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6.捨てられない、母親の私
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『都合が悪くなった?』
「もう……会えない」
『千恵?』
私は人目を避けて壁に身体を向け、俯いた。
「子供なんて……持つもんじゃないよ、匡」
『え?』
「赤ん坊はすぐ泣くし、用事のある時に限って体調を崩すし、外食なんて行けないし」
『何言って――』
「――お洒落しても涎で汚されるし、アクセサリーなんて凶器でしかないし」
言っていて、子供たちの幼い頃を思い出していた。
家族で外食しようとしたり、紀之の仕事関係や友人のパーティーに呼ばれている日に限って、熱を出したり吐いたりした。
そんなことが何度か続き、紀之は家族同伴を断るようになり、一人で出席しては帰ってこなくなった。
熱でぐずる子供を腕に抱いて泣いたことが、何度あったか。
『千恵』
「お金はかかるし、一生懸命育てても一人で勝手に大きくなったような顔してさ?」
『何言ってんだよ』
「ひとりで必死に育ててきたの! 浮気されても、女を感じないと笑われても、耐えてきた。なのに、捨てられたの。転校は嫌だとか、貧乏は嫌だとか、そんな理由で子供たちに捨てられたの」
『……』
「それでも、思い出さない日はないの。思い出さない振りをしていても、いつも心配でたまらなかった」
『何かあったのか?』
「私は……母親なの」
自分に言い聞かせるように、言った。
匡の前では『女』になってしまう。『女』でいたいと願ってしまう自分に。
『千恵』
「すごく傷ついたのに、泣いていたら抱きしめたくなる。苦しそうだったら代わってあげたくなる」
すぐそばのカウンターから、上品で落ち着いた女性の声で搭乗開始のアナウンスが流れた。
私は顔を上げ、肩にかけたバッグのショルダーをぐっと握りしめた。
「ごめんね、匡。私にとって一番大事なのは子供たちなの。匡じゃない。匡を一番には愛せない」
『おい、ち――』
「――けどね? 匡は私の最後の男だよ」
『……』
「あ、だからって、私を匡の最後の女にする必要はないよ。ちゃんと、匡にとって唯一の女性を見つけて。匡を、唯一の男にしてくれる女性《ひと》を」
『そんな女、お前しかいねーよ』
「いるよ、ちゃんと」
『お前がいいんだよ』
「ありがとう。バイバイ」
一方的に電話を切り、そのまま匡の番号を着信拒否にした。
そして、ぐっと歯を食いしばって、搭乗のための列に並んだ。
「もう……会えない」
『千恵?』
私は人目を避けて壁に身体を向け、俯いた。
「子供なんて……持つもんじゃないよ、匡」
『え?』
「赤ん坊はすぐ泣くし、用事のある時に限って体調を崩すし、外食なんて行けないし」
『何言って――』
「――お洒落しても涎で汚されるし、アクセサリーなんて凶器でしかないし」
言っていて、子供たちの幼い頃を思い出していた。
家族で外食しようとしたり、紀之の仕事関係や友人のパーティーに呼ばれている日に限って、熱を出したり吐いたりした。
そんなことが何度か続き、紀之は家族同伴を断るようになり、一人で出席しては帰ってこなくなった。
熱でぐずる子供を腕に抱いて泣いたことが、何度あったか。
『千恵』
「お金はかかるし、一生懸命育てても一人で勝手に大きくなったような顔してさ?」
『何言ってんだよ』
「ひとりで必死に育ててきたの! 浮気されても、女を感じないと笑われても、耐えてきた。なのに、捨てられたの。転校は嫌だとか、貧乏は嫌だとか、そんな理由で子供たちに捨てられたの」
『……』
「それでも、思い出さない日はないの。思い出さない振りをしていても、いつも心配でたまらなかった」
『何かあったのか?』
「私は……母親なの」
自分に言い聞かせるように、言った。
匡の前では『女』になってしまう。『女』でいたいと願ってしまう自分に。
『千恵』
「すごく傷ついたのに、泣いていたら抱きしめたくなる。苦しそうだったら代わってあげたくなる」
すぐそばのカウンターから、上品で落ち着いた女性の声で搭乗開始のアナウンスが流れた。
私は顔を上げ、肩にかけたバッグのショルダーをぐっと握りしめた。
「ごめんね、匡。私にとって一番大事なのは子供たちなの。匡じゃない。匡を一番には愛せない」
『おい、ち――』
「――けどね? 匡は私の最後の男だよ」
『……』
「あ、だからって、私を匡の最後の女にする必要はないよ。ちゃんと、匡にとって唯一の女性を見つけて。匡を、唯一の男にしてくれる女性《ひと》を」
『そんな女、お前しかいねーよ』
「いるよ、ちゃんと」
『お前がいいんだよ』
「ありがとう。バイバイ」
一方的に電話を切り、そのまま匡の番号を着信拒否にした。
そして、ぐっと歯を食いしばって、搭乗のための列に並んだ。
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