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第三章
95 フレイヤの秘密
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二人はとりあえずガブリエルにバレないようにと場所を近くの喫茶店へと移動した。ミモザはミルクティーを、フレイヤはカフェラテを頼む。フレイヤは気まずそうにカフェラテに砂糖を入れるとかき混ぜ始めた。
ミモザはそんな彼女をじー、と見つめる。フレイヤはその視線から逃れるように目を逸らし続ける。
「………フレイヤ様ってもしかして」
「な、何よ」
嫌そうにたじろぐフレイヤに、ミモザは容赦なく切り込んだ。
「ガブリエル様のこと好きです?」
途端にフレイヤの顔が真っ赤に染まる。
(おお……)
ビンゴである。まさに瓢箪から駒。ありえないと思いつつ適当にジーンに言った言葉が意図せずバチ当たりしていたようだ。
「ダメですよ、フレイヤ様。好きな相手には優しくしないと」
軽い気持ちで言ったミモザの言葉は、
「あいつが悪いのよ!」
というフレイヤの言葉に強く拒絶された。ミモザは口をへの字に曲げて「ガブリエル様が悪いって……」と訊ねる。
「どういうことです?」
「あ、あいつが悪いのよ、わたくしのことを忘れて、あんな女にうつつを抜かして……っ」
「忘れて、ですか?」
「………っ」
フレイヤは顔を真っ赤に染めたまま黙り込む。
ミモザは即座に姿勢を正し、テーブルに肘をついて手を組むと
「詳しく聞きましょうか」
身を乗り出した。
他人の恋バナほど楽しいものはないのだ。
「昔はわたくしがあの立場にいたのよ……」
渋々というようにフレイヤは話し出した。
「あの立場?」
「セレーナ嬢よ!」
イライラとフレイヤは告げる。
「わたくしは貴族よ。幼い頃は忙しい両親の代理として孤児院への訪問や寄進も行なっていたの。その時に子ども達へ手作りのお菓子をあげたりもしていたわ」
ミモザは思い出す。セレーナ嬢も確かにお菓子を配っていた。
「わ、わたくしは、ガブリエルがまだあそこの孤児院に所属していた頃に、よく寄進に行っていたのよ」
ミモザは驚きに目を見張った。
つまり、フレイヤの話をまとめるとこうだ。
幼き日のフレイヤとガブリエルは孤児院で貴族と孤児という立場で出会い、仲良くなった。
しかしフレイヤも学校に通い始めたりなんだりで忙しくなり、孤児院から足が遠のくことになってしまった。それを寂しがるフレイヤに、ガブリエルは約束をしたらしい。
騎士として再会しようと。
フレイヤの家は代々騎士の家系だ。フレイヤもいずれは騎士にならねばならなかった。そのために忙しくしていたのだ。それを知ってガブリエルがそう提案してくれたのだという。
しかしいざ騎士候補となり、試練を受けるタイミングで再会したガブリエルはーー、
フレイヤのことなど綺麗さっぱり忘れていたという。
「最初はまだ正式に騎士になってないから知らないふりをしているのかと思ったのよ」
そこまで言ってフレイヤはどんっとテーブルに拳を叩きつける。その鈍い音にテーブルが壊れやしないかとミモザはひやひやした。
「けど! あの男は! 精霊騎士になった後も知らんふりを決め込んで!! 本気で忘れてるのよ!!」
そのまま勢いよくテーブルに突っ伏すとフレイヤはわめいた。
「わたくしの純情は弄ばれたのよぉっ!」
「……フレイヤ様、酔ってます?」
一応顔を近づけて匂いを嗅いでみるがアルコールの匂いはしなかった。
おいおいと泣くフレイヤをしばし眺める。
「おかしいですね、確かセレーナ嬢はレオン様がお好きだったはずなのに」
