上 下
484 / 538
15章

雨乞い

しおりを挟む


「イッヒッヒ。セナ様にはアイドルとの恋と言った方がわかりやすいかもしれませんねぇ」
「……アイドル……なるほど、ね」

 そういえば会社にいたわ。歌って踊るイケメン集団のグループが大好きすぎて「結婚できたら最高だけど、無理なのはわかるから推しの遺伝子を持った子が欲しい!」と力説していた子が。

「イッヒッヒ。もう一つ補足しますと、婚姻関係になくとも産まれた子は両方の親に育てられます」
「あ、そうなの?」
「えぇ。少なくともこやつはその辺しっかりしていますよ。自分のケガよりもグレンさんを安全な時代に送ってくれと頼んでいたくらいですから」
〈当たり前だ。せっかく産まれた我が子が醜い争いに巻き込まれ、戦いの道具にされたらかなわんだろう〉
「なんだ、事実婚と変わらないじゃん」

 てっきり産ませるだけ産ませて放置なのかと思ってたよ。
 インプいわく、グレンはこの里に馴染めていなかったことと、記憶上での私との遭遇、人里での暮らしが長いことからそういう思考回路はないらしい。
 それを聞いて安心したら〈われはセナにしか興味ない!〉と怒られた。
 いや、それもそれでどうかと思うんだけど……グレンに影響がないなら気にしなくていいかな?

「それで、私達はもう帰っていいの?」
「セナ様に一つお願いがありまして」
「お願い?」
「イッヒッヒ。この島はの結界のせいで人を寄せ付けず、今では地図にも載っていません。セナ様であれば海からでも空からでも来られるでしょう。ここは龍の気が満ちる島、珍しい霊草があるんですよ。イッヒッヒ」
「うん? 話がよく見えないんだけど……」
「イーッヒッヒ! 簡単に言うと、雨を降らせて欲しいんです」
「……は?」

 思わず素で聞き返してしまった。
 雨を降らせる魔法って伝説とか言われてるんじゃなかった? 水魔法で雲を発生させて……ってなんとなくやり方は想像できるけど、島全域ってキツくない? それに、おばあちゃんなら……

「イッヒッヒ。それは可能ではありますが、ワケがありまして」
『((……あぁ、なるほど。主様、雨そのものはアクエス様が降らせるらしいわ。で、またヴィエルディーオ様が体を貸して欲しいんだって。人族に助けられたという意識を植え付ける目的だそうよ))』

 クラオルからの説明でようやく合点がいった。
 なるほど。私がやったと見せかけるってことね。おばあちゃんに丸投げしてOKならさっさとそう言って欲しかったよ。

 みんなには少し離れてもらい、私は広場の中心に立った。前回同様に小さなハープを取り出すと、スゥーっとおばあちゃんの気配が降りてきた。
 ポロロンと弦を弾けば、空気が湿り気を帯びる。
 あとは身を任せればいい。

 雨と言えば悲しい系の曲が多い。前回は鎮魂歌レクイエムだと思ったのにまさかのアニソンだったから、今回はギャグ系のアニソンかな? なんて思っていたのに……
(ここでまさかの童謡!? 違う世界のハズなのにレパートリー広すぎない!?)
 私が心の中でツッコんだら、おばあちゃんの笑い声が聞こえた気がした。

 草木がぐんぐんと伸び、木々が青々と甦る中、ピッチピッチでチャップチャップでランランランと歌詞に合わせて私の体はジャンプやスキップ。
(絶対おばあちゃん楽しんでるでしょ……)
 前回と違うのは私の体から小さな光の粒子が出ていき、島全体に広がっていること。しかもそれは染み込むように消えていく。
 リピートで三回ほど同じ曲を繰り返し、最後にビシャン! と水たまりに入ったところでおばあちゃんの気配が抜けて行った。

 曲が終わってもサーッと小粒の雨は降り続いている。
 雨の中歌いながら踊っていた私はビショビショ。
 気が抜けたままクシャミをした瞬間、ジルとニキーダが吹っ飛んできて【ドライ】をかけた後カッパを着せられた。素晴らしきコンビネーションだった。

「これでいい?」
「イーッヒッヒ! 充分です。流石セナ様ですねぇ。しゅは解け、島が生まれ変わったようです。魔物もそのうち戻るでしょう」
〈ハッハッハ! インプから聞いたときはにわかには信じがたかったが、あの気配は本物だ。我が息子、よくぞ我が悲願を果たした!〉
――人族との契約など恥以外のなんでもない。痴れ者め――

 あの三匹のドラゴンの呟きは雨に消されず、私達の耳にしっかり届いた。
 それと同時に赤獄龍せきごくりゅうから怒気が膨れ上がる。
(あぁ……こりゃあのトリオ、地雷踏んだな……)

「そうだ、そのドラゴンさん達ちっちゃいグレンにいじわるしてたんだよ。あんなに、あんなに可愛かったのに……イジめるなんて酷いよね」
〈そういえばさっきそこの者が言ってたな……誰であろうと子供は宝だ! 我が子共々鍛え直してやる!〉

 途中までは上手く誘導できたと思ったのに、予想外のところに行き着いて一瞬面食らってしまった。

「……え? グレンも?」
〈そうだ! 未だ成龍となっていないようだからな! 我が子なれば強くなければならん! そこな娘もその方がいいに決まっている!〉
「なんて横暴な……なんでそうなるかなぁ……」
〈何を言うか! お前も強さを求めて契約したんだろう?〉
「いや、あのときは……早く帰りたかったから?」
〈……は?〉

 驚く赤獄龍せきごくりゅうにあのときのことをかいつまんで説明すると、言葉にできないのか口をパクパクさせていた。

「グレンがグレンだから好きになったんであって、強さは関係ないよ。今のままでも充分強いし」
〈……し、しかし他の……〉
「グレン以外の古代龍エンシェントドラゴンと会ったのって火山にいた人だけ。そんな簡単にポンポン遭遇しないでしょ? 人族嫌いみたいだし」

 この里もグレンが来たいと言わなければ来る予定はない。
 拒否る気満々で話をしていたら、ずっと黙っていたグレンが言いにくそうに私を呼んだ。

〈……セナ、われはあいつらにセナがバカにされるのは我慢ならん。親だとは認めないが、強くなれるならやってみたい〉
「そっか……私のことは気にしなくてもいいんだけど、グレンがやりたいなら応援するよ」

 いつなく不安そうなグレンにニッコリ微笑んでみせると、ホッとしたように微笑んでくれた。
 鍛えるならおなかが空くだろうし、毎日お弁当作ってあげないとね!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。