサ嬢は鬼気迫る表情だ。。。
「、、、美肌草がうちにどれだけあると思っているんだ。あの角ウサギ女性陣がどれだけ食べても減らないんだ。味はいたって普通だから、男性陣はあまり食わないし。うちで多少加工したって、薬師ギルドに納品する美肌草は相当な量がある。美肌草は収穫可能時期も短い厄介な薬草なのにあんなに植えて」
「レンさん、」
まだ、メイサ嬢はレンの手を両手で握っていた。
なんか神官殿の目が怖くなってきたからもうそろそろ手を放そうぜ、メイサ嬢。
神官殿、よく見よう。レンの方は困り顔だ。デレデレしてないから水面下で怒るなよー。
「わかった。メイサ嬢には美肌草の加工品のモニターということで低価格で商品を納品するが様々な協力を依頼する。アンケートや肌のチェック等をお願いす」
「アンケートでも何でも協力します。生涯ついていきます、レンさん」
レンの言葉を途中で切って、食い気味にメイサ嬢が晴れやかな笑顔で言った。
メイサ嬢、言葉には気をつけよう。神官殿を押さえるこっちの身になって。
「五十九号、毎日食べ続けても良いように、ローカロリーにできるか?モチモチお肌なのに、モチモチお肉になったら、彼女たちも本末転倒だろうから」
≪原材料が原材料なのですが、できるだけ抑えてみますねー。けれど、カロリーを気にするなら成分を高濃度にして一日のアイスの量を少なくする方が良いかもしれませんね≫
「ああ、それなら販売価格は薬師ギルドぐらいには高く設定しておこう。この話を聞いたら絶対にグレイシアさんが乱入してくる」
≪味の方はメイサ殿にご協力いただいて、毎日食べても飽きのこない味をベーシックにして、何種類か作ってみましょう≫
「美肌草は数回ならば問題がありませんが、長期間服用して途中でやめてしまうと、肌が途端に衰えるという怖い薬草でもあります。販売先は厳重に管理した方が良いかもしれません」
クッキィ氏が横槍を入れる。
けっこう怖い薬草なんだな、美肌草。だからこその一生涯の定期配送か。
「そっかー、じゃあ、販売、贈答に関わらず、注意書きは必ず入れることにしよう。いや、箱に書いておくか。開封した時点ですべてに了承したこととするとでも書いておけば良いか」
レンは意外と自己責任型なのである。
注意喚起はしたのだから、後の責任はご自分でどうぞ、である。
薬師ギルドは金をとるためだが、金をとれなくなりそうな人間には売らない。
だからこそ、欲しいと願う人に行き渡らない。
一概にどちらが正しいとは言えないが、メイサ嬢は幸せになった。
だから、もうレンの手を離そうね。
メイサ嬢が俺の視線に気づいて、ようやく手を離してくれた。
ホッと一息。
神官殿は意外と力が強いよー。上級冒険者が押さえるのに必死になるってどういうことだよ。英雄の永遠のストーカーだから、英雄絡みになると力を発揮するのかね?
≪角ウサギ印の商品がまた一つ増えますねー、我が王≫
「女性相手の商品は厄介だけどなー。誰かに美肌草を定期的に薬師ギルドに運んでもらうように頼もう。あと、税金関係に強い角ウサギを育てよう。帳簿つけるのも面倒になってきた」
レン、お前が会計の帳簿つけてるの?英雄のお前が?
何でもできるのはすごいけど、世の中の人はレンに違うことをやってもらいたいと思っているよ。
神官殿はそんなことは素知らぬ顔で、そういう専門家をレンに紹介しないんだなー。角ウサギじゃなくても、人間でいるよ。
「ふふっ、これでビスタのような美肌を手に入れることができるのね」
え?メイサ嬢、俺の肌に嫉妬してたの?
「美肌草ではビスタの肌とは少々異なるぞ」
はい、爆弾投下ーーーーっ。レン、正直に答えないでーーーーっ。
メイサ嬢の目が据わってしまったじゃないか。
「確かに女性が求めるキメの細かさ、水分の保持、柔らかさは美肌草の方が上回る。だが、男性が求める皮膚の強さ、弾力等はビスタに合わせた薬草の配合で朝食に、、、え?この説明はもう大丈夫だって?」
うん、良かった。メイサ嬢が求めるものが美肌草にあって。
「そうか。まあ、ビスタとメイサさんが再婚でもしてくれれば、五十九号が朝食運ぶついでに美肌草の加工品も納品しやすいんだがな。メイサさんの分は宿屋に置いておけばいいか。良かった、宿屋にちょうど大型の冷凍庫があって。じゃあ、クッキィ氏、薬師ギルドにでも行こうか」
レン、爆弾を連続投下しないでくれ。
メイサ嬢の笑顔が超怖いよー。
すぐにクッキィ氏が自分の馬車の方にレンを誘導してる。神官殿もついていってる。
クッキィ氏ー、まだレンの納品した薬草の買取査定が終わってないから買えないでしょー。冒険者ギルドにゆっくりしていけばいいのにー。
レンを連れてまたここに戻って来るって?