確かミモザのことを閉じ込めた令嬢とレオンハルトを取り合って争っていたはずだ。
「知らないわよ! レオンハルトに相手にされなさすぎて乗り換えたんじゃないの!?」
ミモザの疑問にフレイヤは突っ伏したまま応じた。しかしやがてむっくりと起き上がる。
そうして頬を染めて恋する乙女の表情でほぅとため息をつくと、
「でもそれも致し方ないわ。仏頂面で愛想なしなレオンハルトよりもガブリエルのほうがずっと魅力的で格好いいもの」
とつぶやいた。
「………」
それは意見が分かれるところだろう。
ーーと思ったが賢明なミモザは黙っておいた。余計なことを言うと面倒臭いことになる気配がしたからである。
「じゃあ、探りに行きましょうか」
ミモザはちょっと考えてから提案する。そそのかすように顔をぐっと近づけてフレイヤに囁いた。
「フレイヤ様、ご一緒にいかがですか?」
「う」
その空気に呑まれたように彼女はうめく。ミモザは安心させるように優しく微笑みかけた。詐欺ではありませんよ、というアピールだ。
「このまま悶々とされていても良いことはありませんよ」
「そ、それは……」
そうだけど、と口の中でごにょごにょと言う彼女に、
(あともうひと押しだ)
ミモザは見えないようににやりと笑う。
「フレイヤ様」
お得な情報を貴方だけにお届けする気持ちでミモザはその耳元でひそひそと囁いた。
「今なら、一人ではなく僕と一緒にきゃっきゃっしながら探れますよ」
フレイヤは動かない。表情には出さないが彼女の中ではぐらぐらと天秤が揺れているようだ。ミモザはふっとニヒルに微笑んで、拳を握ると声を張った。
「更になんと! ダメだった時には慰めてあげるというおまけつき!」
ぐぅ、とフレイヤはうめく。彼女はしばらく葛藤している様子だったが、やがて、
「う、うるさいわよ! 行くわよ、行けばいいんでしょ!」
白旗を上げた。ミモザはガッツポーズをとる。
(道連れ一名様ご案内!)
ミモザも一人で調査をするのはちょっと飽きていたのだ。
ミモザはそんな彼女をじー、と見つめる。フレイヤはその視線から逃れるように目を逸らし続ける。
「………フレイヤ様ってもしかして」
「な、何よ」
嫌そうにたじろぐフレイヤに、ミモザは容赦なく切り込んだ。
「ガブリエル様のこと好きです?」
途端にフレイヤの顔が真っ赤に染まる。
(おお……)
ビンゴである。まさに瓢箪から駒。ありえないと思いつつ適当にジーンに言った言葉が意図せずバチ当たりしていたようだ。
「ダメですよ、フレイヤ様。好きな相手には優しくしないと」
軽い気持ちで言ったミモザの言葉は、
「あいつが悪いのよ!」
というフレイヤの言葉に強く拒絶された。ミモザは口をへの字に曲げて「ガブリエル様が悪いって……」と訊ねる。
「どういうことです?」
「あ、あいつが悪いのよ、わたくしのことを忘れて、あんな女にうつつを抜かして……っ」
「忘れて、ですか?」
「………っ」
フレイヤは顔を真っ赤に染めたまま黙り込む。
ミモザは即座に姿勢を正し、テーブルに肘をついて手を組むと
「詳しく聞きましょうか」
身を乗り出した。
他人の恋バナほど楽しいものはないのだ。
「昔はわたくしがあの立場にいたのよ……」
渋々というようにフレイヤは話し出した。
「あの立場?」
「セレーナ嬢よ!」
イライラとフレイヤは告げる。
「わたくしは貴族よ。幼い頃は忙しい両親の代理として孤児院への訪問や寄進も行なっていたの。その時に子ども達へ手作りのお菓子をあげたりもしていたわ」
ミモザは思い出す。セレーナ嬢も確かにお菓子を配っていた。
「わ、わたくしは、ガブリエルがまだあそこの孤児院に所属していた頃に、よく寄進に行っていたのよ」
