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20章 緩やかに侵食する黒

20-7 探求心

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 神聖国グルシアのシアリーの街。
 トテトテと薬師ギルドの馬車で、俺とククーもクッキィ氏に同乗している。五十九号とクロタも小さいサイズのまま俺の肩にのせている。
 向かうは薬師ギルド。馬車を使う必要もないくらい近いのだけど。歩ける距離だけど。

「うーん、メイサ嬢があんなに美肌草を欲しがっていたとは」

「ある一定の年齢以上になると、女性の欲しい薬草第一位になるようですね、美肌草は」

 クッキィ氏がにこやかに答える。

「管理が簡単ならいくらでも栽培するが、アレは収穫後が面倒な部類に入る。まあ、必要ないのに角ウサギ女性陣が熱心に栽培しているから栽培が途絶えることはないが」

「角ウサギでも心は女性なんですねえ」

 クッキィ氏はその角ウサギたちが元は人間だったということは知らない。素性を言わないけど。
 酒造りの街にいる女性たちは子供がいる方々の方が多い。妙齢の女性は片手で数えるほどもいないし、小さい子供も少ない。
 そして、高齢の者もいない。あの教会は丘の上にあったため、移動が困難な年齢が高い者は街の中の教会に避難した。その結果である。
 酒造りの街ではやや男性の比率が高いが、それほど大差があるわけでもない。あそこの教会長が男女差別する人間ではないので、基本的に穏やかなのだが。
 それでも、女性は女性なので、五十四号、健闘を祈る。

「美肌草を納品するとなると、シアリーの街の薬師ギルドではどの程度の処理能力がある?」

「シアリーの街にある北のダンジョンでは美肌草が採取された実績がありませんでしたから、美肌草を扱える薬師は今のところ私しかいませんね。他から薬師を異動させてくれば処理能力は上がりますが、一定以上になると冷凍庫や作業場所の設備面が問題になってきます。設備投資するくらいの量があるのなら、こちらとしても万々歳なんですが」

「自由に農地を使えって言ったら本当に自由に使ったからな、あの子たち」

 農地用の広い広い階層。アスア王国の王族たちが国民のためにせっせと食料を量産しているのだが、次から次へと収穫になるので、どうやっても余る土地がある。手伝っているエルク教国の住民たちも自分たちの街の階層に農作物を植えているのだが、自由に使える土地があるのなら、植えてみたい植物を植えてみた結果だ。

 美肌草は女性の永遠の夢らしい。植えられたらいいわねー、というささやかな希望だったものが、五十四号が普通に植えられますよーと言ってしまった。だって、ダンジョンだからね。ダンジョンの薬草が植えられるに決まっている。美肌草は魔力の種を植えると雑草のように生えてくる、困るくらいにコレでもかと。
 収穫後の管理が大変でなければ、納品先なんて考えなくても良かったのに。普通の薬草のように乾燥させて、状態保存の倉庫の階層に並べておければ良かったのだが、美肌草はそれができない。
 収穫できる時期も短いのに、収穫したらしたらで腐りやすい。
 超面倒。。。

「面倒でしたら、こちらからレンさんのダンジョンまで馬車を出しますが?美肌草は収納鞄にも詰められませんし」

 おっと、声に出てたようだ。この頃、考えを口にしないように気をつけていたのに。

「いや、薬師ギルドに空いている一室があれば、そこに扉をつなげて角ウサギたちに美肌草を投げ込まさせる。それを順次加工してもらえれば」

「では、一度美肌草の栽培地を見せてもらうことはできますか?当初は適当な一室をあてがいますが、美肌草の量によってはある程度の設備を準備する必要があります」

「なら、薬師ギルドについたら扉をつなげるか」

≪我が王、前と同じ薬師ギルドの扉につないでおきましたよー≫

 角ウサギ印の旗を持った十六号が俺とククーの間に現れた。
 ククーのミニミニダンジョンを使っている。
 以前、薬師ギルドの副ギルド長室にある扉から聖都の屋敷への扉をつないだことがある。その扉だ。

