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5.月夜
6
しおりを挟む「いや、冗談じゃないだろ。怖すぎるだろ。ヤる度に色々吸い取られるんだぞ!? 散々搾取された挙句、捨てられたんだぞ!? つーか、なぜあのトラックは何度投げられても壊れない!?」
「それ、私も思った」
「だろ!? マジで意味わかんねー」
「けど、結構お客さん入ってたね?」
「どうせ予告のセックスシーンに釣られた男どもだろ?」
「うわ、サイテー」
「金になるならそれも戦略だ」
皇丞がうんうんと頷く。
一か月前には、皇丞とこんな風に笑ってくだらないお喋りをしている自分を、想像すらしなかった。
もちろん、直との別れも。
いや、一か月前にはもう、彼が何か隠してることは知ってた……。
「この後どうする?」
「あー……」
私がモタモタ食べている間に、皇丞のお皿は空だ。
「特に行きたい場所がなければ、付き合ってくれるか?」
「はい」
店を出て、皇丞は当然のように私の手を握り、エレベーターで数階上のフロアに行く。
「キッチングッズ、欲しいんですか?」
「俺のじゃねーよ。お前の。好きなの選びな」
「え……?」
「皿とかグラスとか、足りないだろ」
皇丞の家には、本当に彼が使う分だけの最低限の食器しかない。
当然と言えば当然なのだが、友達が遊びに来たらどうしていたのだろうと思うほどの少なさ。
それでも、料理ができない私はお弁当やお惣菜を買ってくるだけだから、お皿など使わないのが現実。
だから、グラスとカップが欲しいくらい。
「それなら、ウチのを――」
「――余程気に入ってるなら別だけど、俺としては全部捨ててほしいんだけど?」
「え?」
「どうしたって、天谷を思い出すだろ?」
「……」
私は黙って、店に入った。
雑誌で紹介された便利グッズや、売上げランキングのポップが目に入る。
「あ、可愛い」
四葉の形のフライパンが四つに仕切られていて、一か所一か所がハート形。
これ、目玉焼きがハートになるってこと!?
リンゴの芯抜きなるものには、思わず「へぇ……」と声が漏れる。
折りたためるまな板は、付属のざるをつけるとまな板を斜めにしただけで具がざるに入って水切りもできるらしい。
鍋の端に引っ掛けると、そこに菜箸やお玉を置けるフックがあるのも、初めて知った。
それらのグッズが特集されている雑誌を手に取ってペラペラめくる。
コレ、面白い!
私は雑誌を手に店の奥のレジを目指す。と、腕を引かれて立ち止まる。
「俺は皿やグラスを買えって言ったんだけど?」
険しい表情の皇丞に見下ろされ、ハッとした。
忘れていた。
「それは俺が持ってるから、ほら」
手に持っていた雑誌を抜き取られ、また手を引かれる格好で食器が並ぶ棚に連行される。
「ペアグラス……いいな」
様々な形、大きさのグラスやカップが並ぶ中、皇丞が同じ大きさと形だが色が違うグラスをいくつか眺めている。
彼女とお揃いなんて鬱陶しがりそうなのに……。
って! 私、別に彼女じゃないじゃない!
自分の思考に突っ込みを入れ、勝手に焦って火照った顔を手でパタパタと仰ぐ。
「梓はどの色がいい?」
小さく咳払いして、彼の隣に立つ。
あまり背が高くなく、幅のあるグラス。飲み口から螺旋状に蔓のような模様が入っているのだが、その模様がほんのり色づいている。
赤、黄、紺、緑の四色展開らしい。
「これ、良くないか?」
皇丞が指さしたグラスと並ぶ他のグラスも見てみるが、やけにゴツかったり、凝ったデザインだったりする。
私の部屋の食器は百均か、それよりもう少し高いくらいのものがほとんどで、私自身こだわりがない。
が、こうして並んでいる商品を見ると、皇丞が指さしたグラスが一番シンプルで可愛いと思った。
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