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15章
雨乞い
しおりを挟む「イッヒッヒ。セナ様にはアイドルとの恋と言った方がわかりやすいかもしれませんねぇ」
「……アイドル……なるほど、ね」
そういえば会社にいたわ。歌って踊るイケメン集団のグループが大好きすぎて「結婚できたら最高だけど、無理なのはわかるから推しの遺伝子を持った子が欲しい!」と力説していた子が。
「イッヒッヒ。もう一つ補足しますと、婚姻関係になくとも産まれた子は両方の親に育てられます」
「あ、そうなの?」
「えぇ。少なくともこやつはその辺しっかりしていますよ。自分のケガよりもグレンさんを安全な時代に送ってくれと頼んでいたくらいですから」
〈当たり前だ。せっかく産まれた我が子が醜い争いに巻き込まれ、戦いの道具にされたらかなわんだろう〉
「なんだ、事実婚と変わらないじゃん」
てっきり産ませるだけ産ませて放置なのかと思ってたよ。
インプいわく、グレンはこの里に馴染めていなかったことと、記憶上での私との遭遇、人里での暮らしが長いことからそういう思考回路はないらしい。
それを聞いて安心したら〈我はセナにしか興味ない!〉と怒られた。
いや、それもそれでどうかと思うんだけど……グレンに影響がないなら気にしなくていいかな?
「それで、私達はもう帰っていいの?」
「セナ様に一つお願いがありまして」
「お願い?」
「イッヒッヒ。この島はコレの結界のせいで人を寄せ付けず、今では地図にも載っていません。セナ様であれば海からでも空からでも来られるでしょう。ここは龍の気が満ちる島、珍しい霊草があるんですよ。イッヒッヒ」
「うん? 話がよく見えないんだけど……」
「イーッヒッヒ! 簡単に言うと、雨を降らせて欲しいんです」
「……は?」
思わず素で聞き返してしまった。
雨を降らせる魔法って伝説とか言われてるんじゃなかった? 水魔法で雲を発生させて……ってなんとなくやり方は想像できるけど、島全域ってキツくない? それに、おばあちゃんなら……
「イッヒッヒ。それは可能ではありますが、ワケがありまして」
『((……あぁ、なるほど。主様、雨そのものはアクエス様が降らせるらしいわ。で、またヴィエルディーオ様が体を貸して欲しいんだって。人族に助けられたという意識を植え付ける目的だそうよ))』
クラオルからの説明でようやく合点がいった。
なるほど。私がやったと見せかけるってことね。おばあちゃんに丸投げしてOKならさっさとそう言って欲しかったよ。
みんなには少し離れてもらい、私は広場の中心に立った。前回同様に小さなハープを取り出すと、スゥーっとおばあちゃんの気配が降りてきた。
ポロロンと弦を弾けば、空気が湿り気を帯びる。
あとは身を任せればいい。
雨と言えば悲しい系の曲が多い。前回は鎮魂歌だと思ったのにまさかのアニソンだったから、今回はギャグ系のアニソンかな? なんて思っていたのに……
(ここでまさかの童謡!? 違う世界のハズなのにレパートリー広すぎない!?)
私が心の中でツッコんだら、おばあちゃんの笑い声が聞こえた気がした。
草木がぐんぐんと伸び、木々が青々と甦る中、ピッチピッチでチャップチャップでランランランと歌詞に合わせて私の体はジャンプやスキップ。
(絶対おばあちゃん楽しんでるでしょ……)
前回と違うのは私の体から小さな光の粒子が出ていき、島全体に広がっていること。しかもそれは染み込むように消えていく。
リピートで三回ほど同じ曲を繰り返し、最後にビシャン! と水たまりに入ったところでおばあちゃんの気配が抜けて行った。
曲が終わってもサーッと小粒の雨は降り続いている。
雨の中歌いながら踊っていた私はビショビショ。
気が抜けたままクシャミをした瞬間、ジルとニキーダが吹っ飛んできて【ドライ】をかけた後カッパを着せられた。素晴らしきコンビネーションだった。
「これでいい?」
「イーッヒッヒ! 充分です。流石セナ様ですねぇ。呪は解け、島が生まれ変わったようです。魔物もそのうち戻るでしょう」
〈ハッハッハ! インプから聞いたときは俄には信じがたかったが、あの気配は本物だ。我が息子、よくぞ我が悲願を果たした!〉
――人族との契約など恥以外のなんでもない。痴れ者め――
あの三匹のドラゴンの呟きは雨に消されず、私達の耳にしっかり届いた。
それと同時に赤獄龍から怒気が膨れ上がる。
(あぁ……こりゃあのトリオ、地雷踏んだな……)
「そうだ、そのドラゴンさん達ちっちゃいグレンにいじわるしてたんだよ。あんなに、あんなに可愛かったのに……イジめるなんて酷いよね」
〈そういえばさっきそこの者が言ってたな……誰であろうと子供は宝だ! 我が子共々鍛え直してやる!〉
途中までは上手く誘導できたと思ったのに、予想外のところに行き着いて一瞬面食らってしまった。
「……え? グレンも?」
〈そうだ! 未だ成龍となっていないようだからな! 我が子なれば強くなければならん! そこな娘もその方がいいに決まっている!〉
「なんて横暴な……なんでそうなるかなぁ……」
〈何を言うか! お前も強さを求めて契約したんだろう?〉
「いや、あのときは……早く帰りたかったから?」
〈……は?〉
驚く赤獄龍にあのときのことをかいつまんで説明すると、言葉にできないのか口をパクパクさせていた。
「グレンがグレンだから好きになったんであって、強さは関係ないよ。今のままでも充分強いし」
〈……し、しかし他の……〉
「グレン以外の古代龍と会ったのって火山にいた人だけ。そんな簡単にポンポン遭遇しないでしょ? 人族嫌いみたいだし」
この里もグレンが来たいと言わなければ来る予定はない。
拒否る気満々で話をしていたら、ずっと黙っていたグレンが言いにくそうに私を呼んだ。
〈……セナ、我はあいつらにセナがバカにされるのは我慢ならん。親だとは認めないが、強くなれるならやってみたい〉
「そっか……私のことは気にしなくてもいいんだけど、グレンがやりたいなら応援するよ」
いつなく不安そうなグレンにニッコリ微笑んでみせると、ホッとしたように微笑んでくれた。
鍛えるならおなかが空くだろうし、毎日お弁当作ってあげないとね!
応援ありがとうございます!
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