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15章
羨望と嫉妬は紙一重
しおりを挟む高台にあるクレーターのような場所――それがインプが言っていた広場だった。
促されるままに浄化をかけると、クレーターのど真ん中が黒く色付いた。
そこへインプが手をかざす。するとボコッと地面から黒い玉が飛び出してきた。
火山に捕われていたドラゴンの周りに埋まっていたものより禍々しい。
〈なんだその忌々しい玉は!?〉
「イーッヒッヒ! 説明は後です。セナ様、次はあっちをお願いします。ほら、行きますよ」
再び飛び去って行ったインプを私達も追いかける。
赤獄龍のあった場所から半円を描くように三箇所浄化。その度にインプが埋められている黒い玉を取り出していた。
「次で最後です」
そうインプに言われて降り立ったのは里の中心から少し入り口よりにある開けた場所。
ここにも黒い玉が埋められていた。
「イッヒッヒ。セナ様、ありがとうございます。大変助かりました。さて、こうなった経緯を説明してもらいましょうかね」
目で合図された私達が少し下がったのを確認したインプは右手を高く掲げてパチンと鳴らす。
ピカッ! と一瞬発光したと思ったら、黒い玉が埋められていた場所にあの火山にいたドラゴンが現れた。
あのときと違うのは……胸元まで埋められていて、人型ドラゴンの頭の後ろからお猿さんが両耳を引っ張っていること。
お猿さんはぐるっと私達を見回して違う場所に移動させられたのに気が付いたのか、引っ付いていた頭から降りてスチャッと手を挙げた。
「ふむ。その様子だと有意義な情報は聞き出せなかったようですねぇ」
『キキッ!』
〈またお前らか! さっさとオレ様を解放しろ! あとあの食い物を寄越せ!〉
インプがやれやれとため息をつくのも気にせず、埋められたドラゴンは火山にいたときと同じように喚いた。
「うるさいわねぇ。あなた騒ぐしか脳がないの?」
〈なんだと!?〉
「事実でしょ」
〈人族の分際でオレ様をバカにする……む!?〉
ジュードさんの服をちょいちょいと引っ張り、ベビーカステラを出してもらう。それをニキーダと言い争っているドラゴンに向かって投げる。すると物の見事に食い付いた。
〈もっと寄越せ!〉
〈すまんが、何故この子がここに? この状況は?〉
〈ん? ジジイ? チッ……なんだ、まだくたばってなかったのか〉
不思議そうに聞くおじいさんを見て、ドラゴンは嫌そうに顔を顰めた。
おじいさんは心配そうなのに、ドラゴンの瞳は冷たくて温度差が激しい。
〈どういう意味だ?〉
〈……フンッ〉
不機嫌そうに鼻を鳴らすドラゴンはまともに答える気はなさそうだ。
「ねぇ、どうして死んでると思ったの? あの火山にいながら、この里のことがわかるようなスキルでもあるの? そんなすごいスキル持ってるなんて、すごいドラゴンなんだね!」
「(セナ様……!)」
「(大丈夫)」
小声で名前を呼ぶジルに一つ頷いて見せる。
〈ふわははは! そうだろう、そうだろう! オレ様は特別なのだ! なにせ 赤獄龍の血を引いているのだからな!〉
〈は? 何を――むぐ!〉
声を上げそうになった赤獄龍の口をインプが閉じさせた。
「赤獄龍ってなーに?」
〈人族はそんなことも知らないのか? まあ、そのはみ出し者と契約するくらいだもんな! オレ様が直々に教えてやろう! 赤獄龍は神の使いとして大昔に活躍した伝説のドラゴンだ!〉
「へぇー! すごいねー!」
パチパチと拍手をすると、ドラゴンは上機嫌に鼻を鳴らした。棒読みだったことは気付いていないみたい。
「(ぷっ……イテッ! 足踏むなよ)」
「(せっかくセナっちが聞き出してるんだから、笑っちゃダメでしょー!)」
吹き出したガルドさんにジュードさんが小声で注意してくれている。