俺も一緒についていこうとしたら、メイサ嬢に止められた。
はい、今日は冒険者ギルド待機日でした。
「メ、メイサさん、美肌草を買いたいんですか?」
カウンター越しにレンはメイサ嬢に両手で手を握られている。
メイサ嬢のあまりの気迫にあのレンが引いている。けど、手をしっかりと握られているので逃げられない。羨ましい。。。
「あの美肌草が手に入るのなら、是非とも購入したいです」
「メイサ嬢、、、それ、職権乱用だから。冒険者ギルド職員による冒険者からの直接購入は厳禁だ」
俺はとりあえずメイサ嬢をとめる。美肌草、そんなに欲しかったのか。今もお肌は充分キレイだと思うけど。
「じゃ、じゃあ、指名依頼なら良いんですかっ?あの美肌草が手に入るなら悪魔に魂を売ってもいい」
「俺は悪魔か。。。」
レンがボソリと呟く。悪魔じゃなくて魔王だろ、コイツは。
「買取一覧にはなかったが、美肌草って冒険者ギルドでも買い取るのか?」
「それが、、、美肌草は三日ももたないので人気の商品ではあるのですが、冒険者ギルドでは取り扱いが難しく、現在のところ買取はしていません」
「でも、メイサさんが購入を希望するくらいだから、冒険者ギルドでも買い手はすぐに見つかりそうだけど」
「冒険者ギルドでの販売は難しいでしょうね。美肌草はその名の通り、完全に美肌のための薬草です。一回使用すると死ぬまで使用をやめられないという禁断の薬草です。うちでは納品後すぐに液体の飲み薬に加工して冷凍保存していますが、薬師ギルドでも定期配送できるのはごくごく一部の上流階級や王族、貴族だけですよ」
俺も、レンも、神官殿もその話をうんうん聞いていたが、振り返ると話していたのは薬師ギルドの副ギルド長のクッキィ氏だった。いつの間にいたのか。
「あ、それだけ高価な薬草だと?」
「その通り。今は薬師ギルドでも確実な人数分しか定期配送を承れないですからねえ。レンさん、是非うちに納品してくれると嬉しいです」
「クッキィ氏、何で冒険者ギルドに?今日はこれからそちらに伺う予定だったのだけど」
「なぜか今日は冒険者ギルドにレンさんを迎えに行った方が良いような気がしてならず、ついでに冒険者ギルドに納品したレンさんの薬草も全部買い取っていこうかと」
この人も勘が働くよな。
「メイサ嬢に払える金額なのか?」
「美肌草の金額は、」
「コツコツと貯めた貯金があります。美肌草が手に入るチャンスを棒に振るなんてことできません」
メイサ嬢がクッキィ氏の返答を遮って宣言した。メイサ嬢の目が本気だ。
けれど、薬師ギルドの定期配送のキャンセル待ちに並べないとしたら、財産も身分も不適格だと評価されたのだろう。
薬師ギルドの定期配送はそれなりの身辺調査を行う。支払いが滞ることのないように。ちなみにここで言う定期配送というのは、一年契約とかの期限付きのものではなく、その人物が死ぬまでの契約のものだ。つまり、それなりの薬草の定期配送の契約である。
「ああ、薬師ギルドは美肌草を加工しているのか。だ、そうだ、五十九号」
≪そうですね、我が王。シャーベット、アイスなどに加工するのはいかがでしょう。高級感も出せますし、冷凍保存しやすいと思われます≫
角ウサギがコレ答えているのよ。五十九号は俺の朝食のコックだから当然なんだけどー。あれから毎日美味しい朝食を運んでくれているよ。この角ウサギちゃんが可愛い女性だったら、俺、簡単にコロコロと落ちてるよ。胃袋つかまれているよ。
あ、五十九号が可愛いコック帽を被った。料理の話をし始めると被るんだー。って、どこからそのコック帽を出したんだ?
