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1-7.仲直り
6 *
しおりを挟む「舐めていい?」
自然と飛び出た言葉に、王輝は驚いたし、遼はもっと驚いた。この前、王輝がフェラした後に苦しそうにしていたのは遼の記憶に新しい。王輝の表情を伺いながら遼は尋ねた。
「ほんとに大丈夫?」
「わかんないけど、多分、大丈夫」
遼とのあのセックスで、王輝の中では一つ踏ん切りがついた感覚があった。過去の忌まわしい出来事が遼によって塗り替えられた気がして、怖さはあるものの、大丈夫という気持ちのほうが強い。
「駄目だったらすぐにやめさせるから」
遼は王輝の希望通りにさせることにした。泡がついた状態では舐めさせられないため、シャワーで泡を流す。
王輝は遼の前に跪いて、昂った遼に手に添え、ゆっくりと咥えた。口を精一杯開けて、遼自身を迎え入れる。ボディーソープの華やかな匂いに、雄臭さが混ざる。亀頭が喉の奥に当たるまで顔を進めた。そのまま動かずに、口内で遼の脈打つ感覚に浸る。唾液を絡めつつ、歯を立てないように、口を窄めながら顔を引いた。
「…っ、あ……」
王輝の口内の熱さに、遼はすぐにでも達してしまいそうだった。我慢するように深呼吸する。口内の感触をずっと味わっていたいくらいだった。熱さと柔らかさに腰を突き動かしたくなったが、ひどいことはできない。眉根を寄せながらも、蕩けた顔で遼自身を咥える王輝を見て、遼は大丈夫そうだと判断した。
王輝が顔を前後に動かすと、じゅぽじゅぽと卑猥な音が鳴る。舌を竿に絡め、裏筋を刺激すると、遼は気持ち良さそうに息を吐いた。先走りの味が口内に広がる。過去の記憶がちらつくものの、身体が動かなくなるほどではない。大丈夫と自ら言い聞かせて、フェラを続けた。
「今ヶ瀬、でるからっ…離せ…」
せりあがってくる射精感に遼は王輝の頭を離そうとするが、王輝はぐぽっと喉の奥まで咥え、思いっきり吸い上げた。慌てて、遼は腰を引くが我慢できず射精した。
脱力感に襲われながら王輝の様子を確認しようと、遼は視線を下げる。そこには放心状態の王輝がいて、顔に白濁が散っていた。いわゆる顔射で、遼は状況がようやく読みこめて、わたわたと焦ってしまう。
「ごめん、顔に…、目に入ったりしてない?大丈夫?今ヶ瀬?」
慌てる遼を見て、王輝は笑いがこみあげてきた。我慢できずに吹きだしてしまう。顔射されたことは驚いたが、ハプニングだったので、遼は悪くない。おもしろさのほうが勝っていた。それよりも過去のことがフラッシュバックせず、安堵したことのほうが大きかった。
「え、なんで笑って…?」
「だって…、っはは……」
王輝が笑っている理由がわからず、遼は戸惑う。しかしけらけらと笑う王輝を見て、遼もつられて笑った。
「あー気持ちいいー」
湯舟に入った王輝は、自然と声がもれた。
二人はシャワーで泡を流した後、湯舟に浸かっていた。向かい合って座るが、広めの浴槽でも男二人で入ると当たり前に狭い。ざばざばとお湯があふれた。先程の行為も相まって、身体は十分暖まり、二人とも顔が火照っている。
「最近もシャワーで済ませてるのか?」
気持ち良さそうに顔を弛緩させてる王輝に、遼は尋ねた。
「うん、風呂沸かすのめんどくさくて」
「ちゃんと入れよ。疲れが取れないぞ」
「俺、風呂は嫌いだけど温泉は好きなんだよね」
「なんだそれ」
よくわからない王輝の理論に遼はつっこんだ。
「だって広い風呂って気持ちいいじゃん。温泉だったら何回でも入っちゃう。それに旅館のご飯も好きだし、畳の部屋でごろごろするのが楽しいし、布団で雑魚寝するのも好きだし」
王輝は数えるように指を折り曲げ「最近温泉行ってないな」と残念そうに付け加えた。
「じゃあ今度温泉行く?」
言ってからすぐに、遼は口に手を当てた。無意識に誘っていたことを自分でも驚く。以前王輝を温泉に連れて行ってやりたいと思っていたせいか、思わず口から言葉が飛び出ていた。
遼の提案に王輝はパチパチとまばたきをし、急にお湯に顔をつけた。ぶくぶくと空気の泡が水面に浮かんでは消える。顔がにやけるのを隠すためだったが、湯が熱く息が苦しくて、すぐに顔をあげた。
「……考えとく」
濡れた顔を拭いながら、つっけんどんに言った王輝だが、遼は王輝の表情の変化に気づいていた。今度は遼がにやけてしまう。あとで近場の温泉地を探そうと遼は考えた。
「熱い熱い。早く出ろよ、演技教えてやるから」
勢いよく立ちあがった王輝は、先に浴室から出ていこうとする。恥ずかしくなって逃げたいのもあったが、遼の演技のことも気になっていた。確か遼は演技が苦手だ。王輝は自分が俳優として仕事をしている以上、おこがましいが少しでも力になれたらと思った。
「え、いいの?」
「俺につまらない演技を見届けさせるなよ」
「正直助かる。ありがとう」
「お礼言うのはまだ早いから。あ、無事に撮影終わったらセックスしようぜ」
王輝はそう言い残し、先に浴室から出た。幾分か涼しい脱衣室でほっと一息つく。遼が用意してくれていたタオルで、身体を拭く。洗面台の鏡に映る頬が赤みを帯びているのは、のぼせたせいにしておく。諏訪が撮る遼はどんな表情を見せるのだろう。まったく想像がつかず、今から完成が楽しみになった。それに王輝には温泉というもう一つの楽しみもできた。この前のライブのようにならないために、スケジュールは必ず空けると決めた。
浴室に一人残された遼は、浴槽の淵に頭を置き、天井を見つめた。湯気が肌に貼りつく。逃げずにやりきるなんて啖呵を切ったものの、不安な気持ちのほうが大きかった。王輝に演技を教えてもらえるのは本当に助かるし、王輝から提案してくれたことが嬉しかった。王輝と温泉に行くという楽しみができたが、今はショートムービーに集中しなければならない。自らの頬を叩き、遼は気合いを入れ直した。
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