復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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5.月夜

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 結局、美女はより強くなろうとヒーローを組み敷き、精力も筋力も吸い取られたヒーローが不能となり、美女二人は愛想を尽かして強い男を求めて去って行った。

 不能なもやし男となったヒーローが、自分が持ち上げていた真っ赤なトラックに乗って走り去り、エンドロールが始まった。

「確かに、史上最悪と言える三角関係だったな」

 場内が明るくなると、皇丞が言った。

「そうね」と軽く流して立ち上がる。

「いや、マジで」

 余程衝撃的だったのか、皇丞が深いため息をついた。

 ちょうどランチタイムの混雑も収束したであろう時間で、私たちは映画館の階下にあるレストラン街で食事をすることにした。

「梓」

「え?」

 エスカレーター前で肩を抱かれ、足を止める。

 私のすぐ後ろを大柄な男性が小走りで過ぎていく。

 ぶつからないように気遣ってくれたのだと気づき、少しくすぐったい気持ちになった。

「ほら」

 肩の手が離れ、その手が私の手を取る。

 くすぐったさが増す。

 休日とあって、思ったよりも飲食店はまだ混みあっていた。

 皇丞はショッピングモールを出ようとしたのだけれど、私は更に階下のカフェでいいと言って手を引いて歩いた。

 タイミングよく奥の席が空き、待たずに座れた。

 私はホットサンドのセット、皇丞はピラフのセットを注文した。

 水を一口飲んで、私は映画館から持ってきたいくつかの映画のフライヤーをテーブルに置いた。

「今度は何を見ようか」

「これ、面白そうだな。一作目は観た気がするけど、二作目は観てないんだよな」と皇丞が手に取ったのは、シリーズ物のサスペンス。

「梓は? 見た?」

「……うん」

 変な間を作ってしまったのは、直と見た映画だったから。

 二作目の最後に三作目の公開日決定が告知されて、絶対見ようと話しのは一年前。

「天谷と?」

「え?」

「一緒に観た?」

 皇丞がフライヤー越しに私をじっと見る。

「……うん」

「いちいち気にされると、余計に気になるんだけど?」

「ごめん……」

「帰ったら見るか」

「え?」

「二作目」

「うん」

 直の前に付き合っていた人と別れたのは、三年、四年も前だった。だから、直と付き合っている時に、こんな風に元カレを思い出して気まずくなることはなかった。

 同じ会社で、別れてまだ数日。

 皇丞と一緒にいて直を意識することはこれからもあるだろう。



 いちいち気にしてちゃダメ!



「ね? 皇丞はさっきの映画の美女、どっちが好みだった?」

 私は今見たばかりの映画のフライヤーを彼の前に差し出す。

「ウシかワニ……」

「いや、そこじゃなくて」

 私はフライヤーを裏返す。

 表には美女がドレス姿でそれぞれ牛とワニを抱えているのだが、裏面にはヒーローとのベッドシーンや水着姿のカットが載っている。

 ひとりは長い金髪の巨乳美女で、もう一人はブラウンのショートヘアのスレンダー美女。

「目を引くのはウシだけど、どっちかってならワニだな」

 牛は金髪、ワニは茶髪だ。

 美女を抱えている動物で表現しているところを見ると、どちらもあまりお好みではなかったのだろうか。

「セックスん時の演技がうまかった」

「そこ?」

「他に見どころあったか?」

「あったじゃない。派手なアクション」

「だって、三分の一は喧嘩して、三分の一はセックスして、三分の一は意味不明だったぞ?」

 それは確かに、そう。

 美女が喧嘩し、ヒーローが止める、負けた美女がヒーローに跨り、また喧嘩する。

「しかも、アクション映画というより、女の執念の恐ろしさを描いたホラーだったな」

 真顔の皇丞に、私は思わずククッと喉を鳴らして笑った。
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