「えー、加工しちゃうのー?そのまま納品してくれればいいのにー」
クッキィ氏が口を尖らせても可愛くない。
メイサ嬢ならそんな表情も可愛いのだろうけど。
今のメイサ嬢は鬼気迫る表情だ。。。
「、、、美肌草がうちにどれだけあると思っているんだ。あの角ウサギ女性陣がどれだけ食べても減らないんだ。味はいたって普通だから、男性陣はあまり食わないし。うちで多少加工したって、薬師ギルドに納品する美肌草は相当な量がある。美肌草は収穫可能時期も短い厄介な薬草なのにあんなに植えて」
「レンさん、」
まだ、メイサ嬢はレンの手を両手で握っていた。
なんか神官殿の目が怖くなってきたからもうそろそろ手を放そうぜ、メイサ嬢。
神官殿、よく見よう。レンの方は困り顔だ。デレデレしてないから水面下で怒るなよー。
「わかった。メイサ嬢には美肌草の加工品のモニターということで低価格で商品を納品するが様々な協力を依頼する。アンケートや肌のチェック等をお願いす」
「アンケートでも何でも協力します。生涯ついていきます、レンさん」
レンの言葉を途中で切って、食い気味にメイサ嬢が晴れやかな笑顔で言った。
メイサ嬢、言葉には気をつけよう。神官殿を押さえるこっちの身になって。
「五十九号、毎日食べ続けても良いように、ローカロリーにできるか?モチモチお肌なのに、モチモチお肉になったら、彼女たちも本末転倒だろうから」
≪原材料が原材料なのですが、できるだけ抑えてみますねー。けれど、カロリーを気にするなら成分を高濃度にして一日のアイスの量を少なくする方が良いかもしれませんね≫
「ああ、それなら販売価格は薬師ギルドぐらいには高く設定しておこう。この話を聞いたら絶対にグレイシアさんが乱入してくる」
≪味の方はメイサ殿にご協力いただいて、毎日食べても飽きのこない味をベーシックにして、何種類か作ってみましょう≫
「美肌草は数回ならば問題がありませんが、長期間服用して途中でやめてしまうと、肌が途端に衰えるという怖い薬草でもあります。販売先は厳重に管理した方が良いかもしれません」
クッキィ氏が横槍を入れる。
けっこう怖い薬草なんだな、美肌草。だからこその一生涯の定期配送か。
「そっかー、じゃあ、販売、贈答に関わらず、注意書きは必ず入れることにしよう。いや、箱に書いておくか。開封した時点ですべてに了承したこととするとでも書いておけば良いか」
レンは意外と自己責任型なのである。
注意喚起はしたのだから、後の責任はご自分でどうぞ、である。
薬師ギルドは金をとるためだが、金をとれなくなりそうな人間には売らない。
だからこそ、欲しいと願う人に行き渡らない。
一概にどちらが正しいとは言えないが、メイサ嬢は幸せになった。
だから、もうレンの手を離そうね。
メイサ嬢が俺の視線に気づいて、ようやく手を離してくれた。
ホッと一息。
神官殿は意外と力が強いよー。上級冒険者が押さえるのに必死になるってどういうことだよ。英雄の永遠のストーカーだから、英雄絡みになると力を発揮するのかね?
≪角ウサギ印の商品がまた一つ増えますねー、我が王≫
「女性相手の商品は厄介だけどなー。誰かに美肌草を定期的に薬師ギルドに運んでもらうように頼もう。あと、税金関係に強い角ウサギを育てよう。帳簿つけるのも面倒になってきた」
レン、お前が会計の帳簿つけてるの?英雄のお前が?
何でもできるのはすごいけど、世の中の人はレンに違うことをやってもらいたいと思っているよ。
神官殿はそんなことは素知らぬ顔で、そういう専門家をレンに紹介しないんだなー。角ウサギじゃなくても、人間でいるよ。
「ふふっ、これでビスタのような美肌を手に入れることができるのね」
え?メイサ嬢、俺の肌に嫉妬してたの?
「美肌草ではビスタの肌とは少々異なるぞ」
はい、爆弾投下ーーーーっ。レン、正直に答えないでーーーーっ。
メイサ嬢の目が据わってしまったじゃないか。
「確かに女性が求めるキメの細かさ、水分の保持、柔らかさは美肌草の方が上回る。だが、男性が求める皮膚の強さ、弾力等はビスタに合わせた薬草の配合で朝食に、、、え?この説明はもう大丈夫だって?」
うん、良かった。メイサ嬢が求めるものが美肌草にあって。
「そうか。まあ、ビスタとメイサさんが再婚でもしてくれれば、五十九号が朝食運ぶついでに美肌草の加工品も納品しやすいんだがな。メイサさんの分は宿屋に置いておけばいいか。良かった、宿屋にちょうど大型の冷凍庫があって。じゃあ、クッキィ氏、薬師ギルドにでも行こうか」
レン、爆弾を連続投下しないでくれ。
メイサ嬢の笑顔が超怖いよー。
すぐにクッキィ氏が自分の馬車の方にレンを誘導してる。神官殿もついていってる。
クッキィ氏ー、まだレンの納品した薬草の買取査定が終わってないから買えないでしょー。冒険者ギルドにゆっくりしていけばいいのにー。
レンを連れてまたここに戻って来るって?
俺も一緒についていこうとしたら、メイサ嬢に止められた。
はい、今日は冒険者ギルド待機日でした。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
263
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる