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3.復讐計画
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しおりを挟む「意味が――」
「――何度断られてもお前を食事に誘ってた理由、気づいてたろ?」
「……」
ドッドッドッと心臓が肋骨にぶつかっているのではないかと思えるほど、大音量で胸も耳も痛い。
いや、髪にキスとか、マンガじゃないんだからっ!
顔が、熱い。
全身、のぼせそうだ。
「木曽根」
イケメン上司の上目遣いから、目を離せない。
「俺の女になれ」
「……っ」
どすっぴんな上に泣いた後のカサついた肌の毛穴まで見えてしまいそうな距離に顔を近づけてくる課長の思惑がなにかは、どんなに否定しても身体が認識して身構える。
「今は、俺を利用してあいつらを見返すことだけ考えてろ」
コーヒーの香りが鼻をくすぐる。
課長の吐息。
嫌だと言えばやめてくれると思う。
言わなくても、そぶりを見せれば離れてくれる。
やめてほしい……?
当たり前だ。
彼は上司だ。
私の好きな男性ではない。
私の好きな男性は――。
そうだ。
私の好きな男は、私じゃない女を抱いた。
私を愛していると言った唇で、他の女の身体に口づけた。
私を愛していると言った唇で、私に別れを告げた――――。
「目を閉じろ。今だけは、誰を思い浮かべてもいいから」
思い浮かべたい人なんていない。
今更、直のキスを懐かしんだりしない。
私はそっと目を閉じた。
そのつもりでも、実際にはぎゅっと閉じたかもしれない。
フッと弾んだ風が唇をかすめ、軽く唇に圧がかかり、ほんの一瞬だけ離れたかと思ったら後頭部をがっちり掴まれ、思わず身体がそれに逆らうように仰け反る。が、そんなものは抵抗のうちに入らず、あっさりと課長の腕の中に引き寄せられた。
同時に、温かくて柔らかな感触に、唇を覆われた。
「ん……っ」
本気だ、と思った。
冗談じゃない。遊びじゃない。
さほど経験のない私でもわかるほど、熱いキス。
ぬるっと潤いと弾力のある柔肉に唇をなぞられ、思わず目を開けた時、直感が確信に変わった。
課長の瞳に自分の姿を見た。
催眠術にでもかかったように目を逸らせない。
その間も課長の温かな舌が私の唇をこじ開けようと、何度もノックする。
けれど、強引ではないその仕草とは裏腹に、彼の瞳は有無を言わさぬ熱を帯びていて、いつの間にか腰に添えられていた課長の手は脇腹を優しくなぞり、私は思わず背を逸らせた。
「ふ……っん」
刺激に耐えようと身体が強張り、それとは逆に思わず気が逸れた唇の隙間を見逃さなかった彼が、チャンスとばかりに舌をねじ込んでくる。
すんなり捕まりたくなくて舌を引っ込めてみるものの、無遠慮に差し込まれた舌に絡め捕られるのに時間はかからない。
直と違う、と思った。
比べるつもりなんてないのに、思ってしまった。
熱くて強引。
私が戸惑っていると気づいているのに、お構いなし。
上顎をじっくりなぞり、追い詰めるようにじわじわ迫り、触れた舌先から大きく包み込むように絡められる。
どちらかのともわからない唾液が口の端から滴る。
彼の手が脇腹から背中、また脇へと、寄り道しながら這い上がってくる。
課長とソファに挟まれて身動きができない私は、与えられる熱に耐えるしかない。
「ん……んっ」
息苦しさに喉を鳴らした時、課長の手が私の胸をかすめ、すぐに離れた。
同時に唇も解放される。
はぁはぁ、と口呼吸を繰り返す私の顎に伝う唾液を舐めとると、ソファに押し付けるように抱きしめられた。
「お前を手放せるとか……」
そう呟いた唇が耳朶を食み、吸う。
「……っ」
課長の腕の中で小さく身震いし、快感をやり過ごす。
「たった今からお前は俺の女だ」
鼓膜を震わす低音に、直とは違う自信に満ちた力強いイントネーションに、私は黙って頷いた。
思いのほか早く力強い彼の鼓動を聞きいていると、唐突にある人を思い出した。
「計画にひとつ付け加えたいんですけど――」
計画なんて言うにはお粗末かもしれない。
だって、こちらからなにか仕掛けるわけじゃない。
課長には考えがあるようだったけれど、教えてくれなかった。
「お前がお前らしくあることが計画遂行につながるからな」
それはつまり、思う通りにしてもいいということだと、私は受け取った。
帰り際、課長が最初の計画を教えてくれた。
それのどこが計画かと抗議しようとした言葉は、彼の唇に塞がれて音にはならなかった。
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