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第3章 玲は冷に非ず
第2話 必要な事
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同僚二人が部屋を見にきた翌日の日曜日、健斗と玲は防音部屋にて反省会のような打ち合わせをしていた。
「ごめんなさい。ケーブルにテープを貼っていた事を忘れていました」
「いえいえ! 俺もよく見て置かなかったのが悪かったので!」
二人には仕事用のチャット以外に連絡を取る手段が無いため、玲が様子を聞くためわざわざ家まで来ていたのである。そして玲の小さな癖によってバレていた恐れがあったと知り、今の謝罪に至る。
「このような機会がまたあるかもしれません、テープは外しておきましょうか」
「いえ、その必要はありません!」
「えっ?」
そう言って健斗は見てください、と他のケーブル達を玲に見せる。
「家中のややこしくなりそうなケーブル類に全てテープを付けました。これで違和感は無くなったはずです」
「……そのようですね」
「そして明日、会社のデスクも同じようにします! これでもう安心ですよ!」
健斗は得意げに胸を張る。そんな様子を見た玲は、そうですねと頷いた後に少しだけ眉が八の字になる。
「何だか、申し訳ないですね。私の都合なのにそこまでしてもらってしまっているなんて……」
「いえいえ! これも泉さんとの約束を守るためには必要な事ですから!」
「……ありがとう」
ポツリと呟いた玲の感謝の声は、健斗の耳にしっかりと届いた。それだけで彼の行動は全て報われたように思えて嬉しくなっていた。そこに玲は軽く質問を投げた。
「……ちなみに、このケーブルは何でしょうか?」
「え? えーと……しまった。勢いで全部に同じテープを付けちゃったから、どれがどれだか……」
「そ、それじゃ意味、無いじゃ……ない……ふふっ!」
お腹と口元に手を当てて少し屈んで震え始めた。どうしたのかと健斗が近寄ると、口元に当てていた手を健斗の肩に置き、目をくしゃっとさせながら今までにない笑い顔を見せた。
「い、泉さん……?」
「もう、笑わせないで……っ」
「!!!」
脳が焼かれる、とは今の彼に起こっている状態の事を言うのだろうか。全身が沸き立つような、全ての悩みが吹き飛ばされるような刺激に健斗は一瞬で胸が一杯になった。それほど彼女の笑った顔は彼にとって貴重で尊いものだったのだろう。
そのまま数分間が経ち、二人とも落ち着いてから話を再開した。
「ふぅ……テープにマジックで書いていけば間違えないと思いますよ。私も手伝いますから、手分けして取り掛かりましょう」
「え」
「せっかくここまでしてくれたのですから、ちゃんと実用的なものにしないと勿体ないでしょう?」
一息ついた玲の口調は戻ったが、表情は口角がほんの少し上がったままで穏やかさも残っている。自分の鞄からマジックペンを取り出す玲を、健斗は止めようとする。
「でも、俺の家の事で手伝ってもらうというのは……」
「私よりも先にここまでしてくれたのは何処の何方ですか?」
「それは、必要な事だと思ったので……」
「なら、今からすることも必要な事です」
「……はい、お願いいたします」
「ふふっ、よろしい」
その後二人は、ケーブルのチェックを終えた後にコーヒーを一緒に飲んで解散したのだった。
「ごめんなさい。ケーブルにテープを貼っていた事を忘れていました」
「いえいえ! 俺もよく見て置かなかったのが悪かったので!」
二人には仕事用のチャット以外に連絡を取る手段が無いため、玲が様子を聞くためわざわざ家まで来ていたのである。そして玲の小さな癖によってバレていた恐れがあったと知り、今の謝罪に至る。
「このような機会がまたあるかもしれません、テープは外しておきましょうか」
「いえ、その必要はありません!」
「えっ?」
そう言って健斗は見てください、と他のケーブル達を玲に見せる。
「家中のややこしくなりそうなケーブル類に全てテープを付けました。これで違和感は無くなったはずです」
「……そのようですね」
「そして明日、会社のデスクも同じようにします! これでもう安心ですよ!」
健斗は得意げに胸を張る。そんな様子を見た玲は、そうですねと頷いた後に少しだけ眉が八の字になる。
「何だか、申し訳ないですね。私の都合なのにそこまでしてもらってしまっているなんて……」
「いえいえ! これも泉さんとの約束を守るためには必要な事ですから!」
「……ありがとう」
ポツリと呟いた玲の感謝の声は、健斗の耳にしっかりと届いた。それだけで彼の行動は全て報われたように思えて嬉しくなっていた。そこに玲は軽く質問を投げた。
「……ちなみに、このケーブルは何でしょうか?」
「え? えーと……しまった。勢いで全部に同じテープを付けちゃったから、どれがどれだか……」
「そ、それじゃ意味、無いじゃ……ない……ふふっ!」
お腹と口元に手を当てて少し屈んで震え始めた。どうしたのかと健斗が近寄ると、口元に当てていた手を健斗の肩に置き、目をくしゃっとさせながら今までにない笑い顔を見せた。
「い、泉さん……?」
「もう、笑わせないで……っ」
「!!!」
脳が焼かれる、とは今の彼に起こっている状態の事を言うのだろうか。全身が沸き立つような、全ての悩みが吹き飛ばされるような刺激に健斗は一瞬で胸が一杯になった。それほど彼女の笑った顔は彼にとって貴重で尊いものだったのだろう。
そのまま数分間が経ち、二人とも落ち着いてから話を再開した。
「ふぅ……テープにマジックで書いていけば間違えないと思いますよ。私も手伝いますから、手分けして取り掛かりましょう」
「え」
「せっかくここまでしてくれたのですから、ちゃんと実用的なものにしないと勿体ないでしょう?」
一息ついた玲の口調は戻ったが、表情は口角がほんの少し上がったままで穏やかさも残っている。自分の鞄からマジックペンを取り出す玲を、健斗は止めようとする。
「でも、俺の家の事で手伝ってもらうというのは……」
「私よりも先にここまでしてくれたのは何処の何方ですか?」
「それは、必要な事だと思ったので……」
「なら、今からすることも必要な事です」
「……はい、お願いいたします」
「ふふっ、よろしい」
その後二人は、ケーブルのチェックを終えた後にコーヒーを一緒に飲んで解散したのだった。
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