復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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番外編*甘いお仕置き

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*****


「やっぱり泊って行こうか」

 梓がそう言ったのは、倉木社長が部屋を出て行って二杯目のジャンパンを飲み干した後。

「なんか、疲れちゃったし。ホテル内で着替えは買えるよね」

 梓らしくない言葉。

 やはり、倉木社長のことが気にかかって、というより怒っているのだろうか。



 部屋でゆっくり話す必要があるな。



「部屋、取ってくる」と言いながら、俺は立ち上がった。

 すぐに、妻も立ち上がる。

「私も、行く」

 彼女から俺の腕に手を添えた。

 俺は彼女に合わせて、ゆっくりと歩いた。



 どうしてこんなことになった。



 倉木社長の誘いに乗ったのは俺だし、その必要もあった。だが、まさか、こんなに後味の悪い話になるとは思ってもいなかった。

 ちょうど部屋のカードキーを受け取った時、俵の姿を見つけた。

 さっきの電話で、実家にある梓の荷物を持って来てほしいと頼んであった。

 それを伝えると、梓はほんのり赤い顔で俵に微笑んだ。

「ありがとう、理人りひとさん」



 は――っ!?



 人前では表情を変えない俵も、目を丸くしている。

「梓――」

「――皇丞くん」

 呼ばれて振り向くと、永江さんがいた。

「寿々音さんに頼まれてね? 梓さんを手伝って欲しいって」

「ありがとうございます」

「堀田様。申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします」

 俵が秘書の顔で永江さんに頭を下げた。

「お着物はあなたが?」

「はい。持って戻るように言われております」

「じゃあ、私が持ってくるまで、あなたたちはコーヒーでも飲んでいて?」

「いえ、そこまで――」

「――待っていてね?」

「はい」

 物腰柔らかそうに見えても、あの堀田社長の奥様だ。

 有無を言わせぬ声色と優しい表情がミスマッチで、俵がああっさり引き下がった。

「じゃあ、俺が荷物を――」

「――待っていてね?」

 永江さんとは違う、思いっきり笑顔で楽しそうに言うと、梓は俵の手からバッグを奪い取り、胸に抱いた。

「永江さん、行きましょう!」

 梓がくるりと半回転し、ずんずん歩き出す。

「おいっ! カードキー」

「私が持って行きましょうね」

 差し出された永江さんの手に、カードを渡す。

「梓ちゃん、酔ってんじゃね?」

 俵に言われて、彼女が何杯飲んだか思い出す。



 会場で一杯、部屋で二……三杯?



「つーか、梓ちゃんの名前呼び、マジでヤバかった」

「忘れろ。聞き間違いだ。妄想だ」

 俺も、思った。



 どうしていきなり?



 永江さんを待つ間、俺と俵は言われた通りラウンジでコーヒーを飲んだ。

 倉木社長との話を俵に伝え、父さんへの報告を頼んだ。

 秘書の件は話さなかった。

 社長はああ言っていたが、如月秘書の意向を確認していない。

 それに、少し気になることもあった。

 二十分ほどで永江さんが下りてきた。

 着物を受け取った俵を見送って、永江さんを堀田社長の元に送り、もう一度礼を言った。

 専用エレベーターで二十五階に上がり、エグゼクティブフロアのフロントでルームサービスを頼んでから、部屋に向かった。

 部屋では、梓がソファに腰かけて、夜景を眺めながらグラスを傾けていた。

「梓? 今、ルームサービス頼んだから、あんまり飲むな」

「は~い」

 グラスを置き、梓が立ち上がる。

 ドキッとした。

 バスローブかと思った白い羽織は浴衣のようで、バスローブより全然薄い。

 凝視しそうになり、慌ててフイッと目を逸らした。

 話をしなければ。

「先にシャワー、浴びるか?」

「……一緒に?」
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