「いつもながら行動が早いね、十六号」

 なでなで。

≪いえいえ、我が王のためならば。美肌草畑一帯のご案内一名様でーっ≫

「一帯?」

 クッキィ氏が聞き返した。美肌草があると聞いても、ダンジョンでもなかなか見つからない美肌草。定期配送先の数が増えないのはそこまでの数が納品されないからだ。

≪ええ、一帯ですが?≫

 十六号が首をコテンと傾け繰り返す。
 うん、彼女たち農地を自由に使ったよね。。。アスア王国の王族の収穫物の量には影響ないから問題ないのだけど。

 クッキィ氏が美肌草畑一帯を見て一瞬放心した後、俺に聖都への扉を開けてくれ、と土下座までして頼んできた。いや、さすがに土下座までしなくとも開けるけど。
 聖都の薬師ギルドで書類を書き殴り、ギルド長の顔に叩きつけて、部下たちに指示を出していた。ギルド長に動いてもらうより、自分で動いた方が早いからな、ここのギルドは。
 巨大冷凍庫の配送やら、建設会社への連絡やら、テキパキ動いていた。
 聖都にいる美肌草を扱える薬師をとりあえず三人、守秘義務の契約魔法までしてシアリーの街に連れてきた。
 一日でも惜しいというのがクッキィ氏の本音だろう。
 美肌草畑で女性陣が食べ切れずに、ヘタって腐りかけているものを見つけてしまったからだ。叫んでいたよ。これだけでどれだけの儲けがーーーっ、とな。

 五十四号がこの草、植え続けて良いんですか、と聞いてきた。
 角ウサギ女性陣の目が怖いから、邪魔にならない程度に適当に植えておいて、と言った。




 アスア王国の王族一家の食卓。
 角ウサギ五匹が食卓を囲んでいる。
 王太子が妻に声を掛ける。

「なあ、お前。その草、あまり美味しくないだろう。たまにはこっちの草を食べたらどうだ?」

「普通の味でも食べなくてはならない草が女性にはあるんです」

「お母さま、、、」

 娘二人の食事は王太子と長男と同じ草である。角ウサギ姿で食べる草はどれでも美味しいと感じるようだが、この美肌草の味は、普通。そう、味が普通なので、美味しいと感じる草に囲まれているのに、美肌草の効能を感じない者たちには我慢してまで食べる必要がない草である。
 というか、美肌の効果は全身毛で覆われている角ウサギではわからないのだが。。。
 百歩譲って、夜に部屋で人間の姿に戻れるエルク教国からの者たちはともかく、夜でも戻れないアスア王国の王族には全く必要ないと思われるのだが。。。もしかして、人の姿で地上に戻ったときのために???戻る気がなさそうなんだが。

「ふふっ、貴方たちもお肌の曲がり角に来たら、この草の価値が痛いほどわかる時が来ますよ。でも、良かったわ。薬師ギルドの定期配送ももう受け取れないと思っていたから、美肌草を栽培することができて」

 女性陣が食べる美肌草の量も半端ない。が、植えた面積が面積なので、彼女たちだけでは消化できなかった。
 薬師ギルドでは加工して冷凍保存が可能なので、世界が平和になったら購入する者が全世界から殺到するだろう。

 うちの角ウサギ印では、美肌草が超高濃度に入ったシャーベット、アイスを考案中だ。こちらは知り合いやどうしても、という女性に売れば良いだろう。
 そして、世間一般で売る方はかなり成分薄めにしておこう。美肌草の摂取をとめても、肌が崩れないぐらいの。。。いや、これを食べていると、お肌の調子がいいかもしれないわね、というほどほどの具合にしておこう。


 角ウサギ女性陣やメイサさん等の彼女たちの美肌草への飽くなき探求心が、五十九号を巻き込んで角ウサギ印の商品化に拍車をかけるのである。
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