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6ジュリア様 出陣!
逆襲
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国王はやれやれ、とため息をつく。今回の取り決めは少々乱暴だったが、国としては必要なことだった。
この失態の責任は誰かが背負わなくてはならない。それを誰が担うか。
(少々惜しかったな)
ルディ・レナードのことだ。彼は本当に優秀な剣士だった。礼儀正しく忠義心があり、そして誰よりも強い。しかし平民出身で上との繋がりが薄く、切り捨てるのが一番容易な人物でもあった。
広報課に指示を出さなくてはならない。なるべくルディ一人の失態であると誇張した記事を各新聞社に情報提供し、公式発表の内容もあからさまではないもののそうほのめかす、説得力のある文章を作り上げなくては。
自らの職場に向かおうと歩いていると「へ、陛下!」と騒々しい男が飛び込んできた。
それに国王はわずかに眉を顰める。
「一体なんだ、騒がしい」
無礼な振る舞いだったが、彼は腹心の部下であった。普段ならばこのような不作法は行わない。彼は顔面をびっしょりと汗で濡らしながらほうほうのていで言葉を紡いだ。
「ま、窓の外を、城下を見てください」
「城下?」
一体なんだ、とのんびりと訝しがることができたのは、そこまでだった。
大きな怒号が響いてきたからだ。
驚いて覗きこんだ窓の外の光景をみて、絶句した。
そこには蠢く民衆の姿があった。うぞうぞと虫のようにさんざめくその集合体はあまりにも数が多すぎて最初は人の姿だとは信じられなかった。
道という道が人に埋め尽くされている。そこにいる人々は皆、肩を怒らせて何かを叫んでいた。
「虚偽の罪を作り上げて責任をなすりつける国家を許すなー!」
「許すなー!」
「英雄であるルディ・レナードを救えー!」
「救えー!」
先頭にいる何人かが音頭をとり、それに背後の人々が追従して叫ぶ。徐々に統率が取れ始めたそれが、デモであることにようやく国王は気づいた。
よく見ると、人々はでかい看板やらはちまき、旗を抱えている。
そこには「英雄を殺すな!」の文字がでかでかと躍っていた。
「な、なんだ、これは……」
「大変です! 門の所にまで詰めかけてきていてっ、城内になだれ込んで来ています!」
悲鳴を上げる部下に、国王は周囲を見渡す。そこに一人の部下が冷静に「陛下!」と何かを持って近づいてきた。
「これが、城門の外に置かれていました。他の場所でもいくつか同様のものが見つかっています」
「……っ、これは」
やられた、と国王は全てを悟る。
部下が持っていたのは、スピーカーであった。
「おーほっほっほっほっほっ!」
ジュリアは声を高らかに上げて笑う。
そうして自分が手にしているわずかに折れた扇子から何かを取り出して見せた。
それは小型のマイクだった。これは街中に設置したスピーカーへと繋がっている。
実はジュリアは裁判の際の会話をこのマイクとスピーカーを使い、全てリアルタイムで国中に放送していたのだ。
ジュリアが懇意にしている主要な取引先はもちろん、ゲリラ的に街中にもスピーカーは潜ませていた。
狙い通りの展開に高笑いが止まらない。
ルディに直接助けて貰った者や、この裁判をおかしいと思う者、ジュリアがあらかじめ仕込みをしていたもの達などが次々と宮殿へと詰めかけ、王宮の処理はパンク寸前だった。
「大変お楽しみですね、お嬢様」
「ええ、とっても楽しいわ」
「とても素晴らしい策です。さすがはお嬢様」
「当然よ」
ジュリアは無理矢理広げていた壊れた扇を投げ捨てる。それをバルトがうやうやしく受け取った。
「これがジュリアだもの」
にやり、と微笑む顔はどこまでも不敵だった。
このデモは数週間にわたって行われ、その間にいろいろな物流やら業務やらが停滞する自体にまで陥った。
そうして王より正式な発表が行われることになる。
