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12章 昨年とは違う夏

12-1 引っ越し祝い ※ククー視点

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◆ククー視点◆

 神聖国グルシアの聖都で、ノーレン前公爵の別宅お披露目パーティは行われる。
 少々中心地から離れているものの、静かに暮らす住宅としての選択は最適だ。
 豪華すぎない屋敷だが、アスア王国の公爵であった人物が住まうにも問題ない建物である。さらに手を加えたようだが、落ち着きのある外見の雰囲気は壊していない。
 レンにパーティの招待状を渡すのに、俺のところに遣いが来た。ノーレンさんちの初老の執事さんが聖都の大教会にいる俺に届けてくれた。俺の分まで招待状があった。どうせ来るんでしょ?と言われているようなものだ。
 確実にレンに届けてね、との圧も加えられた気がしてならない。




 で、ギバ共和国のことだが。
 レンはキッチリと冒険者ギルド本部とギバ共和国に恩を売った。俺が高い値段にしたと言っても過言ではないが。大神官長も乗り気だったので問題はない。

 ギバ共和国は冒険者ギルド協力の元、首都にいる住民らに説明と避難指示を出した。
 首都は広い。
 避難させる住民の数も相当多い。計画を急いでも一か月では到底間に合わないかのように見える。それでも、自主避難をできるだけ早い段階で促した。
 すべての住民の理解を得るまで待つわけがない。半信半疑の者、様子見の者、様々であるが、避難先を選べるのは早く移動したものの特権である。受け入れ先も数が限られている。後で辿り着いても、すでに入る余地がないことは考えられる。親戚や知り合いがいない者は違う都市にたらい回しされる可能性も含んでいる。
 そして、ギバ共和国は今回の最凶級ダンジョン発生の発端である木札を焼却処分とした。
 他の都市に持って行くことも禁じ、すべて首都に捨てていくことが義務付けられた。破った者は強制労働を課されることになる。避難地では無償の働き手は喉から手が出るほど欲しいのだ。
 多くの者は木札を首都で捨てて行った。
 小さな幸せで大きな災厄をもたらす物として。
 だが、自分の小さな幸せを手にするために、手放さない人間も少なくなかった。小さな木札である。隠すには造作もないことだった。

 ギバ共和国は大国である。
 首都を奪う原因をのさばらせておくわけがない。ましてや同じ原因で他の都市もまた同じように最凶級ダンジョンが発生されては示しがつかない。
 魔道具を使って首都の門から出る者たちの荷物を一瞬で点検し、破った者はすぐさま強制労働へと送られた。
 前の人が捕まっているのを見て、運良く、門の内側にあるゴミ箱に捨てるのならお咎めなしだ。
 避難は粛々と進んでいった。


 ギバ共和国の上空にはミニミニダンジョンが翼を使ってフヨフヨと浮かんでいる。空を見上げても目視はできない。
 首都の姿は何も変わらないが、ダンジョン化している。
 どういう手段で首都を維持するのかを、レンに聞かないことを条件にしていたため、誰もこの首都がダンジョン化しているとは露ほども思わないだろう。表面上は何ら変化がないのだから。

 冒険者ギルド本部にいるギルド長とレンが話したとき、本部の建物に残っているビスタの執務室を使う許可も得ている。ビスタの執務室は長年使われていないので、物置化しているということだったが。それを知ったビスタはギルド長に酷いと言ったが、全然戻って来ないお前が悪いと切り返されていた。ギバ共和国と神聖国グルシアの距離を考えれば、そう易々とは行き来できないが、それでも数年に一度くらいは様子を見に戻ってもいいはずだ。
 ギルド長はビスタの執務室を首都を維持するための魔道具やら魔法陣やらを置くのだろうと考えていたようだ。

