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15章
達観した王子と種まきマシーン
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状況がわかっていない赤獄龍への説明はインプ達がやってくれるとのことで、私達はグレンの元住処である川沿いの洞穴前に移動してきた。
私がグレンの記憶の中でおじいさんと小さいグレンに会った場所にほど近い。
でも記憶とは違い、周りの森は枯れ木になり、川は兄者が言っていた通り干上がっていて水は一滴も流れていなかった。
もうとっくにお昼はすぎている。朝ご飯以降食べていない私達はおなかがペコペコだ。
〈セナ! 肉! 肉の鍋! 豚丼でもいいぞ!〉
「えぇ……私はジュードさんの安心するコンソメスープがいい」
〈む! ガルドも肉がいいだろう!?〉
「そこで俺に振るのかよ……まぁ、今日は緊張しまくってたから肉だとありがたいな」
「……両方食べたい」
「そうだねー。そうしよー!」
コルトさんの鶴の一声で両方作ることが決定。
さらにグレンは串焼きも食べたいらしく、肉と串を所望された。
作り終わったものをみんなに取りにきてもらう。
アデトア君は白米は嫌だろうから豚丼ならぬ豚皿とパンだ。
「オレのは深皿じゃないのか?」
「あー、えーっと、みんなのはシラコメなんだよね」
「シラコメ!? ……ってなんだ?」
驚いたくせに知らんのかーい! まあ、王族だしね。見たことないのかもしれない。
聞いていたジュードさんがズコッと反応してくれたことに拍手を送りたい。
「家畜のエサとして売られているやつだよ」
「そういえば本に載っていた気がするな……それを、食べるのか?」
「セナっちが教えてくれたんだけど、炊く? と美味しいんだよー。食べてみるー?」
「食べる」
「あ、食べるんだ」
「なんだ? オレが食べてはダメなのか?」
「いや、嫌じゃないのかなって思って」
「ふっ。セナと会ってから今までの常識は木っ端微塵だぞ? セナの異常さは骨身に沁みた。一生分驚き尽くした気分だ。今さらだな。それにセナ達が美味いと言うなら食べてみたい」
「……異常って失礼じゃない?」
私自身はごく普通の一般人だ。パパ達やおばあちゃんが神様ではあるけど、アデトア君は知らないハズ。
まぁ……確かに、生首でインプが現れたり、古代龍の里に転移させられたりしたし、そう思うのも無理はない……のかな? 私がやったワケじゃないんだけど……ガルドさんが頷いているのが解せぬ。
ジュードさんが笑いながらよそった豚丼をアデトア君に渡す。
「まあまあ。はい、殿下のはコレね」
「不思議な香りだが美味しそうだ」
〈セナ!〉
「はいはい。では、いただきま……ん?」
いざ食べようとしたとき、それは突然やってきた。
一瞬空が暗くなったと思ったら、ドスン! ドスン! ドスン! と振動が。
――肉! 肉の匂いだ!――
――寄越せ!――
――くっ……結界だと!? 人族の張った結界など壊してくれるわ!――
インプに言われて結界を張ってたけど、正解だったね。
私達が里に入ったときに現れた三匹のドラゴンが結界を破壊しようと攻撃を繰り返している。
残念だけど、それパパ達からもらった結界石。そう簡単に壊れることはないんだよね。
ドラゴン達の火炎ブレスで視界が赤く染まっているし、声も攻撃音も騒がしい。
そのため、プルトンに頼んで遮音効果付きの黒い結界を内側に張ってもらい、明るさ確保のために【ライト】をいくつか浮かべる。
「おい、あれは無視して大丈夫なのか?」
「大丈夫だよー。セナっちの結界石は特別だから。ねー?」
「うん! さ、冷めないうちにご飯食べよ。いただきます!」
私に合わせてみんながいただきますを合唱し、食べ始めた。
アデトア君はキョロキョロとしていたものの、みんなが気にせず食べる姿を見て、豚丼に手を付けた。
「な、なんだこの美味しさは……」
〈当たり前だ! セナのご飯は全部美味いんだからな! ありがたく食え。セナ、おかわり!〉
「もう? ちゃんと噛んでる?」
〈うむ! 早く!〉
「ちっとは落ち着いて食えよ。ジュード、俺もおかわり」
そう言うガルドさんも充分早いと思うんだけど……私まだ三口しか食べてないよ?
