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11.炎上
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しおりを挟む「社長と皇丞が食事しているのが、駅前の焼肉店なんですよ。なので、一緒に乗ってきて、ついでにこの辺で食事して帰ろうと店を選んでいました。この店にしたのは、さっきあなたをこの店の前で見たからです」
駅前の焼肉店といえば、超高級な超有名店。
テレビでも何度も紹介されているし、前総理大臣が好きだと言っていたのも聞いたことがある。お笑い芸人がグランプリを獲った時、賞金でその店に行きたいと言っていたのはつい最近。
さすが……。
「一緒に食事しなかったんですか? すごい高級店ですよね?」
「ええ。ですが、上司とその息子と一緒に食べても、楽しめませんし」
「はぁ……」
随分とあけすけに言われ、それ以上は何も言えない。
「皇丞は食事をせずに帰りたいようでしたが、社長がたまには付き合えと無理やり連れて行きました」
「そうですか」
そう言った意図は読めないが、私のシチューより高級焼き肉の方が正解だと思った。
それよりも気になるのは、俵さんがさっきから皇丞を呼び捨てていること。同期なのは知っているが、それほど親しいとは知らない。
「おう……東雲課長とは親しいんですか?」
俵さんが、クスリと笑う。
こんな風に普通に笑ったのを見たのは初めてだ。
接点がない上に、社内では鉄面皮と呼ばれている。
「呼び方を気にする必要はないですよ。あなたと皇丞の関係は知っています」
「そう……ですよね」
私が社長室に呼ばれた時、俵さんが電話してきて、コーヒーを淹れてくれた。事情を知っているのは当然だ。
「あの、さっきの――」
言いかけた時、ビールが運ばれてきた。
お疲れ様ですと乾杯をして、喉を潤す。
自分で思っていた以上に喉が渇いていたようで、つい一気に半分を飲んでしまった。
すぐにカルビとホルモンが運ばれてきて、俵さんが焼き始める。
私もとトングを持ったが、自分がやると言われてしまった。
手際の良さに、手伝うというより余計な手出しになりそうで、私は素直にトングを置いた。
「ご飯ものはどうです?」
肉を焼いている間、メニューを渡された。
隙がない。
さすが社長秘書。
私はカルビクッパ、俵さんはビビンバを注文する。
あれよあれよと目の前には焼けたお肉とクッパが並び、どうぞと言われるなり口に運んだ。
「美味しい~っ」
思わず声を上げてしまう。
お腹が空いていたのはもちろんだが、ホルモンが柔らかくてプリプリしていて本当に美味しい。
余程テンションが高くておかしかったのだろう。俵さんが目を細めて笑う。
「皇丞に言えば、駅前の店も連れて行ってもらえるだろ?」
「あ、どうでしょう。でも、予約取るのも大変なんですよね? あんまり高いと緊張して味がよくわからない気もするので」
「なるほど」
私は少し身を乗り出して小声で言った。
「このお店でも十分美味しいです。ありがとうございます」
「なるほどな」
そう言うと、俵さんも身を乗り出したから、顔同士がやけに近くなる。
「皇丞なんかやめて、俺にしないか」
「……へっ!?」
「あの男のせいで注目を浴びるのは、これからも続くぞ?」
顔が近いせいで、彼の眼鏡の奥の瞳がよく見える。
とても、真剣には見えない。
急に口調が変わったせいもあるのか。
とにかく、からかわれている。そんな気がした。
「私は――」
「――おいっ! 何やってんだ!」
飛び込んできた声に、私は姿勢を戻して顔を向けた。
「皇丞?」
「何やってんだよ!」
おでこに汗を滲ませて、肩で息をする彼は、私ではなく俵さんに対して掴みかからん勢いで捲し立てる。
「お前っ! 中途半、端なメッセージ送んなよ! ちゃんと、店の名前、まで入れろ!」
はぁ~っと大きく息を吐くと、ドサッと私の横に座り、目の前の水を一気に飲み干す。
駅前から走ってきたの……?
既に少し緩んでいるネクタイを、結び目に指をかけて一気に解く。ワイシャツのボタンも一つ外し、ようやく一息ついたようだ。
「くそっ」
皇丞はソファの背に身体を預け、数回大きく呼吸を繰り返す。
「社長と食事は?」
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