「すご~いドラゴンなのはわかったけど、どうしておじいさんが亡くなってるって思ったの?」
〈それはな、オレ様がこの里の龍から魔力を吸い取ってるからよ!〉
「吸い取る? そんなすごいことどうやってやるの?」
〈オレ様はモテるからな!〉
「えぇ? よくわかんないよ。私でもわかるように教えて?」
〈それを寄越せば話してやらんこともない〉
「あ、ベビーカステラね。はい! もういっちょ、はい!」
立て続けに投げたベビーカステラをパクンパクンとキャッチした彼は、口の周りをペロリと舐めてから話始めた。
――火山で休んでいたとき、一人の人族が現れた。その人は古代龍のファンだという。褒めちぎられて気をよくしたドラゴンは自分の身の上話を聞かせた。
するとその人物は「あなた様をコケにした里の者に復讐を」「あなた様は世界中に名を轟かせるに相応しい方」と甘い言葉を何日も何日も力説。そして「強くなるお手伝いをしたい」と魔道具化した魔石を持ってきた――
「それはこれですね?」
〈な!? 何故お前が持っている!〉
「イッヒッヒ。当たりのようですねぇ」
〈何故そのようなことを……〉
〈フンッ。オレ様ではなく、このはみ出し者ばかり特別扱いするからだろう!〉
〈どこをどう見てそう思ったのか……里一番苦労していたというのに……〉
おじいさんは悲しそうに目を伏せ、兄者が納得できないと口を開く。
〈……拾い子だと邪険にされ、里の中心に住むことも許されず、自分だけで狩った獲物すらも奪われていたのが特別扱いだったと?〉
〈そうだ! 里の者はいつもこいつの話ばかり。大体、アニキもジイもオレ様よりこいつだっただろう! オレ様がいち早く人化できるようになっても〝すごいね〟で終わり……〉
いや、普通に褒められてるじゃん。
つまり、邪険にされているのをみんなに構われていると勘違い。で、自分をもっと褒めて欲しかったってこと? 完全にグレンに対してのヤキモチとしか思えないんだけど。っていうか、いくら捨て子だからってグレンへの扱い酷くない? おじいさんも兄者もなんでそれを咎めないの? イメージ変わるわぁ……
「((イッヒッヒ。セナ様、ヴィエルディーオ様から受け取ったモノをアレに食べさせてください))」
「!」
「イーッヒッヒ!」
気を抜いていたときにいきなり念話が飛んできてビクッと反応したら、原因であるインプに笑われた。
んもう、ビックリしたじゃんね。
「とりあえず……話してくれたから、残りのベビーカステラあげるね」
〈さっさと寄越せ!〉
人族を嫌ってるわりには疑いもせずに食べるんだよね……怒りの矛先もグレンじゃなくて里の龍っていうのも珍しいパターンな気がする。
一つ、二つと投げ、バレないようにおばあちゃんから渡された直径二センチほどの白い玉を紛れさす。
連続で投げたためか、丸呑みしていたっぽいドラゴンからは文句が飛んでくることはなかった。
「イッヒッヒ。眠ってもらいましょうかね」
『キキッ!』
〈ガッ……!〉
元気よく手を挙げた小猿が埋まっているドラゴンにゲンコツを叩き込む。
ゴン! と痛そうな音がして、ドラゴンが白目を剥いた。
うわ……痛そう……
インプはそんなドラゴンを一瞥しただけで、口早に私達がここへ来るに至った理由を説明。それを聞いたおじいさんは納得したように頷いた。
〈なるほど。そういうことか。関係ない人族に迷惑をかけていたとは……一族を代表して謝罪する〉
「あ、あぁ。セナのおかげで魔力も扱えるようになった。それに古代龍と敵対する気はない。その謝罪受け入れよう」
頭を下げられたアデトア君はガチガチに緊張した様子でおじいさんに答えた。
仰々しく頷いていたものの、ガルドさんにおぶわれたまま。威厳はない。
ごめん、アデトア君! ちょっと面白かったの。睨まないでぇぇぇ。
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