ルディ・レナードは無罪、処刑は取りやめ。
その一報に歓声が湧き、国は数日間お祭り騒ぎになった。
この失態の責任は誰かが背負わなくてはならない。それを誰が担うか。
(少々惜しかったな)
ルディ・レナードのことだ。彼は本当に優秀な剣士だった。礼儀正しく忠義心があり、そして誰よりも強い。しかし平民出身で上との繋がりが薄く、切り捨てるのが一番容易な人物でもあった。
広報課に指示を出さなくてはならない。なるべくルディ一人の失態であると誇張した記事を各新聞社に情報提供し、公式発表の内容もあからさまではないもののそうほのめかす、説得力のある文章を作り上げなくては。
自らの職場に向かおうと歩いていると「へ、陛下!」と騒々しい男が飛び込んできた。
それに国王はわずかに眉を顰める。
「一体なんだ、騒がしい」
無礼な振る舞いだったが、彼は腹心の部下であった。普段ならばこのような不作法は行わない。彼は顔面をびっしょりと汗で濡らしながらほうほうのていで言葉を紡いだ。
「ま、窓の外を、城下を見てください」
「城下?」
一体なんだ、とのんびりと訝しがることができたのは、そこまでだった。
大きな怒号が響いてきたからだ。
驚いて覗きこんだ窓の外の光景をみて、絶句した。
そこには蠢く民衆の姿があった。うぞうぞと虫のようにさんざめくその集合体はあまりにも数が多すぎて最初は人の姿だとは信じられなかった。
道という道が人に埋め尽くされている。そこにいる人々は皆、肩を怒らせて何かを叫んでいた。
「虚偽の罪を作り上げて責任をなすりつける国家を許すなー!」
「許すなー!」
「英雄であるルディ・レナードを救えー!」
「救えー!」
先頭にいる何人かが音頭をとり、それに背後の人々が追従して叫ぶ。徐々に統率が取れ始めたそれが、デモであることにようやく国王は気づいた。
よく見ると、人々はでかい看板やらはちまき、旗を抱えている。
そこには「英雄を殺すな!」の文字がでかでかと躍っていた。
「な、なんだ、これは……」
「大変です! 門の所にまで詰めかけてきていてっ、城内になだれ込んで来ています!」
悲鳴を上げる部下に、国王は周囲を見渡す。そこに一人の部下が冷静に「陛下!」と何かを持って近づいてきた。
「これが、城門の外に置かれていました。他の場所でもいくつか同様のものが見つかっています」
「……っ、これは」
やられた、と国王は全てを悟る。
部下が持っていたのは、スピーカーであった。
「おーほっほっほっほっほっ!」
ジュリアは声を高らかに上げて笑う。
そうして自分が手にしているわずかに折れた扇子から何かを取り出して見せた。
それは小型のマイクだった。これは街中に設置したスピーカーへと繋がっている。
実はジュリアは裁判の際の会話をこのマイクとスピーカーを使い、全てリアルタイムで国中に放送していたのだ。
ジュリアが懇意にしている主要な取引先はもちろん、ゲリラ的に街中にもスピーカーは潜ませていた。
狙い通りの展開に高笑いが止まらない。
ルディに直接助けて貰った者や、この裁判をおかしいと思う者、ジュリアがあらかじめ仕込みをしていたもの達などが次々と宮殿へと詰めかけ、王宮の処理はパンク寸前だった。
「大変お楽しみですね、お嬢様」
「ええ、とっても楽しいわ」
「とても素晴らしい策です。さすがはお嬢様」
「当然よ」
ジュリアは無理矢理広げていた壊れた扇を投げ捨てる。それをバルトがうやうやしく受け取った。
「これがジュリアだもの」
にやり、と微笑む顔はどこまでも不敵だった。
このデモは数週間にわたって行われ、その間にいろいろな物流やら業務やらが停滞する自体にまで陥った。
そうして王より正式な発表が行われることになる。
ルディ・レナードは無罪、処刑は取りやめ。
その一報に歓声が湧き、国は数日間お祭り騒ぎになった。
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