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12章 昨年とは違う夏

12-2 掘り出し物 ※ククー視点

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◆ククー視点◆

「とりあえず深呼吸したらいかがですか?」

 頭の血管がブチブチと切れたら怖いので、俺は冒険者ギルド本部のギルド長に言った。
 ギルド長はすでにレンの向かいのソファに座っている。もう一人の職員はギルド長の斜め後ろに立っている。

「いろいろな修羅場は潜ってきたと思っていたんだけどな。まだまだ世界は広いぜ」

「そうだな、世界は広いよな。魔物たちに踏み荒らされる前にいろいろ見ておかなくちゃ」

 とりあえず、レンは黙っておこうか。地図やガイドブックも自分の収納鞄に入れておこうなー。
 価値観の相違。
 立場の違い。
 危機感の差。

 この二人は明らかに高い壁に隔たれている。
 レンもこの首都が置かれている状況をわかっていないはずはないのだが。
 
「時間もないことだし、ククー、行こうか」

 レンが立ち上がった。
 時間がないのはギルド長もだが。

 俺たちは冒険者ギルド本部の建物を出る。
 ギルド長は塩でも撒いているんじゃないだろうか。
 この国はすでに暑い。
 乾燥した暑さなので軽装の俺はいいのだが、レンは俺の渡した金糸で縁取りに刺繍された白いマントを羽織っている。夏用のマントに衣替えしているので薄手で軽いし、レンは清涼化の魔法を使っているのでマントのなかは涼しい。いつもなら肩にのっている角ウサギがマントのなかで涼んでいることでその快適さを表している。
 が、見た目はどう見ても暑い。
 どう見ても魔術師だが、この国でこの季節にマントを羽織っている奴はごくごく一部に限られる。存在が目立つ。


 冒険者ギルド本部の建物は首都の中心部にある。
 通りにもまだまだ人は多い。
 近場にある広場では多くの屋台が並び、それを購入していく客も多い。
 避難は進んでいるのだろうか、と心配しかねない。

 金を持っている者たちは自分たちの馬車や雇った馬車でかなりの荷物を運ぶことができる。収納鞄や収納袋は高価だが、この首都では売切れ続出。できるだけ財産を運ぶとすると限りある馬車のスペースを考えるより、収納鞄を購入した方が運び出せる。そして、親戚の者や頼れる者がいる地を行先として選択する。
 近隣の都市や街から収納鞄等を売りに来る商人も多い。

 反対に、自分で馬車を手配できない者たちは、国が手配する馬車に頼らざる得ない。まず、近隣の都市や街に馬車で連れて行き、そこからまた違う馬車に乗り継ぐことになる。どうしても手荷物は自分で持てる範囲になる。家具などは首都に置いていかなければならない。
 だが、家、土地、大きな家具等の持ち運べないものはもはや換金できない。この土地では他に購入したいと思う者がいなくなったからだ。
 収納鞄や馬車を持っていても、それは有限である。無尽蔵に何もかも運べるわけではない。
 そして、商人たちがこの首都で安く家具等を買えると考えても、近隣の都市で動ける余力のある馬車は国に借り上げられている。馬車は人間優先である。首都の門からは避難民のための馬車がひっきりなしに動いているが、それでもなかなか首都の住民は減らないのが現状だ。

 レンは本当に観光地巡りをした。
 最後だからと思い出巡りをする住民も多かった。
 意外と気持ちの整理をするために、区切りをつけるために、赴く人々は多かったのだ。
 昼も過ぎた頃。

「そこ行く白マントのお兄さん、魔術師か?」

「ん?」

「冒険者だろ。武器を見て行かないか。安くしておくよ」

 避難で困るのは、この地で商売している者たちもである。店にあるすべての商品を持って行くわけにもいかない。馬車を手配できたとしても、厳選して持って行かなければならない。
 捨てていくぐらいなら、かなり安くしても誰かに購入してもらった方が良いに決まっている。この地に残せば、魔物によって売り物にならないくらい破壊される。運良くこの地に住民が戻ることができたとしても、店の位置すらもわからなくなっている可能性だってある。