ミモザは驚きに目を見張った。
つまり、フレイヤの話をまとめるとこうだ。
幼き日のフレイヤとガブリエルは孤児院で貴族と孤児という立場で出会い、仲良くなった。
しかしフレイヤも学校に通い始めたりなんだりで忙しくなり、孤児院から足が遠のくことになってしまった。それを寂しがるフレイヤに、ガブリエルは約束をしたらしい。
騎士として再会しようと。
フレイヤの家は代々騎士の家系だ。フレイヤもいずれは騎士にならねばならなかった。そのために忙しくしていたのだ。それを知ってガブリエルがそう提案してくれたのだという。
しかしいざ騎士候補となり、試練を受けるタイミングで再会したガブリエルはーー、
フレイヤのことなど綺麗さっぱり忘れていたという。
「最初はまだ正式に騎士になってないから知らないふりをしているのかと思ったのよ」
そこまで言ってフレイヤはどんっとテーブルに拳を叩きつける。その鈍い音にテーブルが壊れやしないかとミモザはひやひやした。
「けど! あの男は! 精霊騎士になった後も知らんふりを決め込んで!! 本気で忘れてるのよ!!」
そのまま勢いよくテーブルに突っ伏すとフレイヤはわめいた。
「わたくしの純情は弄ばれたのよぉっ!」
「……フレイヤ様、酔ってます?」
一応顔を近づけて匂いを嗅いでみるがアルコールの匂いはしなかった。
おいおいと泣くフレイヤをしばし眺める。
「おかしいですね、確かセレーナ嬢はレオン様がお好きだったはずなのに」
確かミモザのことを閉じ込めた令嬢とレオンハルトを取り合って争っていたはずだ。
「知らないわよ! レオンハルトに相手にされなさすぎて乗り換えたんじゃないの!?」
ミモザの疑問にフレイヤは突っ伏したまま応じた。しかしやがてむっくりと起き上がる。
そうして頬を染めて恋する乙女の表情でほぅとため息をつくと、
「でもそれも致し方ないわ。仏頂面で愛想なしなレオンハルトよりもガブリエルのほうがずっと魅力的で格好いいもの」
とつぶやいた。
「………」
それは意見が分かれるところだろう。
ーーと思ったが賢明なミモザは黙っておいた。余計なことを言うと面倒臭いことになる気配がしたからである。
「じゃあ、探りに行きましょうか」
ミモザはちょっと考えてから提案する。そそのかすように顔をぐっと近づけてフレイヤに囁いた。
「フレイヤ様、ご一緒にいかがですか?」
「う」
その空気に呑まれたように彼女はうめく。ミモザは安心させるように優しく微笑みかけた。詐欺ではありませんよ、というアピールだ。
「このまま悶々とされていても良いことはありませんよ」
「そ、それは……」
そうだけど、と口の中でごにょごにょと言う彼女に、
(あともうひと押しだ)
ミモザは見えないようににやりと笑う。
「フレイヤ様」
お得な情報を貴方だけにお届けする気持ちでミモザはその耳元でひそひそと囁いた。
「今なら、一人ではなく僕と一緒にきゃっきゃっしながら探れますよ」
フレイヤは動かない。表情には出さないが彼女の中ではぐらぐらと天秤が揺れているようだ。ミモザはふっとニヒルに微笑んで、拳を握ると声を張った。
「更になんと! ダメだった時には慰めてあげるというおまけつき!」
ぐぅ、とフレイヤはうめく。彼女はしばらく葛藤している様子だったが、やがて、
「う、うるさいわよ! 行くわよ、行けばいいんでしょ!」
白旗を上げた。ミモザはガッツポーズをとる。
(道連れ一名様ご案内!)
ミモザも一人で調査をするのはちょっと飽きていたのだ。
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