ガツガツと食べるみんなにアデトア君は「勢いがすごいな……」と引き気味だ。そう言っていた彼も四杯以上食べていたけどね!
本当にこの世界の人って大食いだよね。稼ぎやすいからいいけど、日本だったらエンゲル係数が高すぎて家計は火の車どころかマイナス……飲食店のメニューからは食べ放題がなくなるに違いない。
身も心も温まる食事が終わったころにはあの三匹のドラゴンはいなくなっていた。
食後はまったりタイム。
ゆっくりすればいいのに、アデトア君はガルドさん達に師事を頼んで剣の打ち合いをしている。
アデトア君いわく、「悲観するのはやめた。オレも強くなりたい」んだそう。
グレンをチラッと見ていたから自分の境遇と比べたのかもしれないし、ジルの真面目さに影響されたのかもしれない。
なんにしても、前に向きになったことは素晴らしい。
一時間ほどでインプから念話が届いたため、私達は再び広場に向かった。
そこには火山のドラゴンはおらず、代わりにあの三匹のドラゴンがドラゴンのまま……何故か折り重なって倒れていた。
「イッヒッヒ。顔色もよくなりましたね。休憩できたようで何よりです。あぁ、あれらは気にしないでください。格の違いを身をもって体験しただけですから。イーッヒッヒ」
私達の視線でわかったのか、インプが説明してくれた。
隣で赤獄龍が得意気に胸を張っているから、格を見せつけたのはこの人だろう。
「何故人嫌いが浸透してるのかもわかりましたよ」
「おお! なんで?」
「イッヒッヒ。それはこのバカのせいでした。昔むかし……」
インプは昔話を読み聞かせるような口調で話始めた。
それはとある一匹のドラゴン――赤獄龍の話だった。
ただ、ものすごーく長くて、何度か意識が飛びそうになってしまった。
「つまり、大昔に人々の戦争が原因で夫婦共々ケガをして、お母さんドラゴンはグレンを命がけで産んだ。で、神の力を借りて生まれたてのグレンを安全な時代に送った。その後、己の一族を守るために全身全霊をかけてこの島全体に結界を張った……ってこと?」
「イーッヒッヒ。大まかその通りです。これが人族を嫌っていた影響が残った……というのが真相のようですね」
〈正々堂々と戦わず、狡獪な戦い方をする人族が嫌いなだけで、人族全てが嫌いなわけではないっ!〉
「目覚めてすぐにセナ様に襲いかかったやつが何言ってるんですか……」
呆れた様子でインプが呟いた言葉に思わず頷いてしまう。
あのときは本当にビックリしたし怖かったんだからね!
〈安全な時代ではなく、安全と思われる時代だ。未来は神すらもわからん。希望にかけたにすぎん。それに夫婦でもない。あのときは我が子を宿したいというメスが大勢いたのだ。まあ、あのとき孕んだのは一匹だけだったがな!〉
「メス……」
「最低ね……」
笑いながら自慢げに話す赤獄龍にドン引きだよ。
インプによると、特に当時は結婚という概念がそもそもなかったそう。
古代龍はドラゴンの中でも強さに重きを置く。男性からすればモテることは強さの証。女性側は強いドラゴンの子を産むことが一種のステータスとなるほどに誇らしいこと。
弱肉強食の世界で生き抜き、子孫を代々残すための手段というか遺伝子レベルで組み込まれている風習。ただ、今は夫婦となっているドラゴンもいるらしい。
「セナちゃん、いらっしゃい。アレには近付いちゃダメよ。穢れるわ」
私を抱きかかえたニキーダが冷たい視線を送っても、赤獄龍はなんのその。〈まあ、人族にはわからんだろうな〉なんて笑っていた。
一生わかりたくない。
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