 客寄せしていたのは、通常そんなことを冒険者にはしないと思われる綺麗で広い建物の武器屋であった。武器屋と一口に言ってもターゲットが冒険者でない場合がある。性能等は冒険者が持っても申し分ないが高価な飾りとして武器を扱うのは貴族や上流階級向けの高級店である。
 本当なら店が客を選ぶ側の立場だったはずの店だ。
 杖や剣等が並んでいるが、冒険者が日常的に持ち歩くのはなかなか微妙な作品である。
 うちの大神官たちには喜ばれるだろうな。
 安いならちょっと買っておいてもいいかもしれない。

「飾りの武器か。中には恐ろしいぐらい切れ味のいい剣が存在するのに、使われないのはもったいないな」

 そう言いながら、レンは剣を鞘から抜いていないんですけど。剣身を見なくても、わかるんですか?英雄のギフト、失われたって言ってましたよねー?
 あ、今ここはレンのダンジョン内だった。レンに情報が筒抜けになっている。

「本当ならこれらは冒険者には手が出せないくらいの値がつくんだ。けれど、奥の部屋の物は何とか馬車に積めることになったが、さすがにこちらの方までは持ち出せない」

 つまり、奥の部屋の武器は相当高価なものだから馬車をどうにかしたのだろう。本当ならここにある剣一本の金額でも馬車を手配してもお釣りがかなり出る、通常時ならば。今はお金を積んでも荷物用の馬車が手に入らない。お金だけでは手に入らないのだ。

「ふむ、一本どのくらいだ?」

「何本か買ってくれるならさらにまけるぞ」

 店主がここぞとばかりに量を勧めてくる。それもそうだ。ここにあるものは一級品であっても、基本的に屋敷に飾る武器である。避難する住民たちが護身用として購入していくのはこういう店ではない。冒険者用の武器屋の方は品薄状態である。

 店主もレンの姿を見ている。ある程度、お金を出せると踏んでの交渉である。
 レンのマントは俺のお眼鏡にかなったけっこうな代物だからな。見る人が見れば、かなりの値打ちがあるものだと気づく。

「、、、ククーはここにある剣とか杖とか槍とかは飾り用で充分なのか?」

「レンが欲しいのは?」

「俺が欲しい剣はこの三本だ。コレは剣としても良いものだが、使わない者たちには必要ないだろう。ただ、奥に行けば大神官長が望むような丈夫で実用に耐えられ豪華な高い剣があるぞ」

「いや、安くなるから購入を考えているだけであって、安くならないものは地元の信頼している懇意の店を使ったほうがいい」

 奥にあるのは特級品だろうが、店主が持って行く物だ。安く売ることはないだろう。

「ああ、それもそうか。店主、この部屋にあるものすべてを買うとすると、いくらになる?安くしてくれるなら考える。捨てていくよりかは遥かに良いだろう」

「ふえっ、、、え、っとそうですね。少々お待ちを」

 変な声が出たな。そこまで期待していなかったのだろう。店主は紙とペンを取り出して計算し始めた。

「あ、」

「え?」

「店主、提案なんだが、この魔石と交換ではいかがだろう。このくらいの魔石の方が武器よりもお金よりも持ち運びやすいと思うが?」

 レンが収納鞄から取り出したのは、手のひら大よりは小さな魔石だ。世間的には大きいサイズに該当するので高価な取引がされるが、それでも通常時ならこの店のこの部屋にある剣の四、五本ぐらいの価格にしかならない。この店はそれだけ高価な代物を売っている。その価格の価値があるかは別として、貴族は値段でも武器を気に入る。

「コレは立派な魔石、、、鑑定士を呼びますので、お時間を頂けますか」

「構わない。ただ、他にも回る場所があるので早くしてくれると助かる」

「直ちに」

 避難が始まって客がほとんど来ないこの店は、必要最小限の人員しかいない。
 店主自身が走っていった。
 それもそのはず、これらの武器を店の地面でも掘って埋めていこうとさえ、あの店主は考えていた。魔物に壊されるのならともかく、盗まれるのは我慢ならないからだ。
 引き取り手がいるのなら、大幅値下げでも問題はない。
 上流階級用のかなり強気な価格がついているのだから。
 レンはそれらの仕入れ値を下回らないちょうど良い魔石を見せていた。

 その魔石が店主の見立て通りなら、レンを逃がすわけにはいかないのだ。
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