 果たして、レンの目的は。

「本部にあるビスタの執務室って広いよなー」

「アレでも冒険者ギルド本部の上層部の一人ですからねー」

 一応、ビスタの執務室を掃除してくれたらしいが、壁際には段ボールが並んでいる。
 レンはソファに座って地図を広げている。横にはガイドブックが見えるなー。。。

 レンは自分のダンジョンとこの本部のビスタの執務室に扉をつなげた。
 ミニミニダンジョンで自分だけ移動するなら、別に扉は必要ない。
 神に仕える神官と言えど休日はある。俺の場合、かなり変則的だが。せっかくの休み、俺は隠し部屋の扉から、レンのダンジョンにある家の書斎で研究をしようとしていたのだが。
 レンに連れ去られた。。。
 遊びに行こー、と軽く誘われ扉で連れて来られたのは、ギバ共和国のビスタの執務室だった。

「ククー、ちょっと怒ってる?」

「英雄に誘われたら、地の果てまで一緒に行きますよー」

 休みなので、俺は当然神官服ではなく、普段着だ。収納鞄は持って来ているが、さすがに国外に出るとは思っていないので、身分証等一式は持ち合わせていない。
 コレ、確実に不法入国だよね。

「だってさー、最凶級ダンジョンが発生したら破壊されるから、もう見れなくなるんだよー。その前に歴史的建造物とか観光しておきたいじゃん。それに、ノーレンさんちの引っ越しパーティに招待されたから、お祝いの品を持って行くのに、今、この街なら、何か掘り出し物が見つかりそうじゃーん」

「そーですねー」

「住まいが聖都に移ったら、ヴィンセントも一緒に行動できるから、ククーと会う機会は増えてもククーと二人で行動できる機会って少なくなるんだよー。できるだけ一緒にいたいから誘ったんだけどー」

 うう。レンのこんな言葉で機嫌を直してしまう俺も俺だ。真っ赤になった顔を横を向いて、さらに手で隠す。
 レンが俺の顔を見ようとして覗き込んでくる。

「わかった、わかった。今日一日アンタにつきあう。それで良いんだろ」

「ククー、ありがとー。ククーも一緒に引っ越し祝い探そー」

 レンの喜んでいる顔が眩しい。
 完全に惚れた弱みだ。
 窓から覗く青空も眩しいな。
 朝連れて来られたが、時差があるのでこちらはもう昼過ぎである。

「引っ越し祝いっていっても、アンタのところのダンジョンで採れた魔石を渡せばそれで充分な気がするが」

「なーんかそれだと芸がないっていうか、もうひと捻り欲しい」

「レンは誰と何を張り合っているんだよ」

 あの人はこの息子から贈られたら、道端の石ころでも大事にしそうなんだが。

 ノックの音が響いた。

「はい?」

 レンが返事すると、扉が開く。

「、、、無人のはずの部屋で話し声がすると思ったら」

 ギルド長が自ら確認に来たのだろうか。後ろに他の職員一人もついてきている。

「おや、ギルド長、どうした?」

「どうした?じゃない。どうやって神聖国グルシアのシアリーの街から来た?しかも、お前らこの建物の玄関から入って来てねえだろ」

「ビスタの執務室を借りるって言っていたじゃないか」

「それはそうだが」

 ギルド長はレンの目を見て、深いため息を吐いた。

「首都の時間稼ぎの条件は覚えている。詮索はしない。答えたくない質問は答えなくていい。ただ、何しに来た。魔道具や何かを設置に来た、ってワケじゃなさそうなんだが」

 そりゃ、レンの手にしている地図や、テーブルに置いてあるガイドブックを見ればそう思うよね。

「日帰り観光」

 日帰りってわざわざ言う必要あるのかな?
 ぶちっと太い血管が切れたような音が聞こえたのは空耳かなー。

「クソ英雄が英雄じゃなくなると、この街の状況もわからなくなるのか?英雄は魔物退治しか能がなかったのか?」

 あれ?何でこのギルド長は俺に聞くんだろう。俺が誰だか知っているのか?
 俺の表情で、思ったことが伝わったらしい。

「神聖国グルシアの元諜報員のククール・アディだろ。英雄のストー、、、いや担当だった神官だ」

 コイツもストーカーって言おうとしたな。俺に対する認識って世界共通なのか?
 少し悲しくなる。反論はまったくできないんだけど。
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